中心部再整備&マンション開発活発化 筑後エリアの中核市・久留米(前)

西鉄久留米駅
西鉄久留米駅

県下3位も人口減
中心部再整備に着手

 福岡県南・筑後エリアに位置し、県下3位の人口(29万9,309人/2025年11月1日現在)を擁する久留米市は、県内唯一の中核市(※)であり、政令市である福岡市と北九州市に次ぐ第3の都市である。15年11月には同市を中枢都市として、大川市・小郡市・うきは市・三井郡大刀洗町・三潴郡大木町の3市2町で「連携中枢都市圏」を形成することを宣言。県南・筑後エリアにおける中心的な役割を担ってきた。

※中核市:人口20万人以上の都市のうち、都道府県から事務権限の一部が移譲された、政令指定都市に次ぐ規模と能力をもつ都市のこと。地方分権を推進し、住民に身近なところで行政サービスを提供することを目的として、1995年に創設された。

 同市では05年2月に北野町・三潴町・城島町・田主丸町の4町を編入し、市域拡大および大幅な人口増を遂げ、長らく人口30万人台で推移。だが、16年ごろをピークに緩やかな人口減少傾向に陥り、25年2月1日現在で人口29万9,663人と、ついに人口30万人を割り込んだ。

 こうした状況下で久留米市は現在、地域の活力を維持・向上させるため、中心市街地の抜本的な再構築に乗り出している。同市が掲げるまちづくりの方向性は、「コンパクト・プラス・ネットワーク」であり、都市機能を集約しつつ、広域的な連携を強化する多極連携型のコンパクトシティを目指すものである。この取り組みの中心となるのが、西鉄久留米駅とJR久留米駅という二大交通結節点を核とした「二極構造」の刷新だ。

 まず久留米市の玄関口の1つである西鉄久留米駅の周辺は、かつては百貨店や大型スーパーが建ち並び、県南の商業拠点として繁栄していた。しかし、1983年の再開発事業以降は40年以上にわたって大きな整備がなく、郊外への大型商業施設の進出や駅周辺店舗の撤退・縮小・老朽化などが重なり、ここ数年はまちの活力が大きく低下していた。また、かつては6万人を超えていた西鉄久留米駅の乗降客数も、現在は約3万人(24年度1日平均:3万485人)と半減。これも活力を減少させた大きな原因となっている。

 この現状を打開するため、久留米市は「久留米市立地適正化計画」と連動させるかたちで、西鉄久留米駅周辺を再整備する構想「西鉄久留米駅周辺整備構想」を25年6月に策定した。同構想は、「西鉄久留米駅を中心とした半径約500mを対象として、その範囲におけるポテンシャルと課題を整理し、まちづくりの基本方針や将来像を描く構想を策定するもの」とされている。

 駅周辺の現状について、市や有識者によって挙げられた主な課題は、「交通」「空間」「景観」「情報発信」の4領域にわたる。まず交通面では、バスターミナル周辺の構造的な問題が深刻となっている。バスセンター入口に信号がなく、バス、歩行者、自転車の動線が錯綜して危険な状態が常態化。バスターミナルの面積も不足し、駅構内の動線と交錯して混雑が生じている。パブリックコメントにおいてもバスの乗降場が西口に集中しているため、東口への分散を望む声が利用者から上がっていた。空間的な課題としては、駅構内の案内表示のわかりづらさ、市民や来街者が滞留できる広場の不足、歩行者ネットワークの脆弱性などが指摘されている。景観面では、老朽化した建物が多く、スカイラインや看板に統一感がなく、中心市街地としての魅力が十分に発揮されていない。さらに情報発信・連携の課題では、駅から街中へのアクセス案内が少なく、観光スポットへの誘導も弱い点だ。

一番街商店街/西鉄バスセンター

交通結節点を強化し
“久留米ビッグバン”も

 こうした課題を踏まえて、久留米市では西鉄久留米駅周辺を「人が集い、人が安らぐ、人にやさしい、人中心のまちなか」と位置づけ、再整備の方針として「快適性に優れた交通結節点」「『めぐりたくなるまち』づくり」「賑わいが持続する『将来への期待あふれるまち』」「みんなが誇りをもてるまち」の4つの基本方針を掲げている。

 まず「快適性に優れた交通結節点」では、交通結節点の改善こそが、駅利用者の増加、まちに集まる人の増加、そして賑わいがさらに人を呼ぶという良いスパイラルにつながる重要な要素だとしている。そのため、歩行者空間と車両空間を多層構造で分離し、安全性と回遊性を両立させるほか、バス・タクシー・一般車の乗降場を再配置し、混雑を解消することを目指す。さらにバスターミナルの再編には、福岡国道事務所の協力を得て、バスタプロジェクトの活用が検討されている。

 「『めぐりたくなるまち』づくり」では、広域道路の再編を通じた歩きやすい街路の形成に加え、景観では地場産材や久留米絣を活用し、市のアイデンティティーを演出する。とくに、西鉄久留米駅から久留米市美術館や中央公園など、東側の魅力的な施設への回遊性を高める歩行者動線の整備が重要課題と認識されている。

 「賑わいが持続する『将来への期待あふれるまち』」では、容積率などの規制緩和(駅周辺半径500mを対象)により、民間事業者に老朽化ビルの建替えを促していく方針。いわば“久留米ビッグバン”だ。これにより、オフィスやシェアオフィスなどの働く場、そしてまちなか居住を誘致・促進するほか、古い建物の更新促進や耐震化を進め、災害に強い都市を目指すとしている。

 そして「みんなが誇りをもてるまち」では、観光案内所や宿泊施設を誘致し、多言語化・デジタルサイネージ化による情報発信を強化。また、イベントやエリアマネジメントの推進を通じて、行政、商店街、住民などが連携する仕組みを整えるとしている。

 今回策定された構想は、25年8月26日開催の「西鉄久留米駅周辺整備構想会議」において大筋で合意。26年度から10年間の次期総合計画に反映する予定となっている。なお、一般的に再開発には10~15年程度を要する見通しだが、できることから着手していく方針だ。

西鉄久留米駅周辺

(つづく)

【坂田憲治】

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