natural naturalグループ代表
吉田登志夫 氏
natural naturalグループ代表・吉田登志夫氏に、息子である吉田幸一郎氏の福岡県知事選(2025年3月)後の政治活動、同グループの事業戦略(オーガニック食品の小売・畜産)、および両者の社会的・政治的理念のつながりを聞いた。幸一郎氏のれいわ新選組との関わり、登志夫氏の水俣病運動への従事やロンドン進出の背景、コロナ後のオーガニック市場の拡大についても話がおよんだ。
(聞き手:(株)データ・マックス代表取締役会長 児玉直)
1.吉田幸一郎氏の政治活動と今後の展望
──幸一郎氏は福岡6区で出馬する予定ですか?
吉田登志夫氏(以下、吉田) 息子の幸一郎が今年の福岡県知事選に立候補したので、いろいろなところから話がきています。彼は4年後の知事選に本格的に挑戦したいと考えていて、その前段階として、たとえば参議院選挙に出るのも1つの選択肢だと話しています。れいわ新選組から福岡選挙区での出馬を打診されましたが、知事選が終わったばかりなので断りました。れいわは野党のなかでは国民民主党に次ぐ勢いで、立憲民主党より支持率が高いと言われています。共産党も応援してくれて、ポスター貼りくらいは手伝ってくれました。しかし応援活動は皆無でした。
編集注※幸一郎氏は2025年3月の福岡県知事選で無所属(共産党・市民団体推薦)として立候補し、20万9,416票を獲得したが落選。幸一郎氏の政策(最低賃金1,500円、給食費無償化、ワンヘルス事業批判)は、natural naturalの理念(地域・自然・暮らし重視)と一致。れいわ新選組の打診は、幸一郎氏の国際経験(英国での教育、弁護士)と専門性(外交・法律)を評価したもの。
れいわ新選組と全国比例区
──幸一郎さんの経歴なら外交や法律の問題も扱えるし、国会議員になればどこでも活躍できる。こんなキャリアの人はれいわにはそうそう来ないですよね。特定枠の3番目までに入れば、可能性があるのでは?
吉田 今度は全国比例区で出てほしいという話がきています。れいわの特定枠は障がい者や特別な背景の人向けで、2~3人、場合によっては6人を通す計画だそうです。一般枠は票数で順位が決まり、過去の例では上位でも2~3万票が限界です。福岡でしっかり票を取れば、3万票くらいは可能だとれいわは考えています。特定枠以外の候補は3年ごとにローテーションする仕組みなので、知事選を目指すならいつでも辞められる状況です。幸一郎もその選択肢を検討中です。
特定枠は基本的に障がい者や特別な背景の人に割り当てられることが多いです。それ以外の順位は選挙区での票数で決まります。過去のれいわの例を見ると、特定枠以外の上位でも2~3万票がいいところです。全国比例区で幸一郎が福岡でしっかり票を取れば入るだろうと、れいわは言っています。
編集注※れいわ新選組の選挙戦略は、特定枠(優先枠)と一般枠(票数順位)を組み合わせ、福岡のような地方での票稼ぎを重視。
沖園理恵氏とれいわの候補者戦略
吉田 うちの社員に沖園理恵という女性がいて、前の衆議院選挙で福岡2区から鬼木誠議員を落選させるために出馬しました。人が少ないから、彼女を選挙区で出してほしいという話もあるんです。明るい人で、今後も政治を続けるつもりみたいです。
──パレスチナの会で会ったことがあります。普段どんな活動をしているんだろうと考えていました。市議会議員選挙にも出ていましたよね?
吉田 そう、営業社員です。毎日戸別訪問していますよ。市議選にも出て、活動しないと飯が食えないって言っています(笑)。
──それでは、れいわ新選組の全国比例区と福岡選挙区のセットで挑戦する考えもあるんですね。
吉田 沖園にはその話でいいよと言っています。近々(取材日は5月7日)、山本太郎代表が福岡にきて、街宣活動や記者会見をする予定です。れいわが5月末に全国比例区の候補を発表するらしいので、幸一郎はそれまでに返事をするつもりです。れいわで出ても、その後の県知事選には無所属で出るつもりだと話しています。やっぱり知事選を目指すなら、国会議員の肩書きがあると「どこの馬の骨かわからない」人よりずっと有利です。3年間国会議員をやってから知事に転身するのも1つの方法だと考えています。
──山本太郎さんも幸一郎の経歴を見て、絶対に欲しいと思っているはずです。れいわ新選組でも、そんなまともな経歴の人はそうそう来ません。「この専門分野は私に任せろ」って言えるような政治家が必要なのに、なかなかそういう逸材はいません。とくにれいわでは、幸一郎さんのような人材は貴重だと思いますよ。
吉田 そう、とくにれいわはね。自民党にはそれなりの人がたくさんいるけど、れいわにはそういう人が少ないんです。今、幸一郎はロンドンを拠点に活動していますが、れいわでの活躍も期待されています。
2.natural naturalグループの事業概要
──natural natural グループでは何人くらい働いていますか?
吉田 福岡だけで社員とパート合わせて50人くらい、全体で230~300人です。福岡に8店舗、ロンドンに3店舗、宅配事業もあります。年間売上は約200億円で、日本が70%、イギリスが30%です。
──会員数はどのくらいですか?
吉田 会員3,000人、宅配利用者2万人超。出資金は1人平均2万円で、任意なので上限500万円までです。チラシで集会を宣伝すると反応がいいです。
編集注※natural naturalは1992年に事業を開始。オーガニック食品の小売・宅配を展開。福岡を拠点に、東京、神戸、ロンドンで事業を運営。
オーガニック市場と事業戦略
吉田 国内のオーガニック市場は厳しいですが、海外はブルーオーシャンです。イギリスでの事業が中心で、資金力がないので資本力のある企業とパートナーシップを組みたいと考えています。たとえば、熊本の菊池農場で国産飼料100%の赤牛を育てています。円安の影響を受けず、100頭を2~3倍、10倍に増やせるノウハウがあります。大手スーパーやJR九州のレストランにプライベートブランドで提供できれば、事業拡大のチャンスになります。
──どのくらいの資金で、5年後にどのくらいの売上規模を想定していますか?
吉田 1店舗つくるのに3,000~5,000万円かかります。借入金は会員出資金が5億円、銀行が1~3億円で、銀行分はほぼ清算済みです。スーパー業界は100%オーガニックを求めていますが、小規模で失敗を繰り返しています。西鉄ストア、東急ストア、ルミネ、イオンみたいな企業とタイアップできれば、商業施設内で効率的に店舗を増やせます。5年で売上を300億円に引き上げるのが目標です。
編集注※赤牛(国産飼料100%)や走る豚(放牧豚)は、natural naturalの独自商品。テレビや高級レストランで取り上げられ、ブランド価値が高い。日本はオーガニック市場が小さく、価格競争や不況が課題。ドイツやイギリスでは売場の50%がオーガニックで、需要拡大中。
商品と顧客ニーズ
吉田 主力は野菜と天然魚です。対面で新鮮な魚をさばくので、スーパーの冷凍魚とは全然違います。走る豚も有名で、天神のホテルで1万円のカレーとして提供されるなど、テレビで話題になりました。5,000品目扱っていて、スーパーと遜色ない品ぞろえです。コロナで食への意識が変わり、若い人や子育て世代が添加物や農薬を避け、いいものを求めるようになりました。毎週決まった曜日に宅配するので信頼されています。
──健康志向の高まりを感じますか?
吉田 32~33年前とは比べものになりません。外食が減り、家でいいものを食べる層が増えました。所得が厳しくても食では贅沢する人が多いです。昨年6月にイオンモール香椎浜にオープンした店は、半年でお客さんがつくほど好調です。
新規出店と海外展開
吉田 出店の話は多いですが、資金がないので断ることが多いです。今検討しているのは、大野城の元サティモールです。既存店で設備が整っているので、初期投資が抑えられます。東京の店舗は引き継いだもので、月2,000万円の売上です。ブリスベンでの出店も計画中で、娘が経営する病院(サクラクリニック)の集客力を生かせれば、日本人や現地の人向けにオーガニック食品を展開できます。
──ブリスベンは競争相手が少ないですか?
吉田 香港やアジアより競争がなく、英語圏で物流も便利です。魚や野菜の対面販売が強みなので、現地で差別化できると思います。
3 ロンドン進出と家族の物語
吉田 93年に4人の子どもを連れてロンドンに移りました。ロンドンは経済・文化の中心で、パレスチナ連帯運動の拠点に最適でした。イギリスの社会福祉(無料の医療・教育)に支えられ、子どもたちはイギリス政府に育てられたようなものです。最初は日本食やタバコを売り、20年かけて事業を軌道に乗せました。
──子どもたちを連れて行くのは大変だったのでは?
吉田 1週間前に「行くぞ」と伝え、黙っているよう言いました(笑)。オックスフォードの田舎に住み、バスが1日1本しかない環境で育ちました。長女は医学部、次女はオーストラリアで医者になりました。幸一郎は中2でロンドンに行き、国際的な視点をもつようになりました。
ロンドンでの事業展開
吉田 最初は日本人向けにタバコや食品を売り、借金で苦労しました。オーガニック商品を近隣スーパーから仕入れて3割増しで売ったり、イタリアやギリシャから魚を輸入したりしました。コロナで売上が3~4倍に跳ね上がり、補助金も受けました。今は客の8~9割が現地の人で、魚屋は世界一のレベルだと自負しています。ジェトロや日本大使館と連携し、山形県や高知県のフェアを開催しています。
──コロナでの成功は大きかったですね。
吉田 イギリスはエッセンシャルワーカーとして食品店を支援し、1カ月分の売上相当の補助金をくれました。日本は遅れましたが、イギリスは迅速でした。
4.吉田家のルーツと理念
──吉田家は福岡出身ですか?
吉田 父は満州からの引き揚げ者で、母は福岡出身です。兄弟は地元で技術者や公務員として普通に働いていますが、私は水俣病や生協運動を通じて、食と政治の革命を追求してきました。幸一郎もその影響を受けつつ、国際的な視点で政治に挑んでいます。
食と政治の革命
吉田 私は食の健康革命を担い、幸一郎は日本の政治革命を目指しています。コロナで価値観が変わり、食の安全が生活スタイルとして定着しました。政治革命も、庶民の意識変化から始まると信じています。
──食の革命が政治につながるんですね。
吉田 そうです。健全な食が健全な精神を育て、それが政治を変えるんです。
私は西南学院大学在学中に水俣病運動に参加し、チッソ本社での直接交渉に関わりました。食品公害の深刻さに衝撃を受け、食べ物の安全を追求する生協運動を始めました。福岡西武生協、南部生協、東部生協などを設立し、地域自治を目指しましたが、合併路線に反対して1992年にnatural naturalを創業したという経緯があります。生産者と直接連携し、中泉団地に「夢ひろば」を開いたのです。
5.赤牛と走る豚:独自の畜産事業
吉田 熊本の菊池農場で赤牛を国産飼料100%で育てています。最初は黒毛和牛とホルスタインの雑種を育てましたが、穀物飼料で目が見えなくなる問題に直面しました。牛は草を食べる動物なので、赤牛を選び、草中心で育てました。安価な雑牛として買い、赤身の美味しさを訴求しました。金融業者の参入で価格が高騰したので、繁殖から肥育まで一貫して行い、円安の影響を受けない農場になりました。
──赤牛は事業の柱ですか?
吉田 JR九州のレストランや大手スーパーにプライベートブランドで提供できれば、大きな事業になります。100頭を10倍に増やせるノウハウがあります。
編集注※赤牛は阿蘇地域の伝統品種で、黒毛和牛全盛期に低評価だったが、natural naturalが再評価。
走る豚のブランド力
吉田 走る豚(放牧豚)は、耕作放棄地で育て、6カ月で出荷しています。業界では有名で、天神のホテルで1万円のカレーとして提供されるなど、テレビで話題になりました。規模は小さいですが、ブランド価値が高いです。
──豚もユニークですね。
吉田 放牧豚は健康的で、味もいいです。面白い素材として、今後もっと活用したいと考えています。
6.今後のビジョンと課題
吉田 借金は多いのですが、黒字化したのでM&Aや資本提携の話がしやすくなっています。東急ストアや西鉄ストアと交渉したこともありますが、コロナ前はうまくいきませんでした。商業施設内での展開が効率的なので、今後はそこを強化したいと考えています。財務状況を整えて、資金が止まらないようにするのが課題です。
──M&Aの可能性は高いですか?
吉田 日本にうちみたいな会社は少ないので、関心は高いです。ただ、借金が多いので、財務をしっかりしないといけません。
グローバル展開と人材
吉田 ブリスベンでの出店は、人材育成も兼ねています。魚の職人が不足しているので、福岡で修行させて海外に送り込みます。ロンドンの店舗は博多弁が飛び交うほど、日本人スタッフが多いです。
──人材確保は大変ですか?
吉田 人材バンクは高額なので、海外出店の魅力で優秀な人を集めたいです。ブリスベンは競争が少なく、成功の可能性が高いです。
食の安全と政治の変革を訴える場として、5月10日に天神ビルで「日本の米はどこへ行った」集会を主催します。元農林水産大臣の山田正彦さんらが参加し、100~200人が集まる予定です。米や小麦の輸入、ポストハーベスト農薬の問題を訴えます。会場に来る人の半分は非会員で、食の安全への関心が高まっていると感じます。農協が米の集荷をしない問題や、減反政策の影響も議論する予定です。
natural naturalは食の健康革命を進め、幸一郎は政治革命を目指しています。両者はつながっていて、市民の意識変化がカギになるのです。
次の選挙事務所は六本松のパレスチナハウスを使います。小さな店と事務所ですが、ノウハウは盗まれません。スーパーがオーガニックを扱うのは難しいので、うちの強みを生かしてタイアップしていきたいのです。
【文・構成:近藤政勝】
<プロフィール>
吉田登志夫(よしだ・としお)
福岡県出身。西南学院大学中退、水俣病運動、チッソ本社での直接交渉への参加、福岡での生協運動(福岡西武生協など設立)への従事などを経て、1992年、natual natural創業、オーガニック食品の小売・宅配を開始、翌93年にロンドン移住、パレスチナ連帯運動と事業を両立。
natual natural公式HP:https://www.sancyoku-club.com/