九州電力、「プラットフォーマー化」宣言を読む~巨大インフラ事業者の変貌

 (株)九州電力(本社:福岡市中央区、池辺和弘代表)は19日に「九電グループ経営ビジョン2035」を発表した。そのなかで同社は、電力供給の枠を超えた事業の多角化とグローバル展開を加速する方針を打ち出した。

 財務目標としては、2035年までに連結経常利益を2,000億円以上、ROICを4%程度に引き上げるなどを掲げつつ、総額2.5兆円規模の戦略投資を行う。その内訳は、再エネなどのカーボンニュートラル投資に1.5兆円、ICT・都市開発などの成長事業に1兆円とした。

 注目すべきは、エネルギー以外の分野での事業拡大方針だ。すでに事業化されているICT事業の売上高は1,378億円に達しているが、今後はスマート農業、EV充電サービス、スマート保安、スマートシティ開発など、多様な領域でプラットフォーム型ビジネスの展開を目指すとしている。とくに地方・地域との連携を重視した「地域共創」を掲げて、地方自治体や地場企業と連携してスマート社会や循環型社会の構築を支援するという。その推進にあたっては、これまでのエネルギー事業でつちかった地域とのネットワークを基盤に、地域課題の解決を担うサービスプロバイダーへの転換を図る姿勢を明確にした。

プラットフォーム型ビジネスに取り組む背景 出所:九電グループ経営ビジョン2035
プラットフォーム型ビジネスに取り組む背景
出所:九電グループ経営ビジョン2035

九電が目指すプラットフォーム型ビジネスの概要

 同社はエネルギー・インフラ事業者として九州内の会社、自治体、地域住民と幅広いネットワークを築いているが、そのなかで顧客から低・脱炭素化や自然災害対策といった社会課題に関する多数の相談を受けているという。こうした背景から同社は、顧客の多様なニーズに即した解決策を提供するためにプラットフォーム型ビジネスを推進することを目標に掲げた。具体的には、以下の内容を目指すとしている。

各事業領域での展開と他事業者の取り込み

 エネルギー事業だけでなく、ICT、都市開発などの各事業領域でプラットフォーム型ビジネスを展開し、九電グループの商品・サービスに加え、他事業者の商品・サービスも取り扱う。

多様なニーズに対応するソリューションの強化・充実

 顧客の事業や生活の「低・脱炭素化」「効率化・最適化」「強靭化(レジリエンス向上)」に役立つソリューションを強化・充実させる。具体的なソリューションとしては、再エネやカーボンフリー燃料などのグリーンエネルギー、ヒートポンプ、電化厨房、EV関連サービス、スマート保安、データセンターサービス、セキュリティソリューション、省エネ(ZEB/ZEH)、エネルギーマネジメント、生産管理、スマート農業などを挙げる。

データ蓄積と活用

 プラットフォーム型ビジネスを通じて、新たな技術・ビジネスの創出や、顧客のニーズ把握に資するデータや顧客情報を蓄積する。将来的には、これらのデータを事業横断的に活用することで、ソリューションをさらに高度化させることを目指す。

『橋渡し役』としての役割

 顧客のニーズと、そのニーズに応じたソリューションを持つ事業者(アライアンス企業、地場企業、国内外スタートアップなど)を結びつける『橋渡し役』となる。これにより、顧客と事業者の双方の新たな価値創造を支援する。

社会価値と経済価値の同時創出

 高度かつ顧客ニーズにマッチしたソリューションを提供することで、「快適で、そして環境にやさしい」社会の実現に貢献し、社会価値を創出するとともに、九電グループと連携する事業者の経済価値向上を目指す。

地域共創による価値創造と成長 出所:九電グループ経営ビジョン2035
地域共創による価値創造と成長
出所:九電グループ経営ビジョン2035

「九電」のプラットフォーマー化宣言の意味~世界的な動向

 同社がこのような宣言を行った背景には、九州全体で高まる半導体やデータセンターといった高電力需要ならびにハイテク産業の立地需要の高まりがある。電力事業者として巨大な収益構造を有する同社が、九州全体への圧倒的なネットワークを基盤にプラットフォーマー型ビジネスを展開することが、他企業の経済活動ならびに、地方・地域の市場経済や社会にどのような影響をもたらすのか、その意味を世界的なプラットフォーム型ビジネスの動向と合わせて長い目で読み解いていく必要があるだろう。

【寺村朋輝】

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