いよいよ再整備に本格着工 旦過市場は生まれ変われるか──(前)

商業施設が着工 26年3月末竣工予定

 “北九州の台所”として知られる小倉北区の「旦過市場」では、新たに開発される商業施設(立体換地建築物)の建築工事の準備工が完了し、3月24日から本格的な工事(基礎工事)が始まった。

 新たに開発される商業施設は、敷地面積約2,835m2に建つS造・地上4階建で、延床面積は約8,257m2(概算)。1・2階部分は商業フロアとなり、1階に生鮮等のテナント30~40区画が入居するほか、2階には飲食店などが入居する予定で、3・4階および屋上には約130台分の駐車場が整備される。施工は若築・内藤・プロセスプラスJV(代表:若築建設(株)北九州営業所、構成員:(株)内藤ハウス福岡営業所、(株)プロセスプラス)が担当し、監理は(株)大建設計が担当。建物の竣工は2026年3月末を予定しているが、その後に入居テナントの内装工事等を行う必要があるため、商業施設としての開業時期については現時点で未定となっている。

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 旦過市場の再開発に関する動きについては、これまで本誌でも何度か取り上げてきたが、いよいよ本格工事が着工したことを受けて、今回改めて、これまでの経緯や今後の流れなどについてまとめてみたい。

大正初期から続く“北九州の台所”

 旦過市場の歴史は古く、その始まりは大正時代初期まで遡るという。北九州市が22年3月に発行した冊子「わたしたちの旦過市場」によると、玄界灘で獲れたイワシなどを積んだ伝馬船(本船と岸を往復して荷を運ぶ小舟)が紫川を経て神嶽川(かんたけがわ)をのぼり、旦過橋近くの川岸に網ごと荷揚げして、その場で売買したのが旦過市場の始まりとされている。同地は水陸とも交通の便が良く、周囲に古くからの住宅街があったことから商いは繁盛し、自然に近郊各地から野菜や果物をもった商人や田川方面からは薪を積んでくる者などが集まり、市場的な賑わいを見せるようになっていったようだ。

神嶽川の上にせり出す建物
神嶽川の上にせり出す建物

    昭和初期になると、卸売と小売の両方の機能をもった市場として成長。しかし、このころから徐々に小倉湾の潮が退き始め、神嶽川の水深がかなり浅くなったことで、ついには河川上にせり出すかたちで木造の小売店鋪が建てられるようになっていったという。戦時中には、強制疎開によって市場の一部が取り壊されたようだが、戦後すぐに商人らが集まり、生鮮産品などを扱う市場として再開されたという。

 その後、「旦過商業協同組合」(1952年)や「小倉中央市場協同組合」(59年)などの商業組織が設立され、これらの組織が施設などの維持・管理、イベント運営などを担当。一方で、1955(昭和30)年ごろより、戦後のヤミ市的な建築物からの建替えが進んでいったが、河川上空にせり出した店舗等はせり出したまま建替えられた。やがて昭和40年代には市場として繫栄の最盛期を迎えるが、その後、ドーナツ化によって都心部の旦過市場周辺の人口が減っていったほか、郊外型の大型商業施設の登場などで徐々に落ち込む時期もあったという。一方で、都心部における商業施設拡大にともなう飲食店向けの販売が拡大。また、歴史の蓄積を感じさせるレトロな街並みも観光資源として見直されるようになり、地元民の利用だけでなく、観光客も増加していった。そして今でも老若男女が集う市場として、“北九州の台所”と呼ばれて市民に親しまれながら相応の賑わいを維持し、今日に至っている。

浸水被害きっかけに官民協働で再整備検討へ

以前の旦過市場の様子(2021年6月撮影)
以前の旦過市場の様子(2021年6月撮影)

 大正初期から100年以上の長い歴史を重ねてきただけあって、旦過市場全体として店舗建物が老朽化。そのため昭和40年代ごろから、これまでに何度も再整備が検討されてきた経緯がある。

 前出の「わたしたちの旦過市場」によると、初めは1968年から74年にかけて、このときは商工会議所を中心として再開発事業を検討したものの、やがて計画は中断。次に、88年から95年にかけて、今度は再開発準備組合を設立して再開発計画案の策定まで漕ぎつけたが、あえなく活動停止となった。その後、97年から99年にかけては再開発協議会を設立したが、このときも活動停止。2000年からは再開発準備組合を設立し、事業協力者が参画したものの、結局はその後に撤退という結果になった。

 これら初期の再整備検討では、地元・民間のみで検討を行った結果、すべて頓挫するという事態となっている。というのも、市場に集う各店の店主は、それぞれが“一国一城の主”であり、各々の考え方やスタンスが違うため、最終的な足並みをそろえることが非常に困難だったからだ。市場内には鮮魚を取り扱う店があれば、青果店や精肉店、総菜・漬物店、菓子店、乾物店などもある。各店の売上規模もさまざまで、それぞれの店主はどうしても自身の商売が最優先となり、市場全体のことまではなかなか頭が回らない。こうした、良くいえば“自主独立を重んじる気風”、悪くいえば“まとまりのない寄り合い体質”を要因として、市場の再整備の検討は何度も頓挫する羽目になっていたのだ。

 潮目が変わったのは、自然災害による市場の被災だった。09年7月に発生した集中豪雨により神嶽川が氾濫し、市場の大部分が浸水。翌10年7月にも同じく集中豪雨によって、市場は再び浸水被害に遭った。さすがに2年連続で浸水被害に遭ったことで、店主をはじめとした市場関係者の防災意識に変化がもたらされ、以前には頓挫した再整備の検討が、再び首をもたげることになった。

 とはいえ、まず目を向けられたのは神嶽川で、老朽化の進んだ河川護岸などの改修によって、浸水被害の発生を抑えようとした。だが、旦過市場では神嶽川の河川上に店舗建物がせり出している関係上、河川の整備だけを行うわけにはいかない。また、店舗建物自体も老朽化が進んだ木造建築物が多く、万が一の火災発生時には延焼しやすいという危険性も孕んでいた。河川の整備だけ、市場建物の建替えだけを行っても、全体として安全面での課題は解決せず、河川の整備と土地・建物の整備を一体的に行う必要が出てきたことから、行政と市場関係者が一丸となって取り組んでいく機運が上昇。12年から市と地元が官民協働で「旦過地区まちづくり勉強会」を開始し、河川改修と一体となった市場再整備の検討を開始した。13年9月に旦過市場の将来像を示した「旦過地区まちづくり構想」が策定され、15年6月には5つの施設計画案からなる「旦過地区まちづくり整備計画」が策定された。

 そして16年4月には、北九州市建設局に「神嶽川旦過地区整備室」が新設。これは、それまでは河川改修担当の建設局河川部、商業支援担当の産業経済局にぎわい部、まちづくり担当の建築都市局整備部と、北九州市の異なる3つの部局が関わっていたものを、神嶽川旦過地区整備室整備室が河川改修だけでなく、商業支援や区画整理も所管することで一元化したもの。旦過市場再整備に賭ける行政の本気度を、市場関係者らに示す狙いもあったという。

市が施行主体となり区画整理での立体換地へ

 16年6月の「旦過地区まちづくり基本計画」の策定を経て、17年7月には地元有志による「旦過地区再整備協議会」が設立。同協議会は「旦過地区土地建物委員会」と「新市場管理運営委員会」で構成され、前者がハード整備、後者がソフト対策について、それぞれ市と市場関係者が一緒になって検討していく建て付けだ。

 そして18年10月からは市が施行主体となるかたちで、土地区画整理事業が実施されることになった。同土地区画整理事業では、一般的な「平面換地」ではなく、「立体換地」と呼ばれる制度を活用。これは、河川上にせり出した店舗の移転先を確保しつつも、整備にともなって河川区域が市場側に拡大することによって減少する商業面積を確保するために取られた手法で、旦過市場の地権者および借地権者に対して、施行者である北九州市が一体的に工事する建物の一部および敷地の共有持分を、権利者に割り当てる制度となっている。

 19年10月に市と旦過市場4団体(旦過地区土地建物委員会、北九州市小倉区旦過商業(協)、旦過市場商店街、小倉中央市場(協))との間でまちづくり協力協定が締結された後、20年3月に旦過地区土地区画整理事業の都市計画が決定。21年2月には国の事業認可も受けて旦過地区土地区画整理事業の事業計画も決定し、再整備に向けての事業が進行していった。

 旦過地区再整備事業では、北九州市が施行者となって施行面積約0.6haを整備していく計画で、エリア内をA地区、BC地区、D地区、E地区に区分けして整備。当初計画では、BC地区およびD・E地区には2階建店舗を建てるほか、A地区には「立体換地建築物」として1・2階が商業施設で3・4階が駐車場となるS造・地上4階建のビルを建てる予定だった。この立体換地建築物が、冒頭に紹介した商業施設だ。また、各地区の間の通路は「新市場通り」としてアーケードを設置。また、これらの整備と並行して、橋梁3橋の架け替えや老朽護岸の整備、護岸のかさ上げや川底の掘り下げといった神嶽川の河川改修も行っていく計画。当初は、22年度中にA地区の既存建物を解体して23年度に商業施設を建設し、その後、BC地区の店舗を解体して商業施設に移転してもらう計画で、全体の事業期間は20年度から27年度までを予定していた。

旦過地区再整備の概要(第1回変更) 計画平面図(案) (北九州市提供)
旦過地区再整備の概要(第1回変更) 計画平面図(案) (北九州市提供)

(つづく)

【坂田憲治】

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