政治経済学者 植草一秀
日経平均株価が史上最高値を更新している。テレビニュース等では株価上昇について街角インタビューをして、実感があるかどうかを問い、回答を紹介する。大半の人が日々の生活からは株価上昇の実感がないと答える。報道が勉強不足かミスリーディングか。国民経済と株価は直接結びつかない。
株価は現在から未来にかけての企業利益の動向を反映して動く。現在から将来にかけての企業利益を現在価値に割り戻す際には金利が影響する。したがって、金利動向も影響する。また、輸出も輸入も為替レート変動から大きな影響を受ける。
他方、国民生活はどうか。最重要は賃金の動き。賃金が増えているのか、減っているのか。大半の国民は賃金労働者。賃金の動向が重要になる。ただ、その賃金は名目賃金ではない。名目賃金が2%増えても物価が4%上がれば、実質賃金は2%減少する。インフレ率が4%ということは、仮に名目賃金が年間で400万円なら、年間で16万円も賃金が目減りすることを意味する。
インフレは賃金労働者にとって「百害あって一利なし」だ。2013年に安倍内閣は「インフレ誘導」を掲げた。安倍内閣の指令を受けたのが黒田日銀。インフレ誘導の旗を10年間振り続けた。「インフレ誘導は正しい」「2年以内に消費者物価上昇率2%を達成する」多くの、エコノミストを自称する人々がインフレ誘導を礼賛し、インフレ誘導は可能だと主張した。私は、この主張に真っ向から反対した。
2013年に『アベノリスク』(講談社)を上梓。https://x.gd/u9mZnこの本でインフレについて二つのことを述べた。一つは、黒田日銀のインフレ誘導がうまくいかない可能性が高いこと。もう一つは、賃金労働者=生活者=消費者=一般国民にとってインフレは百害あって一利がないこと。
現実はどうだったか。黒田日銀のインフレ誘導は失敗した。2022年から24年のインフレ勃発は黒田日銀の政策運営の結果ではない。コロナ融資激増の結果だ。そのインフレは目標値2%をはるかに超えて4%を突破した。日銀は早期にインフレ抑制にカジを切るべきだったが遅れた。23年に日銀総裁が植田和男氏に交代して、ようやく政策修正が遂行された。インフレ誘導政策は基本的に間違いなのだ。
2021年から24年にかけて首相の座にあった岸田文雄氏は「賃上げ」を叫び続けた。たしかに春闘では賃上げが実施された。しかし、問題は実質賃金だ。名目賃金が増えても実質賃金が増えなければ何の意味もない。労働者の生活困窮度は増すばかりなのだ。
その実質賃金はどう推移したか。私は、インフレ誘導の旗を振りつつ、賃上げを求めても、実現する賃上げをインフレが上回り、実質賃金は減り続ける、インフレ誘導を掲げながら賃上げを求める政策は間違いだと断言した。このときも世間にうごめくエコノミスト達は政府の提灯持ちよろしく、インフレ誘導下の賃上げ要請が正しいと主張した。結果はどうだったのか。実質賃金は減り続けた。詳細は拙著『財務省と日銀 日本を衰退させたカルトの正体』(ビジネス社)https://x.gd/nvmU9に詳しい。
このなかで株価が上昇している。それはなぜなのか。庶民の生活感覚と乖離が生じているが、それはなぜなのか。以下に解説したい。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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