玄海町ヴルーヴ破産問題(5)、調査報告書を読む 今後は事業継続が焦点

 佐賀県玄海町が進めるローカル5G整備事業(正式名称:高度化通信網構築事業)を手がけていたヴルーヴ(株)(東京都品川区)が、玄海町から約10億4,800万円の補助金を交付されていながら今年7月に破産した件について、本件を調査していた町議会の調査特別委員会が第1回報告書を公表した。

 12月1日、玄海町議会の高度化通信網構築事業調査特別委員会(委員長:小山善照氏)は、ヴルーヴ問題についての第1回調査経過報告書を取りまとめ、「議会だより」にて町内の住民に公表した。

 本件報告書は、9月29日に開催された調査特別委員会における、玄海町長・脇山伸太郎氏ならびに町執行部の職員らに対する聴聞の結果をまとめたものだ。報告書が掲載された「議会だより」は、玄海町内の各世帯に対して配布されるものの、インターネットなどでは公開されていない。よって報告書は実質的に町民のみに向けた文書としての性質をもつ。

 当社は入手した報告書のコピーを掲載する。

第1回調査経過報告書
第1回調査経過報告書
※クリックで拡大(PDF)

報告書の概要:町長の「箝口令」を厳しく批判

 報告書はまず不正発覚以前の問題として以下の4点を指摘する。①プロポーザル公募がヴルーヴ社ありきのもので、公募期間も極めて短いなど公正な事業者選定とはいえない。②ヴルーヴ社に対する信用調査が不十分であった。③議会への説明が不十分であった。④不正発覚に至るまでの関係者間での情報共有が不十分であった。

 そして不正発覚後の問題としては、町長が弁護士と警察の助言に従って「箝口令」を敷いたことを厳しく批判。副町長の退職につながったことや警察の不当な捜査、さらに議会も状況を知らされないままヴルーヴ社の施設開所式に参加したことを非常に遺憾とする。最後に結論として、町長らが「大きな事業の成功に固執し」「ヴルーヴ社の甘言に惑わされ」、事業を見直す機会を逃したと断じている。

 報告の内容は、事業をめぐる町長らの判断と対応についての評価・批判が中心となっている。一方で、多額の補助金を投じたローカル5G事業そのものについては、「町の事業としての内容については理解できるが」というのみで、事業の妥当性はここでは問われていない。

9月29日の調査委員会の傍聴記録から補足

 報告書のもととなった9月29日の調査委員会は筆者も傍聴した。そのときの記録から、今回の報告書が含めていない点について下記で触れる。

箝口令に至る背景~副町長は偶然不在

 まず、報告書で批判の中心となった箝口令に至る経緯について、調査委員会の記録から補足する。

 不正が発覚したのは、今年3月26日だが、副町長に状況が共有されなかった直接の原因は、この日、副町長が新型コロナウイルス感染症に罹患し休養中だったことだ。週明け月曜日(31日)に登庁する予定になっており、当初は、月曜日に副町長が復帰したら、不正についての情報を共有する方針だったという。

 ところが、翌27日に関係者会議が開かれると事態が一変する。会議の結果、不正が文書の偽造に関する重大な案件であるため、弁護士に相談することになった。町側から状況説明を受けた弁護士は、警察に直ちに相談すべきと言い、さらにヴルーヴ社との窓口であり事業の責任者である副町長らへは情報共有をしないように助言したという。

 その後、弁護士の助言に従って町側は警察へ相談。警察からも捜査に支障が出るとして副町長への情報共有は控えるように助言があり、その結果、副町長に確認するという当初の方針は放棄され、副町長には事実が伏せられたまま事態は進行することとなった。

 調査特別委員会において町長は、副町長がそのような不正をする人物ではないと信頼していたといい、弁護士や警察に対しては「とにかく副町長に言わせてください」と再三懇願したが認められなかったという。

ヴルーヴ社を紹介した仲介者

 調査委員会ではヴルーヴ社を玄海町に紹介した仲介者の存在についても触れられていた。

 町長はヴルーヴ社が町へ関わるに至った経緯について、同じく町で事業に関わることになっていたH社を紹介してもらったのと同じ仲介者による紹介だったと語っている。H社とは8月に玄海町でデータセンターを開所した企業だ。そのような紹介ルートに対する信用が、ヴルーヴ社に対する信用の前提にあったことがうかがえる。

町長は事業継続の意向~企業誘致とeスポーツ学科

 今後、焦点となるのはローカル5G事業の継続可否だ。調査委員会で町長はできれば事業を続けていきたいという意向を示していた。

 理由の1つは企業誘致だ。ローカル5G事業は、通信網の構築とともにそれを利用する企業の誘致を合わせて実現するという構想になっている。すでにデータセンターを開所した先述のH社のほかにもデータセンター開設の引き合いがきていたという。

 そしてもう1つ、事業継続の理由として挙げたのが、玄海町にある県立唐津青翔高校に26年度春に新設される「eスポーツ学科」の存在だ。学科ではコンピューターゲームの競技を「eスポーツ」として実践的なトレーニングなどの指導を行うほか、プログラミングやデザイン、イベント運営なども学べるカリキュラムにする予定となっている。定員は最大20人。全日制の公立高校でeスポーツの学科設置は全国で初めてという。

 玄海町としては、eスポーツ学科に学生を呼び込むとともに、eスポーツ大会などのイベントの開催によって若者の交流人口の増加と地域活性化につなげたいという思いがある。ローカル5Gという高速通信網の構築は、その前提となるものだ。

ローカル5Gはヴルーヴ資産、膨大な維持費

 だが、ローカル5G事業の継続は容易ではない。ヴルーヴは単にローカル5Gの運営委託先ではない。玄海町から補助金を受けて整備されたローカル5Gの施設は、破産したヴルーヴの資産である。そしてそのヴルーヴは、現在、破産手続き中である。ローカル5Gが継続されるには、適正な事業者がローカル5G関連のヴルーヴの資産を一括して買い取らなければならない。

 仮に、ふさわしい事業者が現れるとしても、その先にまだ課題がある。既報の通り、ヴルーヴはローカル5Gの維持費として町に対する見積もりで、ライセンス費用7,200万円超、保守費用3,700万円超、回線費用1,700万円弱の見積もりを出していた。人件費などを除いた設備維持費だけでも年間1億2,600万円かかるというのだ。ヴルーヴの見積もりが適正かどうかは不明だが、ローカル5Gの運営には初期投資の10~15%が設備維持費としてかかるとされ、ヴルーヴの見積もりが的外れではないことが分かる。

 先日、11月13日にヴルーヴの第1回債権者集会が東京地裁で開かれた。玄海町の担当者も債権者として出席したが、現時点で内容は公表されていない。議会に対する報告を経て、対応が検討されると見られる。

 12月8日から、町議会の12月定例会が始まる。本件について進展があるのか、注目される。

【寺村朋輝】

< 前の記事
(4)

関連記事