【連載3】生と死の分岐点:やはり最期は金次第
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夫婦で高級老人ホーム・マンション
経営者Aは若い時は女性スキャンダルを“まき散らして”評判になったが、誰しも経営に注力する際にはエネルギーが沸騰するものだから、ある程度致し方なかろう(と、経営者仲間として弁護しておく)。だが、あり余ったその情念を1人の愛人どころか複数にぶつけていくという面においてAのそれは並外れていた(と、部分的に弁護を留保しておく)。だが、残念ながら経営者としてのAのクライマックスは、実権を他人に奪い取られるかたちで終わった。多角経営の失敗が原因である。このように博愛と経営への執心ひとかたならぬAであるが、はて肝心のAの奥さんはそれをどう思っているのかと気に掛けずにはおれなかった。しかし、表向きこの夫婦は騒動を起こすことはなかった。
そのAも80歳を超えれば当然、会社の経営から離れることになる。Aの知人に最近の消息を尋ねた。「夫婦で仲良く高級老人ホームに入居している。三食付きで老後生活を送っているようだ。Aも女性関係が派手だったから奥さんには頭が上がらない。また奥さんも強かな人だよ。やはり老後の生活は金次第。高級老人ホームは結構、自由気ままに過ごせる。もちろん、病人にならないことが条件であるが――」。
老人ホームで有閑マダムたちがはしゃぐ
連載1で触れた通り、高級老人ホームに入居している我が友人(男)は糖尿病の悪化で歩行困難で、車椅子をスタッフに押してもらって応接広間に現れた。ところで、その広間ではマダムたち(老婆という印象がない、化粧もしっかりしている)6名がテレビを見ながら談笑していた。年齢は77~80歳であろうか。元気はつらつ。いろいろな話題が漏れ聞こえてくる。芸能人の話題で夢中になっていた。一方、この高級老人ホームに入居している60名のうち6名は男性である。ただし、全員病気気味だという。自身も歩行困難な我が友の見立てによると、「入居女性たちの30人ぐらいは元気でいるようだ」という。
このホームはどうやら単身入居システムらしい。ということは、応接広間にいた6名のマダムたちは恐らく連れ合いと死別したものと思われる。現在、日本人の女性と男性の平均寿命には6歳の差がある。旦那が年上であれば亭主の永眠後、妻は平均で8年ほど一人暮らし(子どもの家族と同居のケースは珍しい)になるのが宿命だ。一人暮らしとなった場合、「さぁ、住み処をどう確保するか」という問題を突きつけられる。自分で何でもできる元気な間は一人暮らしも楽しいが、いつまでもそれが続くとは限らない。
一般庶民は自立して生きることを宣言する
筆者の義姉は太宰府市の自宅で一人暮らしをしている。今年86歳。頭はしっかりしており、記憶力がさえていて舌を巻くばかりだ。ところが、さすがに最近は足腰の衰えが目立ち始めた。車で20分の場所に娘の家(旦那と娘2人の4人家族)がある。だから筆者は「週3日ぐらいは娘の家に滞在しなさいよ」と助言しているのだが、帰ってくる言葉はいつも同じ。「娘に迷惑をかけられない。できる限り自分で生きる」というものだ。この謙譲さと自立心は日本の庶民が最も自慢できるモラル観の1つではなかろうか。
戦略的有閑マダムという勝利者
連載1の我が友人の話にまた戻ろう。その高級老人ホームに入居している「6人のママたち」は、保証金4,000~5,000万円を積んで、さらに月額50万円の入居費を払うのだ。故人となった旦那が、会社勤めで終わっていたら現在の貴族待遇には縁が無かったであろう。彼女らマダムたちは、きっと独身時代から将来のことを真剣に考えて「将来を保証してくれる伴侶は誰か?」と吟味を積み重ねてきたのではないかと推察する。結果、人生の最終局面で理想の住み処を得たのではないか。いわば勝利者である。マダムたちはあと5年から8年は元気で人生を全うするだろう。一方、最後まで手持ちのお金が少ない庶民は「できるところまで自力で生きてみる」という大見得を切るしか選択の道がない。ただし、どちらの生き方が幸せかというのは、まったく別の問題だが…。
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