【連載】コミュニティの自律経営(48)~コミュニティ政策の来し方行く末
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
連載の第1回はこちら。政におけるコミュニティ政策の来し方行く末
思えば、平成16年(2004)4月の自治協議会制度の発足から、2024年で満20年を迎える。令和4年(2022)には『福岡市共創による地域コミュニティ活性化条例』が施行され、持続可能な地域コミュニティの実現に向け、自治協議会や自治会・町内会の位置づけと、それを踏まえた地域への支援策が取りまとめられた。この20年の間、コミュニティ政策についての累次の検証、検討が行われ、市のコミュニティ(への)施策としては1つの到達点としているのかもしれない。
僕は「コミュニティの自律経営」を行政の最終目標とする提言を出した経営管理委員会の事務局を担当し、その後の経営補佐部では、町世話人制度の廃止、自治協議会制度の立ち上げの議論に参画し、市職員としての最後のポストが校区自治協議会や公民館活動をサポートする地域支援課を所管する区政推進部長であったことは先に述べた通りである。
そして今、生まれ育ったまちの町内会長職を人生の集大成として思い定め、校区自治協議会にも参画している。こうしたキャリアを通して、僕の目に映る福岡市のコミュニティ政策の過去、現在、未来について総括しておきたい。<自治協議会制度のこれまでとこれから>
平成16年(2004)の自治協議会制度発足当初の見立てでは、4年ほどをかけて全校区に設置できればと考えられていたが、予想を超えるペースで協議が進み、半年後には8割の校区で自治協議会が設置されていった。これは、福岡市では小学校区レベルでの自治連合組織がしっかり根付いていたことや設立準備委員会を組織するなど、まちづくりに取り組んでいこうという機運が生まれていたことも無視できないが、一方で「部会制」や「並立制」などの組織モデルを提示したことも、設立の促進(過去の調べでは、部会制40、並立制100)に影響を与えたのではないかと思われる。つくる難しさの一方での選ぶ容易さ、並立制が圧倒的に多いことでもわかりやすい。そのことは、降って湧いたような行政側のコミュニティ政策の大転換との意気込みに反し、自分たちの校区の課題とどう向き合い、どう解決していくのかとの本質的な問いに向きあう暇もないまま、半ば追い立てられるように、これまでの延長線上で組織づくりをしてしまった懸念が今も残る。
区役所における総合窓口としての地域支援部の設置により、従来のような市の組織ごとの縦割りの押しつけは改善されてきたものの、縦割りは行政の宿痾であり、区役所の予算の大半は各局からの令達予算で、区の権限や独自性は限られている。受け身の姿勢では、自治協議会も縦割りの事業を束ねただけの組織となってしまいがちである。
自治協や自治会/町内会の位置づけが今回の条例で規定され(僕は条例で定めるべきことなのか、判断がつきかねるのだが)、補助金の交付要件も緩和された今、改めて校区のビジョンをしっかりと描き、自らのまちのことは自らが決め、自らが行うという、攻めの姿勢が求められていると思うがどうだろうか。(※)
また、市にあっては、コミュニティ政策を市民局の専管と考えてはいないだろうか。少子高齢化や大規模災害の影響などから共助の重要性が再認識され、支え合いの基礎となる地域コミュニティのはたす役割への期待が増大していることは、行政の各分野に共通する課題である。従って、区への大胆な権限移譲など、市役所内での内なる分権化や市職員の仕事の仕組みや進め方の大転換が不可避であり、本来先決の課題のはずである。今こそ、20年前に「コミュニティの自律経営」を中核に据えて、政策、財政、行革を連動させようとした市政経営戦略の考え方が求められているのではないだろうか。
※不覚にも、わがまち香住丘校区では、自治協議会創設時に校区が目指すべき目標やその実現に向けて、みんなで一緒に取り組むべき活動を考えて行こうとする校区まちづくり会議が4回にわたって開催され、その成果は行動計画にまとめられ、各回毎にニュースすら発行されていたことを知らなかった(香住丘校区まちづくり会議ニュース2004 1~4号)。残念ながら、20年の歳月の経過で、校区内でそのことを知る人も少なくなっているのだが。
<コミュニティづくりの拠点としての公民館の在り方>
当時のコミュニティ政策の大転換の1つの柱が公民館のコミュニティ支援の拠点化であった。すべての小学校区に公民館が設置されているというのは、全国にも類例を見ない福岡市民にとって途轍もなく大きな資産であり、このヒト、モノ、カネをフルに活用しようと、150坪公民館への改築もスピードアップされた。
しかし、僕の目からはこの途轍もなく大きな資産がコミュニティづくりに十分に活かされてはいないと映る。公民館は昔も今もフルに活用されているが、公民館を使ったことがある市民の割合はおよそ3割であり、これは昔も今も同じである。「コミュニティの自律経営」を目指した山崎市長の2期目(平成14年/2002)の公約には、「公民館をコミュニティ支援の核とし、「まちづくり職」を設け、まちづくりの人材を育成する。まちづくり職は各公民館に配置する。」とある。ポイントはヒトだった。
市長退任後十数年を経た令和2年(2020)の香住丘公民館での講演の折にも、広太郎さんは、公民館に市の職員を配置すべきと話していた。仄聞するところによると、自治協初年度の平成16年(2004)の機構要求は大変で、各公民館へ職員を配置すれば、当時144館であり144人の新規増である。みんなで猛反対したそうで、公民館が区役所の所管になり、区のコミュニティ支援機能の一環で複数校区を担当する職員を配置することで整理がついたらしい。職員中心で要求したら、係長が36人もついてビックリしたとの話もある。
20年の歳月を経た今日、その地域支援係長の機能は、どうだろうか?各局からの情報を区役所で束ね、捌き、また担当する複数の校区からのよろず駆け込み寺機能で精一杯ではないだろうか。ファシリテート力やコーディネイト力の専門性を磨き、公民館を基盤とした「まちづくり職」としての機能を再構築すべきではないだろうか?
ちなみに落選した3期目の公約では、「公民館を自治協議会の活動拠点として明確に位置づけ、校区におけるまちづくり活動を支援し、地域の皆さんが気軽に立ち寄れるまちの情報ステーションとなる「校区まちづくり館(仮称)」とします。」とある。具体的にどのような姿を想定していたのか定かではないが、平成23年(2011)の「新ビジョン」づくりの取り組みで、中央区役所チームでは公民館を公設地域営の施設としての「まちのコラボステーション」化を提案していた(中央区2011)。地域コミュニティにとっての公民館のありようは今一度検討されて良いのではないだろうか。
その点からすると、今回の制度改正で、公民館の運営管理が地域支援課から生涯学習課に変更されたことは、地域支援課が自治会・町内会/自治協議会の支援にさらに注力するとの考えはうかがわれるものの、公民館を地域コミュニティの核にとの当初の方向性から逆行し元も子もなくすことにならないか懸念される。
一方で現場に目を向けると、当時公民館をコミュニティの支援の核とするために、公民館における自治協議会の事務スペースの確保も可能としていたが、今市内の公民館で、「自治協議会」の看板を出しているところがどれほどあるだろうか。僕は、公民館がコミュニティの拠点としてより一層活用されるためには、自治協議会側の働きかけがあってこそだと考える。まずは、公民館に「〇〇校区自治協議会」の看板を掲げ、それぞれの校区にとってどんな公民館が必要なのか、そこから始めてはいかがだろうか。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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