石破首相は「自民党解体」の引き金を引く「確信犯」か
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低空飛行を続けてきた石破茂首相が窮地に陥っている。3日夜に首相公邸で開いた自民党所属の衆議院議員1期生との会食に際し、首相事務所が1人10万円分の商品券を配っていたことが発覚し、野党のみならず、身内の自民党内からも批判が噴出しているからだ。一方で昨年10月の衆院選では裏金に関与した非公認者に2,000万円の支給を行い、森友問題では、旧安倍派の反発を承知で財務省の文書開示を決めるなど、率先して党の分裂を促しているようにも見える。
新聞各社の調査で内閣支持率急落
石破首相 朝日・毎日・読売の新聞各社が14日から16日にかけて実施した世論調査で、軒並み内閣支持率が急落した。その概要は次の通り。
朝日新聞が15、16日に電話で実施した全国世論調査によると、石破内閣の支持率は26%で、前回2月調査の40%から大幅に下落し、昨年10月の内閣発足以降で最低となった。不支持率は前回44%から59%と大きく上昇した。
毎日新聞は、朝日と同じく15、16日、調査を行った。石破内閣の支持率は、2月に行った前回調査の30%から23%と急落した。不支持率は前回調査(54%)から10ポイント増加し64%であった。
読売新聞がNNN(日本テレビ系)と合同で14日から16日に実施した調査では、石破内閣の支持率は、昨年10月の内閣発足から最低の31%で、2月調査の39%から大きく下落した。不支持率は58%で、前回の43%より大きく上昇した。
各社調査方式が異なっており、単純な比較はできないものの、いずれも内閣支持率が急落し、一般的に政権を維持するうえで「危険水域」と呼ばれる水準となった。
一方で、朝日新聞の調査では、商品券問題を受けて石破茂首相は、首相を辞任すべきだと思うかとの質問に対し「その必要はない」が60%で「やめるべきだ」との32%を上回っている。内閣支持率の急落と、「辞任の必要はない」との結果は、矛盾を感じるが、石破首相に対してまだ一抹の期待感があるということだろうか。
問題の発端である商品券の配布について、整理しておきたい。今月3日の首相との会食には自民の1期生15人が出席。首相と新人議員のほか、林芳正官房長官と2人の副長官が同席。首相の地元・山陰地方の食材を使った料理がふるまわれたという。会費は全員私費で1人あたり、1万5,000円であった。
会食開始前に首相事務所の秘書が各事務所を訪れ、商品券を渡したという。なお、多くの議員は事後に返却したもようだ。政治資金規正法は、個人が政治家個人の政治活動に対して金銭および有価証券を寄付することを禁止している。商品券はもちろん「有価証券」に含まれる。
13日夜、緊急に行われた会見で石破首相は「私自身のポケットマネーで用意した」と述べ、自らの指示によるものだと認めた。議員への商品券配布は「初めてではない」とも語り「会食のおみやげ代わりに、ご家族へのねぎらいなどの観点から、私自身のポケットマネーで用意した」と説明した。
「本当にポケットマネーなのか、官房機密費では?」との疑問はあるが、ここまで問題が広がったのは、石破首相が「カネの問題に縁が薄い」と思われていたなかで、「心付けの配布」を行ったことにある。政界で石破首相の「付き合いの悪さ」は広く知られている。
旧安倍派を中心とする「政治とカネ」の問題が取りざたされているなか、発覚すれば炎上しかねない行為をしたところに、自らの手で(旧安倍派を中心とした)自民党の幕引きを進めようとする石破首相の深層心理が感じられるのは私だけだろうか。
森友学園公文書の開示決定
先月6日、石破首相は訪米直前に、森友学園に関する財務省の公文書改ざん問題をめぐり、文書不開示とした国の決定を取り消した大阪高裁判決を受け入れ、上告を断念することを決めた。
加藤勝信財務大臣は14日の閣議後の記者会見で、「国会で行った説明に関して追加的な資料が出せないかという話があり、そういった要望に応えたい。1カ月をめどに開示するというなかでどういった文書があるかといった話があるのでそれが分かるような資料をいま、調整している」と述べ、開示対象文書は約2,000ページにおよぶことも明らかにしている。
安倍晋三元首相への批判が高まったのは森友学園問題で、旧安倍派を中心とする安倍シンパにとっては公開されたくない内容も含まれる可能性がある。石破首相は、2018年の自民党総裁選直前に保守系言論誌『月刊日本』(18年9月号)で次のように述べていた。
「政治は誠実で公正で公平で正直でなければなりません。(中略)安倍総理自身は誠実で公正であるかもしれませんが、国民の多くには疑念が残っている。安倍総理は『政治は結果だ』とよくおっしゃいます。そうであれば、国民の間に広がる不信感もまた、政治の結果と言われても仕方がないのではないでしょうか」
この発言は森友問題を念頭に置いた発言とみられるが、当時は「安倍一強」の時期であり、安倍氏に近い議員などから「後ろから鉄砲を撃つ」などと強い批判を受けた。石破首相としては、かつての自民党は、政争は激しかったが懐深く、信義を大事にしてきたはずではなかったかとの思いがあったのだろう。
自民党内抗争の歴史
石破首相は田中角栄元首相を尊敬していることを公言しているが、田中元首相の旧田中派に由来する旧経世会(平成研究会・茂木派)と、安倍元首相の清和会(安倍派)は1970年代に「角福戦争」と呼ばれた一大政争を繰り広げた。安倍元首相を要職に引き上げた小泉純一郎元首相は、福田赳夫元首相の秘書を務めた。
90年代後半までは旧経世会の系譜をひく平成研や宏池会(岸田派)が権力を掌握しており、清和会は、非主流派に置かれていた。公共事業は旧経世会や宏池会が握り、清和会は幼稚園を含む学校関係や宗教団体を支持基盤としていた。
旧安倍派が権力を握るのは2000年に小渕恵三元首相の逝去で、清和会出身の森喜朗氏が首相に就任し、加藤紘一・山崎拓両氏の「加藤の乱」後に、小泉氏が首相となって以降である。「自民党をぶっ壊す」「抵抗勢力と戦う」という小泉氏のワンフレーズ・ポリティクスは、旧経世会と利権構造を解体するという意味である。
自民党が急速に右寄りになるのは、小泉政権下で、非主流派に追いやられた野中広務元官房長官(旧・経世会)の政界引退以降だ。派閥は違うが野中氏に近かったのが、福岡県南出身の古賀誠元幹事長である。
自民党といっても幅が広く、保守色の強い人から、リベラル傾向の人までいた。小泉政権以降、郵政民営化法案に際して、反対票を投じた議員が除名され、対抗馬を立てられたことで、党執行部に直言する自民党議員は急減した。
石破首相は、元防衛大臣で政策はタカ派といってよいが、安倍元首相の「天敵」とされ、長らく非主流派に置かれた。長らく冷や飯を食わされたことへの思いは、想像以上のものがあるだろう。
とはいえ、自民党総裁でもある石破首相は、一定の勢力を持つ旧安倍派を中心とした保守系に配慮する必要がある。そもそも首相に就任できたのも岸田文雄前首相らが、右寄りの高市早苗元経済安保相を敬遠して、石破氏に乗ったからだ。党内基盤が脆弱な石破首相は、党内だけでも各方面に配慮する必要がある。
しかし、腹のなかは、清和会政権でおかしくなった自民党を“ガラガラポン”として、かつての党の姿を取り戻そうとしているのではないか。7月の参院選が近づくなか、「政治とカネ」の問題が収まる気配はない。このタイミングで商品券を渡せば、情報が洩れ、騒ぎになることを認識していなかったとは思えない。案の定、旧安倍派を中心とした保守系議員が、石破おろしの動きを始めた。だが、首相の顔を替えれば、良くなるという話ではない。
石破首相の本心は日本の自主独立
目を転じれば、国内情勢だけでなく、国際情勢も急変している。トランプ氏が大統領に返り咲き、再び自国ファーストのやり方を押し付けるようになった。先日のゼレンスキー・ウクライナ大統領との会談は決裂したが、国際協調路線を否定した行動に欧州諸国は反発している。
日本にとって他人ごとではない。トランプ大統領が国防次官に指名したコルビー氏が「日本が防衛費を国内総生産(GDP)比で少なくとも3%にすべき」と議会公聴会で述べたように軍事面の対日要求は強まるだろう。
石破首相は総裁選で「日米地位協定の見直し」に言及していたが、本心は日本の自主独立にあるという。前出の『月刊日本』は石破首相就任後、たびたび「日米地位協定見直し」に期待する趣旨の記事を掲載している。
「戦後レジームの見直し」を掲げた安倍元首相も、アメリカタブーには踏み込めなかった。岸田前首相はひたすらアメリカの顔色を伺うことに終始した。
月内にも東京地裁から解散命令が出されるともいわれる旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との「腐れ縁」も、共産国家・ソ連や中国に対抗すべく、安倍氏の祖父・岸信介元首相や笹川良一氏らが「国際勝共連合」の結成を後押ししたことに始まる。背後には、韓国と日本を「防共の砦」にしたいアメリカの意向があったといわれる。
教団はアメリカと自民党の庇護のもと、善良な日本人の先の戦争や朝鮮半島支配に対する贖罪意識を利用して高額な献金を要求、その結果、多くの家庭が崩壊した。その積もり積もった恨みが安倍元首相の事件に発展し、そこから自民党の転落が始まった。
今年は戦後80年の節目であるが、自民党にとっても1955年の結党から70年目という節目の年でもある。同党の歴史は党内抗争とともに、政権を維持するために対米関係に腐心してきたといってよい。厳しい国民生活のなか、財務省への抗議活動が連日行われているが、これは「70年にわたる自民党政治を解体せよ」との声でもある。石破首相は、自らの手で自民党解体に進むか、それとも党の再生へと進むのだろうか。
【近藤将勝】
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