【業界を読む】米国、豪州、アジア、そして欧州へ 住宅大手による海外住宅事業の今

 国内の住宅市場が縮小傾向にあるなか、大手ハウスメーカーは海外での住宅供給に力を入れている。とくに積極的な展開を見せているのは積水ハウス(株)、住友林業(株)、大和ハウス工業(株)の3社で、その海外事業はすでに国内の戸建住宅事業の業績を上回る規模にまで成長するなど、大きな位置づけを占めるようになってきた。

過去の失敗を乗り越え

 2000年代初頭の話。当時はミサワホーム(株)が産業再生機構入りし、木造住宅大手で「割賦3社」と呼ばれていた太平住宅(株)、日本電建(株)、殖産住宅相互(株)が相次いで倒産するなど、住宅産業全体で再編の動きが活発化していたころで、住宅市場の先行きに不安が広がっていた。そこで、ある大手ハウスメーカーの経営者に海外での住宅販売の是非について問うたことがある。彼の回答は「それはありえない。なぜなら住宅産業はドメスティック産業だから」という旨であった。

 当時はまだ年間の新設住宅着工が120万戸レベルにあり、「勝ち組」と表されていたその企業では住宅販売が好調だった。わざわざ海外で住宅事業を展開する必要はないため、このような発言となっていたわけである。しかし、約20年以上の年月が経過した今、状況はまったく異なっている。そのハウスメーカーはこれまで、付加価値戦略による棟単価の上昇で売上高を増やしてきたが、販売棟数では明らかに苦戦を強いられるようになった。そこで、そのハウスメーカーは10年代半ばから各国の市場調査を開始し、20年代の初めころから海外進出を本格化。今では海外事業が重要な柱の1つとなり、収益にも強く貢献。継続的な成長を支えるものとなっている。

 実はかつて「ありえない」と言っていたのには、国内事業で成長性を維持できていたことのほかにも理由があった。ハウスメーカーのなかには海外で住宅供給に挑戦し、手ひどい痛手を負った経験があったためだ。たとえば、大和ハウス工業(株)は1970年代、アメリカやブラジルで住宅供給を行ったが、収益化に失敗し撤退。積水ハウス(株)はドイツで住宅供給を行ったが、これも同様で撤退。当時の田鍋健社長が「私の社長任期中の最大の失敗」と、後に出版された書籍で振り返るほどだった。海外での住宅供給はその後、同社にとって深い傷跡として残った。海外進出を志し一度は失敗した各社が当時重く受け止めた教訓は、日本の住宅と海外の住宅では住文化が大きく異なりそれが円滑な事業推進の足かせとなった、ということだった。住まいに関するニーズはもとより、気候風土や法制度も異なるため、彼らが培ってきたプレハブ(工業化)などの住宅供給の仕組みがうまく機能しなかったのだ。

国内住宅市場が縮小

 そうした状況から一転し、日本の住宅企業が海外での住宅事業に取り組むようになった背景には、やはり国内の住宅市場が縮小傾向となったことが大きな要因としてある。国土交通省がまとめた24年の建築着工統計調査報告によると、新設住宅着工戸数は約79万2,000戸となり、80万戸台を下回った。物価高や資材価格の高騰などによる住宅価格上昇、住宅ローン金利の上昇傾向などが住宅需給マインドを低下させたことが要因で、少子化の進行により今後はさらに市場縮小が継続するとの予測から、住宅事業者の海外シフトが顕著になったわけである。

 住宅企業の進出エリアは、アメリカや中国、東南アジアのほか、ヨーロッパなど、現在では広域にわたっているが、とくに各社が注力しているのがアメリカだ。もともと、日本に比べて新築住宅市場(24年の住宅着工件数は約136万4,000戸、暫定値)が大きく、さらに移民の増加などで新築住宅需要が比較的堅調であるからだ。とくに勢力を強めているのが積水ハウス、大和ハウス工業、住友林業㈱の3社。【表1~3】は各社の海外事業の業績推移をまとめたものである。この海外事業の数値には、戸建住宅事業のほか、共同住宅(マンション、賃貸住宅)を含む不動産事業や建材事業の数値も含まれているが、各社の事業の様子をイメージできる。いずれも、国内の戸建住宅供給が減少するなかで、海外事業を伸ばしていることがわかる。

 【表4】は、この3社がアメリカ市場でどのような立ち位置を築いているかをイメージできるようにしたものだ。現地の住宅建設業界雑誌「BUILDER」が発表した「2024 Builder 100」をベースにしたもので、100位以内に上記3社の傘下にあるハウスビルダー9社がランクインしている。各社は近年、現地法人の買収を進めており、積水ハウスは「Sekisui House」のほか5社、住友林業も同じく現地法人5社、大和ハウスは3社を通じて戸建住宅供給を行っている。アメリカには「D.R. Horton」「Lennar Corp.」という突出した販売規模を誇るハウスビルダーがあるが、積水ハウスと住友林業はそれぞれのグループ企業の合計販売戸数を合算すれば1万戸以上になり、これは全米でトップ10に入る規模となる。

米国で強まる日系企業の存在感

 また、3社を合計すると3万戸近くになり、これはトップ5に入るが、これらの数値は全米住宅市場における「日系企業」の存在感が高まっていることを表す。3社の現地法人はいずれも米国で一般的な2×4工法による住宅供給を行っており、これは前述した過去の失敗の経験に基づくものといえる。ただ、このうち「Sekisui House」は、2×4と日本で展開している「シャーウッド」シリーズの構造技術をミックスした住宅販売を展開し、独自色を出している事例もある。なお、3社の傘下ハウスビルダーは全て買収したもので、このほかにミサワホームや旭化成ホームズ(株)、飯田グループホールディングス(株)などが同様の手法によりアメリカ市場に参入している。

 アメリカ以外に目を移すと、進出先として有望視されているのはオーストラリアと東南アジアだ。オーストラリアは移民政策により総人口が増えており、慢性的な住宅不足の状況にある。人口は約2,660万人とアメリカや日本におよぶべくもないが、所得水準が高いことから、ハウスメーカーが得意とする付加価値が高い住宅の供給に有利な環境にある。加えて、日本と同様に注文住宅文化が根付いる。現地の在来工法は2×4工法だが、レンガ積み外壁の住宅が多いなど非合理的な施工を行う事業者が多く、そうした状況も日本のハウスメーカーの進出を後押しした。

 一方、東南アジアについては。タイやインドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンなどへの進出が行われている。これらの地域は経済発展により、富裕層と中間層による住宅ニーズが高まっていることが進出の背景にある。とくにインドネシアは約2億8,000万人の人口を抱えることから、市場としてとくに有望視されている。東アジアについては、住友林業は06年に韓国で戸建住宅事業を開始したが、すでに撤退。積水ハウスが11年に中国の瀋陽市に鉄骨住宅用の部材工場を建設するなどして進出していたが、22年以降、ほぼ撤退した状態にある。もちろん進出中の企業もあるが、ハウスメーカーの海外進出は、各国の政治・経済の状況や対日感情の動きを見ながら慎重に進められてきた経緯がある。

中堅企業の進出も

イメージ    ハウスメーカーが各国で供給する住宅のほとんどは現地の在来工法がメイン。アメリカやオーストラリアは2×4住宅、東南アジアはコンクリート系住宅といった具合だ。セキスイハイム(積水化学工業住宅カンパニー)は現地資本と共同で、タイ国内に工場を開設し鉄骨ユニット住宅を供給しているが、これは例外中の例外。前述したように、国や地域で求められる住宅の有り様が異なるためだ。たとえば、日本では木造軸組工法による住宅が最も供給量が多いが、これはそれが伝統工法を受け継いできたものだからである。

 ずいぶんと簡素化はされたが、この工法には独自の手法が数多くあり、海外で展開するとなると、現地で一から人材育成を行う必要があるなどハードルが高い。部分的に「日本流」を取り入れるケースもあり、大和ハウス工業がマレーシアで供給している戸建住宅には、同社の鉄骨プレハブ住宅で使用するパネルを採用するなどといった事例もある。ただ、重要なのは構造躯体のようなハードではなく、快適性や省エネ性、耐震性、施工合理化の手法といったそれぞれの国々の消費者・事業者が求めるソフトであり、だからこそ日本のハウスメーカーが供給している住宅が現地に受け入れられつつあるわけだ。

 ところで、西日本鉄道(株)は17日、アメリカ・テキサス州で賃貸集合住宅(312戸)の開発に着手したことを明らかにした。同社はすでにフィリピンやインドネシアなどで住宅供給を行っており、このことは地域の事業者でも海外での事業展開に乗り出す機運が高まっていることを表す。また、さらなるフロンティアとして、イギリスやオランダなど欧州に進出するハウスメーカーも見られるようになった。近年、海外における日本企業の存在感が希薄化しているとの指摘が相次いでいるが、こと住宅産業の分野ではむしろ存在感が高まりつつあるのだ。住宅産業が状況を生かしてより勢力を伸ばし、日本の世界的な地位の維持・向上に貢献できるくらい業容を拡大できるか、注目したいものである。

【田中直輝】

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