政治経済学者 植草一秀
「サナエトークン」についての金融庁の対応が不透明だ。国に登録せずに暗号資産の販売や媒介を行うと資金決済法や金融商品取引法違反に問われる。日本国内で暗号資産の売買や交換、それらの媒介・代理を業として行うには、金融庁・財務局への「暗号資産交換業者」としての登録が必須。無登録で事前販売を行うと資金決済法違反に該当する。
暗号資産の取引規制は金融商品取引法の枠組みへの移行が進んでおり、発行者の情報開示義務やインサイダー取引規制などが整備され、法規制がより厳格化されている。罰則法令違反に対する罰則は、無登録で販売した場合、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科される。
さらに、この現行の罰則規定を強化する方針がすでに示されている。現行の「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(またはその両方)」が「10年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金(またはその両方)」に引き上げられる方針がすでに示されている。
「サナエトークン」の発行事業者は資金決済法上の「暗号資産交換業者」としての登録をしていなかったと伝えられている。これは明らかに資金決済法違反である。さらに発行体は事前販売をしていたと見られている。
「サナエトークン」の情報が一般に開示されたのは2月25日。「なんか、すげぇトークン出すらしいじゃん!」これは、2月25日に公開されたYouTubeチャンネル「REAL VALUE」の動画のひとこま。この発言で「サナエトークン」を話題にしたのは堀江貴文氏。溝口勇児氏が運営する「NoBorder」によるプロジェクト「Japan is Back」の一環として、同日に発行された「サナエトークン」の宣伝が番組で行われた。
「サナエトークン」は同日発行された暗号資産=仮想通貨である。「Japan is Back」公式サイトによると、同プロジェクトは、DAO(=ブロックチェーン技術)とAIなどのテクノロジーを掛け合わせた、“民主主義をアップデートする試み”。「NoBorder」のアプリでユーザーから寄せられた声を集積し、それを政策立案者に届けるという。そして、ユーザーの貢献量に対するインセンティブとして、高市首相の名前を用いた「サナエトークン」が発行される仕組みとのこと。堀江氏が「サナエトークン」の話題を振ると溝口氏は「実は高市さんサイドとはコミュニケーションを取らせていただいている」と「サナエトークン」と高市首相サイドとのつながりを強調した。さらに、高市氏を「REAL VALUE」関連の会合に呼ぶ段取りをつけていると述べた。
さらに、高市氏の事務所後援会が運営するXアカウント「【公認】チームサナエが日本を変える」が、この2月25日に
《民主主義をアップデートし、最先端テクノロジーで国民の声を政治へ届ける挑戦です。コミュニティ提案により実現した『SANAE TOKEN』という新たなインセンティブ設計も注目されています》
と宣伝をしていた。
また、2月25日に公開されたYouTubeチャンネル「REAL VALUE」には京都大学教授の藤井聡氏が出演して次のように述べた。
「(プロジェクトは)民主主義をより開かれた形にアップデートする。
この空気が動いている今、構想を形にすることに意味があると判断し、トークン発行チームもスピード感を持って動いてくれたみたい。
これを社会実験としてやってみたらどうかと、溝口さんにも提案させていただいた。」
藤井氏が「サナエトークン」について、社会実験としてやってみたらどうかと溝口氏に提案したと明言している。
2月25日の動画公開を契機に「サナエトークン」の価格は初値から30倍に急騰。直後に急落した。あらかじめ保有していた投資者が動画公開によって価格が急騰した局面で売り抜けた可能性が高い。その後、3月2日に高市首相サイドが関与を否定するXを投稿して価格は暴落した。動画で釣られて資金を投下した投資者は巨額損失に直面した。まずは、金融庁がサナエトークンの無認可販売等について厳正な対応を示し、刑事告発することが急務だ。
2003年の「りそなの闇」に際して、私はテレビの生放送番組において、りそなの公的資金による救済公表前のりそな銀行株売買手口を証券取引等監視委員会が検証する必要があると述べた。りそなを最終的に公的資金によって救済するシナリオは用意されていたとみられる。
一般投資家は「大銀行破たんもあり得る」との金融相発言を受けて、暴落価格の株式を投げ売りした。金融恐慌に突入すれば暴落価格の株式はただの紙くずになる。「紙くずよりまし」の判断で暴落価格の株式を投げ売りした。この状況下で「りそな銀行救済」を事前に知っていた者がいればどうなるか。投げ売りされる銀行株を購入すれば「濡れ手に粟」の巨大利益が転がり込んでくる。巨大なインサイダー取引が実行された疑いが濃厚である。
このことから私はテレビ番組で証券取引等監視委員会による売買手口検証を訴えた。しかし、証券取引等監視委員会は動かなかった。これが日本の現実なのだ。「サナエトークン」では、高市首相との関係性を前面に押し立てて仮想通貨の価格を吊り上げ、その局面で売り抜けるスキームがあらかじめ考案されていたのではないか。この問題が真相解明の突破口になる。
「サナエトークン」発行体が無認可であったなら、明らかに資金決済法違反になる。その場合、金融庁が刑事告発しないことは不当であり不正である。2003年のりそな救済の事例では証券取引等監視委員会が動かなかった。しかし、今回は金融庁が動かないことを許すわけにはいかない。金融庁が資金決済法違反で摘発し、刑事告発する必要がある。この過程で、「サナエトークン」を事前購入した者が誰であったのかが判明する。また、2月25日の番組放送後の価格高騰局面で誰が売り抜けたのかも明らかになる。
これが「動かぬ証拠」というものだ。全記録が残されていることから真相解明は困難でない。「サナエトークン」に関して高市事務所が単に利用されただけであったのか、それとも、高市事務所も「サナエトークン」売買に関与していたのかも明確になる。
仮に高市事務所が「サナエトークン」での「高値売り抜けプロジェクト」に利用されていたということになるなら、高市事務所の危機管理能力が問われることになる。高市内閣はインテリジェンス強化の政策を打ち出しているが、自分の事務所の危機管理もできない人物が国家の危機管理政策を担うのはギャグでしかない。
6月16日の国会では立憲民主党の森ゆうこ議員が、NoBorder DAOが発行した「サナエトークン」のプレセールス契約書を公表した。無登録で大口投資を募った疑いがあり、資金決済法違反の可能性を指摘。金融庁と警察に調査を求めた。高市首相は関与を否定しているが、12月17日のオンライン会議では「インセンティブ付与」のスキームとして付与したポイントを換金することについての説明も行われた模様。「サナエトークン」の名称は用いられていないが内容は同一である。実際に被害も発生している模様であり、金融庁は公正な対応を示す義務がある。
他方、高市首相の責任はこれだけでない。国会での「虚偽答弁」によって国会を大混乱に陥れている責任は重い。公設第一秘書の木下剛志氏とサナエトークン発行主宰者である松井健氏とは頻繁に連絡を取り合う関係であったことがほぼ明らかになっている。
高市氏は自身も秘書も松井健氏と接点がないと断言し続けた。「全然、私たちが知らない人」と表現して、国会で何度も「逆ギレ」してきた。ところが、結局、国会での説明を全面否定する事態に追い込まれている。首相としての資質を欠いていると言うほかない。外遊から帰国後、高市首相は大津波のように押し寄せる退陣要求に直面することになる。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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