2024年11月23日( 土 )

韓国経済ウォッチ~韓中FTAついに批准(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 韓中FTAは韓国経済にどのような経済効果をもたらすだろうか。韓国産業通産資源省の試算によると、FTAに、毎年0.1%のGDPの押し上げ効果があるとされ、両国のFTAの発効から10年目には0.96%のGDPが上昇、5万以上の雇用創出が期待できるとしている。化粧品、飲料、食品など韓国が競争力を持っている製品を中心に、輸出が伸びていくのは間違いない。それとともに、新しい現象も期待できる。

asia 韓国から輸出をすることによって関税が撤廃されるというFTAの利点を活かしたいという企業が現れている。韓国を拠点に中国市場を攻略したいという中国企業、もしくはその他の企業の出現である。中国の北海グループは、韓国に2,000億ドルを投資し、韓国に化粧品の原料と容器工場を建設しようとしている。中国で生産するよりは、韓国で生産し、韓国のブランドをつけて中国で流通した方がメリットがあると判断しているようだ。チェコのビール会社も韓国の益山(イクサン)というところに、ビール工場を建設し、中国市場を狙っている。このようにFTAは貿易の増加と促進だけでなく、政府がうまく活用すれば、投資誘致、産業の活性化も期待できそうだ。

 中国人も初期の韓国投資はどちらかというと不動産投資が中心であったが、最近は製造、サービス業への投資にシフトしている。それと共に競争力のある企業の買収なども熱心である。中国とのFTAは意外な分野で韓国経済に活力をもたらしてくれるかもしれない。それでは、韓中FTAのデメリットはなんだろうか。ある専門家の指摘によると、FTAは大手企業にはビジネスチャンスになるが、経済弱者にはマイナスになるとのことだ。今、世界的に経済格差が問題になりつつあるが、FTAが実施されてから格差の問題がより深刻になったという指摘である。

 市場開放されることによって、低価格の中国製がはんらんするようになると、対策を講じる余力のない韓国の中小企業の立つ瀬がなくなる可能性が高い。その典型的な例が農業ではなかろうか。農業はまだ大規模化されていないので、市場開放は農民に大打撃になるだろう。政府ではこのような弱者を救済する対策を立てようとしているが、それで十分とは言えない。ある意味、市場開放は競争力の弱い産業を調整する側面もあるが、当事者にとっては痛みの伴う変革が必要になる。FTAにおいても締結だけで満足せず、この制度を運用していく知恵がもっと大事であるのではなかろうか。韓国政府は韓国の競争力のある産業はもっと伸ばし、輸出拡大などを達成し、競争力のない産業は補完するなり、整理していくなり、運営の妙が期待される。

 韓国は中国とのFTAと同時に、ニュージランドとのFTA,それからベトナムとのFTAの発効も控えている。ベトナムは東南アジアの中でも一番成功している国家でもあるし、ベトナムは東南アジアの橋頭堡(足がかり)になる国なので特に重要だ。

 年内にこれら全てが実現できれば、韓国の経済領土は全世界の74.6%を占めることになる。しかし、この数字で満足していてはいけない。大事なのは、実際の結果だからである。韓国はTPPへの対応にも迫られている。本当にTPPに参加するメリットはあるのかをよく吟味した上で、参加すべきである。いろいろなところに股をかけているだけで、実際の果実が取れないことだけは避けたい。
世界最大市場とのFTAの発効を契機に韓国経済の更なる発展を期待する。

(了)

 

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