世界で広がるピーナッツ消費:老化防止効果への期待

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、12月5日付の記事を紹介する。

ピーナッツ イメージ    このところ世界のピーナッツ市場が急拡大しています。2024年には930億ドル(日本円で約15兆円)もの売り上げを記録。このペースで行けば、2033年までに1,200億ドルに達する見込みです。その背景には手頃な価格の植物性タンパク質に対する消費者の需要の高まりがあります。栄養価が高く、アレルゲンが管理されていることも日本やカナダ、ドイツで特に需要が伸びている要因に違いありません。

 実は、ピーナッツは老化した脳を守るための強力で手頃なツールとして医学界からも注目を集めているのです。新たな臨床研究で驚くべき発見がありました。毎日適量のピーナッツを食べるだけで、高齢者の記憶力が大幅に向上し、脳への血流も促進されるというのです。

 オランダのマーストリヒト大学医療センターの研究者らが実施し、「Clinical Nutrition」誌に掲載されたこの研究には、60歳から75歳までの健康な成人31名が参加しました。参加者は16週間にわたり、毎日60グラム(約2つかみ分)の無塩皮焼きピーナッツを摂取。結果は明確で、言語記憶は5.8%向上。注目すべきは、高度な脳スキャンで脳全体の血流が3.6%増加し、記憶と言語に重要な領域では更に大きな増加が見られたことでしょう。

 近年、私たちは長生きできるようになりましたが、必ずしも健康的であるとは限りません。認知症の症例数は世界各地で急増中です。医療界は、認知症の治療法を提供することにほとんど失敗しており、発症後の症状管理に重点を置いています。このピーナッツ効果に関する研究はパラダイムシフトを明示し、生活習慣や食事による予防は可能であるだけでなく、強力な「助っ人」であることを示しています。

 研究者たちは、これらの効果はピーナッツ独自の栄養プロファイルによるものだと考えています。本研究の中心人物であるピーター・ジョリス博士は、血流と脳の健康の重要な関連性について説明。曰く「脳への十分な血流は、脳細胞への酸素と栄養素の供給に重要です」。「十分な酸素と栄養素がなければ、代謝が活発な脳は正常に機能できず、記憶などの重要な機能に影響が出る可能性があります。」

 ピーナッツには、血管の健康をサポートし、血流を増加させることが知られているアミノ酸であるL-アルギニンが含まれているのです。また、ピーナッツの皮に濃縮された生理活性化合物と抗酸化物質は、脳細胞を直接保護します。「特定の脳領域だけでなく、脳全体に改善が見られたことに興味をそそられました」とジョリス博士は述べ、血管への広範な効果を強調。

 この研究結果の注目すべき点は、参加者がピーナッツから1日あたり約340カロリー多く摂取したにもかかわらず、体重が安定していたこと。これは、体が自然に他の食品の摂取量を調整していたことを示唆しており、高カロリーのナッツを懸念する人にとっては重要な安心材料になるでしょう。

 世界的な人口高齢化が進む中、認知機能の低下は差し迫った個人的および経済的危機をもたらしています。しかし、このピーナッツ研究が示すように、脳は文字通り、私たちが食べるものによって構築され、エネルギーを供給されているのです。

 この研究によって認知症は避けられない遺伝的要因であるという受動的な考えに疑問を投げかけ、むしろ、シンプルで実践的な戦略によって克服できるという自信を個人に与えてくれそうです。研究者らは当然のことながら更なる研究を求めていますが、初期のエビデンスは確固たるもので、安全で、利用しやすく、自然なものと言えるでしょう。

 利益の最大化を目的とした加工食品が食料品店の棚を占める中、この研究は、自然が洗練された解決策を提供している可能性を示唆しています。要は、私たちの記憶と精神を保存する道は、ハイテクな研究室ではなく、皮付きローストピーナッツの中にあるのかもしれません。まさに、「ホールフード」の揺るぎない力の証に他なりません。じっくりと噛みしめたいものです。


著者:浜田和幸
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