2024年11月22日( 金 )

現代の日本医療に必要とされるもの(3)

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カマチグループ 会長 蒲池 真澄 氏
九大病院第一内科 教授 赤司 浩一 氏

患者にとって必要な医療を保険適応内に

 赤司 最先端医療は、患者にとって必要な医療であることを示す事例があるごとに、国に証明しながら保険適応内診療になるように申請して、一般に広められていくものです。九大病院でも蒲池会長がおっしゃったような事例を繰り返しながら、優れた医療をより多くの患者に提供できるよう、間口を広げていくことに務めています。だが全部が認められるわけでもないので、救命を第一に考えると医局の負担が大きくなります。
 アメリカにも保険外治療はありますが、当事者が加入している保険内でできる治療しかやらない、と明確に線引きをしています。


カマチグループ 会長 蒲池 真澄 氏


 蒲池 ドイツも厳しい。当院で救急医療に回復リハを積極的に取り入れていこうとしたとき、日本ではまだこの仕組みは夜明けだから、と、アメリカとドイツの病院に視察に行きました。するとドイツでは、例えばこの部位の麻痺のリハビリは、ある地域だと治癒率が高いので、その地域の病院を受診するように、と振り分けられていたのです。つまり支払基金がどの患者はどの病院へ行くように、と指定するのです。ミュンヘンとハンブルグを視察しましたが、当時、ミュンヘンで人口200万ぐらいに対し病院は20病院ぐらいでした。今、福岡市は150万人で病院は現在149病院です。このようにドイツは病院へのアクセスの利便性は日本より少し劣ります。おかげで支払金も削減できているのでしょうし、患者の治癒率もより良くなるのでしょうが、そこまで支払基金が采配を振るってこそうまく行くものなのか、と驚いたものです。


 赤司 アメリカは民間主導型の医療保険システムですが、医療費の支払い金額にも限度があるので、やはりできるだけ良い医療技術を持った、効率良い病院に行くように采配されます。

フリーアクセスであることのメリットとデメリット

 ─―諸外国では医療を受ける側の自由はかなり制限されているのですね。


 赤司 しかし日本だと、目の前で苦しむ患者さんに最善の手を打った結果としても、別の意味での不自由さが生じ得ます。先ほどのようにこれ以上治療すると混合診療となる、という事態が生じた場合、そこで治療を止めると治療した前例があれば差別と見做される場合もあります。そのあたりの曖昧な不自由さが日本にはあります。
 アメリカはそれが起こり得ません。最先端治療を受けられるような高額保険に入り、それなりの金額を支払って自分の健康に投資していることが証明できれば、様々な治療を受ける権利がありますが、自己投資していないのであれば権利はない。判断基準はそれだけです。


 ―─ある意味、アメリカは公平な医療システムを造り上げて、明確な線引きをしていると言えますが、それで切り捨てられていくのは患者にとって…


 赤司 日本の場合、公的にカバーされている医療がかなりハイレベルなところまで行っているので、フリーアクセスでも医療の質に大差はありません。しかしその分医療費は嵩む一方です。さらに今、すべてではありませんが薬代が暴騰しているので、医療費はどんどん爆発していくことでしょう。どうやって抑制、セレクションしていくか、今の時点では見当がつきません。


 蒲池 そういう競争激化のために、薬の値段もですが株価も上昇していますね。投資家にとっても製薬会社は注目株です。ファイザーやジョンソン&ジョンソンなど、海外の医療関係大企業の株は買うと非常に儲かります。


 赤司 その2社は本当に世界のトップレベルですね。日本の製薬会社で世界レベルに追い付こうとしているのは武田薬品ですが、それでも両社の足元にも及びません。製薬会社の国際競争では日本は負けてしまっている感があります。日本の製薬会社は非常に体力が落ちています。他の産業、例えば自動車産業などであれば日本の技術はトップ3レベルかもしれませんが、製薬会社は10位以内にも入りません。


 ―─日本製は国際的には評価されていないのですか。


 赤司 昔は世界に求められる良い新薬が出ていました。武田薬品もそうですが、シオノギ製薬の抗生物質など、高く評価されていました。しかし今や世界規模で新薬開発競争が激化し、様々な新薬がどんどん出ているのに、日本の会社は国際化が十分にされていないため競争力がない。例えば、開発における各段階で何重もの審議と決済を経てようやく次の開発ステップに進めるというやり方です。これでは競争に勝てるわけがありません。

(つづく)
【聞き手・文:黒岩 理恵子】

 

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