【倒産を追う】ウッドショック、住宅市場縮減…複合的要因が重なり収益性悪化
-
-
(有)東部産業
福岡県うきは市で創業から100年の歴史を有する製材会社・(有)東部産業は、2月25日までに事業を停止し、破産手続き申請の準備に入った。同社の経営の行き詰まりには、住宅市場の本格的な縮小といった、木材関連業界全体、そのサプライチェーンをめぐる複合的な要因が関係している。
創業から100年の節目で
(有)東部産業は久留米市で1924(大正13)年に創業。大正時代までは樽、桶の製造販売を手がけ、26(昭和元)年に建築材の製造販売へ業態転換し、90年に現所在地に移転した。
うきは市を含む福岡県南部は、古くから木材関連産業が盛んで事業者も多数存在してきたが、同社もそうした地域性に育まれてきた事業者の1つである。地元の浮羽地区や福岡県内はもちろんのこと、大分県日田や佐賀県伊万里などの森林組合・木材市場から主にスギの原木を調達。それを構造材や羽柄材(構造材を補う材料や下地材)などの製材、内装材などに加工し、建材商社やホームセンターなどに販売していた。
同社では、乾燥設備などに積極的な投資を実施していた。木材の加工においては、乾燥の度合いが反りや割れの発生など左右するため、製材事業において非常に重要な要素だからだ。投資の実施により、品質の高い製材品を製造・出荷できることの公的なお墨付きである「JAS認定工場」にもなっており、そのため取引先からは相応の信頼を得て事業を展開していた。
ただ、収益面で苦戦が続いていた。直近6期においては19年4月期、20年4月期に売上高13億円規模でそれぞれ2,000万円台の最終赤字を計上。ウッドショックによる原木・木材価格の高騰を受けた22年4月期こそ売上高約25億円を計上していたが、23年4月期、24年4月期は売上高が20億円台にまで下がり、それに併せて収益も低水準となった。その背景には、いくつかの複合的な要因があり、その1つが国内の原木・木材の価格の上昇傾向であった。
原料調達のコスト増 設備投資も重荷に
コロナ禍による物流混乱の影響で輸入材の価格が高騰した「ウッドショック」にともない、国内産の原木も高騰。その後、価格は落ち着いたが、それでもウッドショック以前よりは高い水準にある。以下は九州内の一部の森林組合が供給した1m2あたりの原木価格の推移だが、20年7月に約9,000円だったものが、ウッドショックを受けた21年7月には1万6,000円台となり、その後は上下しながら24年11月には1万3,000円台になるなど、この5年間の価格は概ね右肩上がりとなっている。
2つ目の要因は、この時期に資材高やエネルギーコスト、輸送費の上昇などが同時進行し、それらがさらに収益性を低下させたことだ。状況を悪化させた3つ目の要因は木材の最大の需要先である住宅市場の低迷で、供給量が減少し、収益の減少につながったのである。
また、住宅事業者間のコスト競争が激化し、なかでも供給量が多いローコストハウスビルダー(パワービルダー)が競争力を維持するため、木材調達コストの上昇を忌避する状況にあった。つまりはハウスビルダーに製材品を供給する企業にとっては価格転嫁が難しくなり、そのしわ寄せがめぐりめぐって東部産業におよび、同社の売上の減少、収益性が悪化するかたちとなり、ついには資金繰りに行き詰まったという構図だ。
変わるサプライチェーン
もともと、生産効率が高い大規模な製材所は宮崎県や鹿児島県などに集中しており、それは大手資本などが出資したものもある。一方、福岡県には中小規模の独立系の製材所がほとんどな状況で、同社もその例に漏れず、積極的に行ってきた設備投資も重荷になった。
なお、浮羽地区には戦後のピーク時には100社以上の製材所があったが、現在は十数社にまで減少している。売上の減少、収益性の悪化に加え、後継者問題を抱える製材所もある。これ以上、製材所が減ると地場産業の地盤沈下がさらに進み、地域の活力が一層失われてしまうという懸念もある。
製材業は木材のサプライチェーンのなかでは川中になり、川上が林業など、川下がハウスビルダーや建設会社、設計事務所などにあたる。現状では、それぞれの業界、企業がそれぞれの立場や思惑でバラバラにサプライチェーンのなかで動いており、同社は住宅産業という川下における環境変化の影響を強く受けたかたちだ。このため、従来型のビジネススタイルを継続する事業者は、製材業だけでなくこのサプライチェーンのなかで増えていくことが予想される。
ただ、一方では非住宅、事務所やビルなどの施設系建築物の木造・木質化の動きが近年、徐々に拡大。今後はさらに広がりそうな情勢であり、サプライチェーンは非住宅にも合わせたかたちにシフトすることが予想される。そのなかで、適正なビジネススタイルを構築できるか、具体的には川上・川中・川下の状況を的確につかむ事業者が今後、生き残っていくことになりそうだ。
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:村田充
所在地:福岡県うきは市吉井町富永1779-1
設 立:1992年12月
資本金:300万円
売上高:(24/4)約20億円法人名
関連記事
2025年2月25日 13:402025年2月21日 15:302025年2月20日 13:002025年3月6日 12:002025年2月26日 13:302025年2月6日 11:002025年1月24日 18:10
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す