【連載】コミュニティの自律経営(50)~「ふれあいかすみ号」の可能性

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 元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
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「ふれあいかすみ号」の可能性

 高齢社会の進展により、買い物難民の問題が大きな地域課題となってきている。我が香住丘校区もご多分に漏れずというか、丘陵地に拓かれたまちであるため、坂道が多く、道も狭く買い物支援の課題先進地だった。

 そうした折、福岡市の「地域との協働による移動支援モデル事業」の提案があり、真っ先に手を挙げ、買い物支援バス「ふれあいかすみ号」が走り出し、早7年目を迎えている。今は社会福祉協議会と連携しながら、今日まで述べ21,300人の校区住民の買い物支援を行ってきた。バスの運転や買い物の付き添いを校区住民のボランティアで支えているが、途中から校区内外の介護/医療事業者やいきいきセンターのスタッフの方々にも「香住丘校区買い物支援自動車運行協議会」にご参加いただくようになり、バスの運転や付き添いに当たっての介護/医療/福祉の専門的なノウハウの提供など、この事業の円滑な推進に大きく貢献いただいてきた。ここで生まれた関係性はやがて、校区防災訓練での専門知識に基づく災害時要支援者の介助(担架や車椅子からの移乗など)の実技指導や認知症講座での認知症声かけ訓練の指導/助言など、地域活動のさまざまなステージでの関係構築に発展。自治協議会/校区住民、介護、医療、福祉サービス事業所、社会福祉協議会がシームレスにつながる端緒となってきており、実践的な地域包括ケアの基盤を形成しつつある。

 最近では校区に所在する福岡女子大の研究室がゼミの実習を兼ねてボランティア参加するなど、校区内のさまざまなリソースやステイクホルダーを巻き込み、今や、買い物支援バス「ふれあいかすみ号」は、校区の宝物であり、その可能性が大いに期待される。

LFC香住ヶ丘との連携

 僕は、地方分権の担い手はNPOがポイントだとNPO法成立前から思い入れてきた。なので、コミュニティづくりを考えるとき、地縁型組織(町内会/自治会/自治協議会)とテーマ型組織(NPOなど)の共働/マッチングがとても大切であると頭では考えてきたが、町内会長として、自治協議会の役員としての実践を重ねて行くと、それが現実的な課題となってきた。「地域には課題がたくさんあるが、解決していくための専門知識やノウハウには欠けている一方で、NPOの存在すら知らないし、知っていてもなかなか信頼できない。NPO側からは地域にアプローチしたいが、切っ掛けがつかめない」とよく言われてきた。

 そんな折、わが家から歩いて3分のところに、ローカルフードサイクリング/循環生活研究所(以下LFCという)が立地していることがわかった。わが家もダンボールコンポストや菜園に木枠を置いてのコンポスト化はやっていたが、まさか拠点が家から3分のところにあったとは。偶然にも長年の友人であり、地域づくりのプロフェッショナルの吉田まりえさんが週に一回お手伝いにきていることがわかって、さっそく現地をお訪ねした。

 「生ゴミを堆肥化して、おいしい野菜をつくろう」のコンセプト通り、玄関周り、庭、屋上、みずみずしく美味しそうなたくさんの野菜や花々が育っていた。代表のたいら由以子さんのお話を聞いていると、目指すものは「半径2km圏内の小さな循環」で、半径2kmは、物事を自分ごとで捉えることができる範囲だからだそうである(かのアリストテレスは、「一目で見渡せる範囲」をポリスの理想的範囲としていた!)。半径2kmはまさに香住丘校区の区域にも符合する。インスピレーションがガンガン飛んだ。さっそく公民館に行って、コンポスト講座の実施を掛け合った。地縁型組織とテーマ型組織をつなぐ場と役割はやっぱり公民館が機能的にも空間的にもふさわしい。

〇6月25日(日) 町内BBQ大会にきてもらってLFCの取り組みを紹介。
〇9月30日(土) 香住ヶ丘6-3区、5区町内メンバーでのLFCの見学会実施。
〇10月26日(木) 公民館でのコンポスト講座『生ゴミと落ち葉で堆肥をつくろう~香住丘での楽しい循環生活のすすめ~』を開始し、現在連続講座として実施中。
〇2月6日(火) コミュニティガーデン(堆肥を持ち込み野菜を育てる)の土地が我が町内に隣接する5丁目内に見つかり、地主さんと使用貸借契約締結。「コミュニティガーデン 牧の鼻」と命名。
〇4月6日(土) 「コミュニティガーデン牧の鼻」の開所式を盛大に実施。

 地球沸騰化すら叫ばれる今日、「持続可能な栄養循環が私たちの生命を守る」とするLFCのミッションは地球温暖化対策の取り組みとしても大きな成果が期待できるが、町内に目を向けると、高齢化が進むなか、庭に植えられた果樹(ミカンや柿など)が収穫されずに、風に飛ばされて隣地に飛んだり、道路に転がって街を汚している。また落ち葉もとても掃ききれない。生ゴミだけではなく、落ち葉もコンポストの貴重な資源なので、これを集めてコンポスト化する取り組みは、地域課題の解決につながる。

 「生ゴミや落ち葉を堆肥化して、コミュニティガーデンで野菜や果物を育てる」という一見小さな取り組みは、子どもたちに楽しいあそび場を提供するし(貸し切りバスで遠くに行かずとも、家の近所で芋掘りもできる)、高齢者には生きがいや見守りの機会をもたらす。まずは小さく産んで大きく育てる。地縁型組織(町内会)には人がいて、テーマ型組織(LFC)には専門性がある。その両者の共働による「半径2kmの小さな循環」の経験知は、最初は蟻の一穴かもしれないが、ヨコ展開も大いに期待でき、まずは香住ヶ丘6-3区と5区の共働で成功体験を積み上げて、町内のみならず校区/自治協議会全体にも大きな波及効果をもたらすのではないかと期待している。かつての「筥崎まちづくり放談会」と箱崎/筥松校区自治協議会との関係性に学びたい。

(つづく)


<著者プロフィール>
吉村慎一
(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)

『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
https://azusashoin.shop-pro.jp/?pid=181693411

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