玄海町ヴルーヴ破産問題(2)、公告直前の不可解なグループ形成、提出資料と審査結果

公告直前にグループ会社を設立

 公告日10月11日からわずか1週間という短いプロポーザル公募期間に唯一、書類を取りそろえて応募してきたヴルーヴ(株)とはどのような企業なのか。

 ヴルーヴは関連会社が3社あり、4社でグループを形成している。【資料2】に当社で調査した各社の設立年、資本金、登記住所をまとめた。

【資料2】ヴルーヴのグループ企業一覧
【資料2】ヴルーヴのグループ企業一覧

 ヴルーヴは設立が2022年5月で、プロポーザル応募時点(23年10月)は設立から1年半に満たない会社だ。不可解なのは、東京の会社であるヴルーヴが公告前の8月26日に、玄海町に支店を開設していることだ。それから公告前日までにほかの3社が立て続けに設立されている。

 そのようなヴルーヴだが、応募も極めて速く、プロポーザルの参加申請書は公告後わずか2日後の10月13日の日付で作成して玄海町に提出していた。

 以下ではヴルーヴが提出した主な書類の内容を見ていく。

グループでの業務体制をアピール

【資料3】ヴルーヴグループ事業概要、抜粋
【資料3】ヴルーヴグループ事業概要、抜粋
※クリックで全文表示(PDF)

 ヴルーヴは提出した自社の事業概要に関する資料で、突貫でつくりあげたヴルーヴグループとしての事業体制を説明している。ヴルーヴは主に高度化通信網の設計・構築、ヴルーヴGNOCが運用・保守、ヴルーヴイノベーションズが製造現場等の見える化導入、ヴルーヴホールディングスが高度化通信網の活用メリットのセミナー、教育、現地調査、人材育成、マーケティング、ブランディングと、要するにグループとしてトータルで多様なサービスが提供できるとしている。これは仕様書で見られた、ローカル5Gの通信網構築に関連する多角的な事業目的に対して、ヴルーヴがグループとして対応できる業務体制であることをアピールしたものだろう。また、ビジネスモデル例として、公告前日に設立したばかりのヴルーヴイノベーションズを含めたモデルの提示などもしている。

過去の実績に「運用」はなし

【資料4】会社の業務実績調書
【資料4】会社の業務実績調書

 次に業務実績調書を見る。本事業に類する事業実績として、業務実績調書に記された契約金額の合計は1億8,225万円。10億円超の補助金事業を請け負う実績としては少ない。

 もう1つ問題なのは、実績として挙げられているのが構築と保守業務であり、運用業務がないことだ。仕様書に要件として「本事業で整備された施設は事業者の資産とし、適切な運用を図ること」とあった通り、本事業は構築後に事業者が通信網を運用することが前提となっている。しかしヴルーヴには実績として記入できるものが何もなかったということだ。

企画提案書は本当に1週間余りで作成か?

 公告で掲載された実施要領には審査基準が公表されており、100点満点のうち60点が企画提案書の内容に配点されている。そのためヴルーヴの企画提案書も27ページという最も力の入った資料になっている。参考までに一部を抜粋して掲載する。

【資料5】企画提案書、抜粋
【資料5】企画提案書、抜粋
※クリックで全文表示(PDF)

 細かく内容を見てもらう必要はないが、参考までに説明すると、項目9~13:農畜水産・観光と防災のDX提案、14:必要費用および概算費用、16:設備投資と売上計画、4~5:業務工程表、20~24:通信網整備エリアの展開計画図となっている。まともな企画書をつくるには、仕様書を参照するだけでなく現地調査などを踏まえた検討も必要だ。本提案書の評価はともかく、これだけの資料を公告後1週間余りで作成して提出したとすれば、驚きしかない。

 また、今回の開示資料で必要書類の1つである見積書は確認できなかったが、企画提案書中の14:必要費用および概算費用のなかに概算見積もりが出ており、別途明細が出ていたのかもしれない。

ヴルーヴを審査委員はどのように評価したか

 公告からわずか13日後の10月24日、次の7人の役職者を審査委員として、プロポーザルの審査が実施された。

副町長、教育長、総務課長、防災安全課長、企画商工課長、教育課長、情報専門官

 審査の合格基準は、実施要領で「各委員の合計得点の平均が60点に満たない場合については事業実施候補者とならないものとする」となっており、つまり平均60点以上、合計点にして420点を上回っていれば審査クリアとなる。

 では、実際の採点結果はどうだったか。

【資料6】○プロポーザル採点表(玄海町高度化通信網構築事業)
【資料6】○プロポーザル採点表(玄海町高度化通信網構築事業)

 合計点は438点、平均点は62.57…という得点で審査クリアである。

 採点方法について一部説明する。審査項目1「業務実績」と5「見積価格」が全員共通で0点と5点になっているが、これは提出書類を基に事務局が審査し記入をすることになっているからだ。その結果、実績評価は0点、見積もり評価は5点となった。だがいずれも10点満点であり、配点ウエイトは低い。実績も見積もりも重視しない採点基準となっていることが分かる。

 ところで、合計点438点、平均点にして62.57…点は、ボーダーラインが60点であるから、決して高い点数とはいえない。なぜこのような結果になったのか。理由は、7人の委員のうち、1人だけ極めて低い採点となっているからだ。委員Gである。他の委員が各自合計60点以上をつけているのに対して、委員Gのみが16点だ。項目4-1「内容が簡潔かつ明瞭であるか」という項目のみ満点を与えて、その他の項目は1点しか与えていない。

 委員Gが誰であるか、なぜこのような採点をしたのかは分からない。しかし、審査委員のうち1人が、ヴルーヴの応募に対して全否定の反応を示していたことがうかがえる。

 とはいえ、唯一の応募者であったヴルーヴは平均60点以上を獲得し、事業者となるための審査基準をクリアした。

 その後の玄海町の対応も大変早い。24日の審査当日に、プロポーザル審査の結果、ヴルーヴを事業実施候補者に選定したことを同社宛に通知することが起案され、翌25日には市長らの印が押された決裁がなされている。

 この後、ヴルーヴの事業着手と、玄海町からヴルーヴへの補助金の交付手続きが取られることになる。

補足:訂正前の採点での審査結果の検証

 集計された採点表とは別に、各審査委員の個別の手書き採点表がある。このうち委員Bの採点表に訂正が見られる。訂正されていたのは、合計と項目3-3で2回、項目3-1で1回だ。この訂正がいつなされたものかは分からない。訂正前の採点だった場合に審査結果が変わる可能性がないかを検証した。結果は、仮に委員Bの採点が訂正前の低い方である64点だった場合でも、全体の合計点は428点、平均61.14…点となり、基準点をクリアしており審査結果に変わりはなかった。

(つづく)

【寺村朋輝】

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