
住宅建設の現場を担う人材不足への対応策が急務となっている(写真はイメージ)
国土交通省は、住宅分野の担い手確保に向けた中長期ビジョンを策定する。同省が11月5日に「住宅分野における建設技能者の持続的確保懇談会」(座長=蟹澤宏剛・芝浦工業大学教授)のとりまとめを公表した。住宅の新築やリフォームなどの維持管理を担う人材の確保に向けた取り組みをまとめたもので、とくに低層住宅の約9割を占める木造住宅の木工事にかかる現場作業を想定した。AIの普及で“稼げる”現場仕事に注目が集まるなか、次世代の住宅建築の担い手確保に向けた具体化作業が始まっている。
10年後に技能者が半減
とりまとめでは、今後の検討として4つの視点と方向性を示しており、2026年3月までに改訂する見通しの住生活基本計画や、26年度中に策定する「担い手中期ビジョン(仮称)」に反映する予定だ。
新築市場は長期低迷傾向にある。新設住宅着工は08年のリーマン・ショックを機に100万戸を割り込み、24年度は約81万6,000戸に落ち込んだ。少子高齢化で大工の就業者数も減少傾向にあり、2000年の65万人から20年には30万人へ半減し、35年には15万人にまで減少するとの試算もある。
60歳以上の技能者の比率を見ると、20年は建設・土木作業者全体で約30%だが、大工では約40%と高齢化が進んでいる。若手就業者の割合も大工は約7%と、建設・土木作業者全体の約12%と比べて低い。大工は女性の進出もほかの技能者と比較して低く、女性比率は1.5%(建設・土木全体2.7%)にとどまっている。
こうした現状を踏まえて、とりまとめでは5つの項目を課題として挙げた。まず、住宅建設分野は、他の産業と比較して不安定かつ不十分な就労環境であるとした。中小工務店などでは体系的な育成の仕組みが整っておらず、技能継承の難しさと高齢化による教え手不足、トイレや更衣室がないなど女性が働くのが難しい職場環境を指摘した。住宅分野へは、高校からの新卒者が多いが入職者が減っており、学生や学校・保護者からの仕事の見えにくさや個々の中小工務店による雇用・教育体制の確保の難しさを課題に挙げた。
4つの視点と方向性
住宅分野の建設技能者の急速な減少見通しや課題を踏まえ、国や業界団体、教育機関などが連携して人材確保を行う必要がある。また、一般消費者へ幅広く周知して理解を得ていくことが不可欠なことから、4つの視点と今後検討すべき対策の方向性をまとめた。
視点1「選ばれる業界・職場への変革」、視点2「育成環境の整備」、視点3「担い手の裾野の拡大」、視点4「マネジメントの強化」とした。小規模な工務店が個々に取り組むには限界があることから、視点1~3を視点4が下支えする。とりまとめでは、これら視点ごとに取り組みの方向性が示された。
視点1「選ばれる業界・職場への変革」では、若い層に選ばれる長く働き続けたい魅力的な業界・職場とするために、社員大工化の推進に加え、月給制や週休2日など他産業に劣らない就業環境の整備、建設キャリアパスシステム(CCUS)などキャリアパスの見える化、建設技能者の能力評価、やりがいの醸成を方向性として示した。
視点2「育成環境の整備」では、取り組みの方向性として技能職の重要性と魅力の発進、業界団体と教育機関の連携強化、基礎的技術の標準テキストの作成など技能者の体系的な育成体制の構築を挙げた。
視点3「担い手の裾野の拡大」においては、女性や外国人材が適切に働ける環境の整備、高齢技能者の活躍の促進、住宅建設技能者が施主や地域住民を巻き込んでリフォームを実施する「コミュニティ大工」など、地域の担い手の拡大を方向性として打ち出した。
視点4「マネジメントの強化」で示した方向性は、事業承継やM&Aなど地域工務店の経営基盤の強化、新たな時代に応じたビジネスモデルの展開、パネル化や新人教育でのDX、AI技術の導入・活用など生産性の向上に向けた技術の導入・活用とした。
■経営基盤改善が重要
とりまとめは、9月に都内で開催した持続的確保懇談会において委員から寄せられた意見を反映している。意見としては「視点3で高齢技能者の就業継続を含め、現役の職人にいかに長く就業してもらえるか、という視点も必要」「まずは現役大工の就労環境の改善が急務」「施主となる国民に対し、住宅業界の現状、技能者育成にかかるコストなどについて理解を求めることが必要」「就労環境の整備、技能者の育成に向けては視点4の経営基盤の改善が重要」などがあった。
大手住宅メーカー、住宅施工会社へのアンケートでは、売上高に応じた採用に向けた取り組みを調査。高校への説明会などの実施は工業高校の割合が高い。売上高が大きい企業の実施率が高い傾向が見られる。
(出所=国土交通省「大工をはじめとした住宅分野における建設技能者の実態調査」)
大手住宅メーカー、住宅施工会社は売上別で就業環境に差がある。売上高10億円以上の企業では就業規則が100%あるが、1億円未満では65%にとどまる。育児休業制度でも売上高10億円以上で約98%であるのに対し、3億円未満は約40%となっている。
(出所=国土交通省「大工をはじめとした住宅分野における建設技能者の実態調査」)
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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