【トップインタビュー】市政のカギは「楽しむこと」 10年、20年先も夢のある伊佐市へ
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伊佐市長 橋本欣也 氏
2024年11月17日、鹿児島県伊佐市で行われた市長選は(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会への出向経験も有する現職の橋本欣也氏が2期目の当選をはたした。「夢ある伊佐市」をスローガンに駆け抜けた4年間。掲げた公約を達成し、引き続き同市民の支持を得た橋本氏に2期目にかける意気込みをうかがった。
公約実現のために駆け抜けた4年間
伊佐市長 橋本欣也 氏 ──初当選から4年、「夢ある伊佐」をテーマに市政に取り組まれました。
橋本欣也氏(以下、橋本) 伊佐市の職員として働いていた間に、このまちには多くの可能性が眠っていると感じていました。具体的には「食」「自然」「人」の3つです。人間にとって「食」は欠かせない要素であり、鹿児島県内随一の米どころである伊佐市には、農業を伸ばす余地が多分にあると考えています。
また、豊かな自然環境にはビジネスチャンスや人を惹きつける力が秘められています。さらに、地域のために何かしたいと考えてくださる市民の方々の能力も、もっと活かしたいという思いがありました。そうしたポテンシャルを1つひとつ伸ばしていくため、市長選出馬を決意したのです。新たな可能性に挑戦し、その意識や雰囲気をまち全体に広げていくことで、「夢ある伊佐」という笑顔あふれるまちを実現できるのではないかと考えています。
──子育て支援や教育政策へ注力している印象を受けます。
橋本 「教育日本一のまち」というのも私たちが掲げる大きなテーマの1つです。地域、学校、そして行政が一体となり、子どもの学力面のみならず精神面、心を育むことができる環境を目指しています。医療費については、中学生までの無償化を実現しました。現在、高校生までの医療費無償化実現に向けて準備を進めているところです。
教育に関しては、先進的な教育にも挑戦しています。たとえば教育用マインクラフト(ブロックを組み合わせて自由に冒険や建築などができるゲーム)の導入です。このゲームを通じて子どもたちは楽しみながらプログラミングを学ぶことができます。楽しいから、興味や可能性がどんどん広がっていく。そうやって身に着けた知識や技術には大きな価値があると思います。子どもたちが楽しみながら自主的に学ぶ環境を整えていきたいですね。教育用マインクラフトに関しては予算を増やし、来年度からは市内すべての小中学校に導入する予定です。
また、特別支援学校の誘致にも注力しました。2029年4月から開校することが決定しています。障がいのある子どもたちは現在、隣の町の学校へ通っていますが、これからは地元で通えるようになります。そして、彼らが卒業した後、自分の力で働き、地元で活躍できる環境を整えていきたいと考えています。地域コミュニティを強化し、障がいがある方もない方も笑顔で働けるフィールドを確立することで、伊佐市の産業も充実していくものと考えています。若い方々から伊佐市を子育ての場として選んでいただき、まちが活性化することを期待しています。
今期のテーマは「安心して働き稼げるまち」
──11月に再選を果たされました。2期目の4年間ではどのようなことに取り組むのでしょうか。
橋本 私が先の市長選で市民に訴えたのは「安心して働き稼げるまち」をつくろう、というものです。1期目では子育て政策に力を注ぎ、公約として掲げたことはほぼ達成できましたが、農業や畜産業といった一次産業へのテコ入れが十分ではなかったという反省があります。2期目は、まず一次産業の振興に力を入れていきたいと考えています。たとえば、伊佐市のブランド米「伊佐米」は県内では一定の知名度を得ていますが、全国的にはまだPRが足りないと感じています。非常においしいお米なので、多くの方々に味わっていただきたいですね。近年の米価上昇については、生産者米価が上昇したのであれば米農家にとっては追い風ですが、消費マインドの動向も気になります。伊佐市としては、現在の価格を維持しつつ、中間マージンをカットして生産者と消費者の双方にメリットがある仕組みを整えようと働きかけを一層強めていくつもりです。
また、菱刈鉱山から湧く温泉を活用したイチゴや花の温室栽培の実現可能性調査も大学等で進めています。農家と直接対話し、課題を共有しながら、米の価格安定や高付加価値作物の導入を支援していく考えです。畜産業は飼料費高騰の打撃を受けましたが、徐々に回復傾向にあります。伊佐市の牛は北海道から直接買い付けに来る業者がいるなど質が高く、都会から農業や畜産業に興味をもつ人々を呼び込む可能性も大いにあります。高齢化で後継者がいない農地と新規参入者をマッチングする仕組みづくりを進め、そこから生まれる地域コミュニティに期待を寄せています。
豊かな森林資源による林業も盛んで、若手経営者が率いる元気な会社が活躍しており、市としても後押ししていく方針です。さらに、企業誘致やインフラ整備にも取り組みます。伊佐市は周囲を山に囲まれた盆地ゆえに交通インフラが遅れており、「鹿児島の北海道」と呼ばれるほど道路の凍結が頻発します。隣接する街との間でしばしば通行止めが発生し、通勤にも支障が出ています。そうした道路の整備を進めることで生活課題を解決すると同時に、経済交流の活性化も図っていきたいと考えています。
──情報発信・PRが今後の課題となるのでしょうか。
橋本 伊佐市の高品質な農畜産物を広くPRすることは必須の課題です。近年は、日本有数の金鉱山を有する「金のまち」として菱刈鉱山のPRも積極的に進めています。鉱山を運営する住友金属鉱山㈱には、空港などに大型パネルを設置していただいたり、地域イベントに協賛していただいたりと、大いに力を貸してもらっています。企業の協力はとても心強いですね。
また、伊佐市に移住した若い世代がSNSで情報発信していることも、地域のPRに大きく貢献してくれています。空き家を購入してセルフリノベーションする様子や旅館に改装する投稿が広まり、興味を抱く人が増えています。空き家の活用を含め、田舎暮らしを望む若者が流入してくることに期待しています。市としても東京ゲームショウにブースを出展するなど、若い世代に向けたPR活動を積極的に行っています。
──移住に関する取り組みはどのように進めていますか。
橋本 私の知る限りでは、年間で十数組の方々が伊佐市に定住することを選んでくれました。都会の生活を離れ、農業をしたいという需要は確実に存在するという認識です。空き家バンクや地域おこし協力隊などの制度を利用しながら、市としてもその需要にリーチしていきたいと考えています。高齢化の進む農家と移住希望者とのマッチングシステムの構築で、耕作放棄地の防止や地域コミュニティの活性化を目指します。他所からきた住民を疎外するのではなく、温かく迎え入れ、ともに切磋琢磨できる伊佐市でありたいですね。
困難な道のりも楽しみながら進む
──伊佐市は、人口減少や空き家の増加など困難な課題も多いですが、市長にはあまり暗い印象を受けません。なぜでしょうか。
橋本 人口減少や高齢化はたしかに深刻な問題ですが、私はあまり悲観していません。悲観していても何も始まらないというのもありますが、重要なのは10年後、20年後の伊佐市を見据え、今できることを着実に実行していくことだと考えています。
以前、市内で従業員270名を抱える企業が撤退するという危機がありましたが、積極的に企業誘致活動を行った結果、その会社の跡地を活用して新たな企業に進出してもらうことができました。市民の協力あってのことですが、あきらめずに前向きにやることで結果はついてくるということを実感しました。そこで悲壮感のある表情をしていたらこの成果はなかったと思います。
私自身、(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会への出向経験を通じて、「仕事を楽しむこと」の大切さを学びました。福岡にいる間は多忙でしたが、企業の社長の方々のお世話や例会での業務など、目が回るような日々がむしろ充実感を与えてくれました。懸命に働くことで得られる楽しさが身につき、伊佐市に戻ってからもその姿勢のおかげで信頼できる仲間が自然と増えていったと思います。
やるべきことは山ほどありますし、1期目を通じてそれを痛感しました。だからこそ2期目に挑戦したのです。市民が笑顔で暮らせるまちを実現したいという想いで取り組んできたさまざまな施策を途切れさせたくありません。交通インフラの遅れや、まだまだ地元の産業や商品を十分に生かしきれていない現状など、解決すべき課題は多岐にわたります。
市民の皆さんを巻き込み、アピール材料をしっかりつくり上げ、それを市内外の皆さまに評価していただく。たしかに困難な道のりですが、やりさえすれば必ず伸びしろのある領域ばかりだと信じています。苦労は多いですが、それを楽しみながら進めていくことで、伊佐市はさらに良いまちへと成長していくと確信しています。
【若松大生】
<PROFILE>
橋本欣也(はしもと・きんや)
1964年、熊本県上益城郡矢部町(現・山都町)生まれ。熊本県立矢部高校卒業後、83年農林水産省林野庁大口営林署入署、92年大口市役所入庁、2000年(一社)福岡県中小企業経営者協会連合会へ出向(~02年)、20年11月に伊佐市長に就任。24年11月に再当選をはたす。伊佐市について
<基本データ>
名 称:伊佐市(イサシ)
法人番号:3000020462241
面 積:392.56㎢
人 口:2万2,637人
世帯数:1万2,392世帯
※2025年3月1日時点伊佐市は、鹿児島県の北部に位置する自然豊かな地域。林野が市のおよそ70.3%を占め、中心市街地は周囲を山に囲まれた盆地となっている。総面積の8.82%が農地であり、昼夜の寒暖差と豊富な水源を活かした農業が市の基盤産業となっている。とくに米作が盛んであり、地域のブランド米「伊佐米」は生産面積、生産量において県内一を誇り、品質・食味においても高く評価されている。また、市の東部には世界有数の高品位な金を産出する菱刈鉱山を有する。
人口動態
伊佐市の総人口は2万4,453人(令和2年度国勢調査)。うち、65歳以上の人口は1万166人にのぼり、総人口の約41.5%を占める。高齢化率が非常に高い一方、若者の市外への流出が多く、就職時期に戻ってくるケースが少ないこともあり、人口は減少傾向にある。国立社会保障・人口問題研究所情報室人口動向研究部が17年に公表した「日本の将来推計人口」によると、25年後には現在のおよそ40%減となる1万3,573万人まで減少するという推計がなされている。また、伊佐市は単身高齢者世帯の割合が総世帯の約23%を占め、一戸建世帯数・持ち家世帯数も全国平均よりも高くなっており、高齢者福祉の重要性や空き家戸数増加の懸念が年々高まってきている。
産業(2020年度調査より)
・第一次産業
伊佐市は農業を市の基幹産業と位置づけており、豊富な森林資源を活用した林業も盛んである。民間農林漁業の売上高は158億9,400万円で、寒暖差のある気候や豊かな水源を活かし、ブランド米「伊佐米」の生産が盛んに行われている。・第二次産業
伊佐市には世界有数の高品位な金を産出する菱刈鉱山があり、鉱業・採石業・砂利採取業の民間売上高は414億600万円に上る。これは新潟県長岡市(460億8,600万円)に次ぎ、全国2位の売上高となっている。・第三次産業
伊佐市の第三次産業の業種別人口を見ると、医療・福祉分野が多い点が特徴である。第三次産業の総従業者数6,312人のうち、医療・福祉分野は2,272人と約35.9%を占めている。法人名
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