【マックス経営講座】中小企業の生き残り戦略(16)PDCAで現場を動かす製造業A社に学ぶDX推進の成功要因中小企業の生き残り戦略
はじめに
DXの推進は「システムを入れたから終わり」ではなく、現場に根づき、成果を生み出して初めて成功といえます。多くの企業で見られる課題は「導入したけれど活用されない」「一部の部署だけが使っている」といった“形だけのDX”。そのなかで、製造業A社は「生産性指標の可視化」を起点にPDCAを回し、社員の改善提案数を3倍に増加させるという具体的成果を実現しました。本稿ではそのプロセスを分解し、何が成功要因となったのかを探ります。
成功の要因①:Plan
─ゴールを数値で明確化
A社がまず行ったのは「生産性を数値で見える化する」という明確なゴール設定です。
- KPIを「生産性指標(生産量/工数)」と定め、全社員が理解できるシンプルな指標に統一。
- ゴールを“売上○%増”ではなく“現場の改善に直結する数値”に落とし込んだことが、現場の当事者意識を高めました。
ここで重要なのは「戦略(Plan)」を現場で理解・共感できる言葉に翻訳したこと。抽象的なビジョンではなく、“毎日の仕事で何を良くすればいいか”を明確化しました。
成功の要因②:Do
─小規模導入と成功体験の共有
A社は最初から全工場・全ラインに展開せず、一部ラインに限定してDXを試行しました。
- 可視化された数値を基に、現場で改善会議を実施。
- 小さな工夫(動線短縮、設備点検頻度の見直しなど)が生産性改善につながり、指標に成果が反映。
- 成功事例は社内で共有され、他ラインでも「やってみよう」という動きが広がりました。
このように、小さく試し、成果を共有して広げるアプローチがDoフェーズのカギとなりました。
成功の要因③:Check
─数値+エピソードで振り返り
月1回のオンラインミーティングで、生産性指標の進捗を確認しました。
- 数字(生産性指標)で改善効果を検証
- エピソード(「この工夫で10分短縮できた」など)で成功を実感
数値と物語を組み合わせて振り返ることで、「やれば変わる」という確信が現場に広がり、改善提案数が3倍に増加しました。
成功の要因④:Act
─成功ノウハウの横展開と制度化
改善が定着した要因は「Act」の仕組みにあります。
- 成功した改善を全ライン・全工場に展開するプロセスを整備。
- 提案数や改善成果を人事評価に反映し、行動が報われる仕組みを導入。
- 改善提案のストーリーを社内報や掲示板で共有し、ロールモデルをつくった。
単なる“PDCAを回す”にとどまらず、改善を制度化し、文化として定着させる工夫が持続的成果につながりました。
まとめ
─製造業A社の学び
A社の成功は、PDCAを「形式」ではなく「現場の行動習慣」に変えたことにあります。
DX推進はシステム導入だけでは成果に結びつきません。小さな成功を積み重ね、現場全員が「自分たちで改善できる」と実感することが、組織文化としてのDX定着には不可欠になります。
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(株)コンシャスマネジメント代表取締役/中小企業診断士
西岡隆(にしおか・たかし)
大学卒業後、会計事務所、監査法人などを経て2001年中小企業診断士登録と同時に西岡経営管理事務所を開設。21年、事業拡張にともない(株)コンシャスマネジメントを設立