街路樹のイチョウが色づき、ヒラヒラと舞う銀杏の葉を見ると晩秋の脊振を歩きたくなった。
2008年から脊振山系で道標設置事業を行った。設置から17年が経ち、道標の表示板が汚れたり、支柱が傷んだりしているので、折を見て表示板を磨いたり、支柱の入れ替えを行っている。
11月26日(水)、会員Wを誘い、三瀬峠からあご坂峠まで道標のメンテナンスを兼ねて歩いた。 Wは60歳半ばの現役の公務員で、土日を含め水曜日が定休なので山行きに誘った。
山道のカーブが始まる手前に野河内渓谷の無料駐車場がある(福岡市が管理)。天気予報の1週間予報では晴れだったが、早朝、天気予報は曇り時々雨へと急変した。天気予報を見て、急遽待ち合わせ時間を30分ほど早めることにした。それも当日、自宅を出る寸前にである。Wとの待ち合わせ時間を午前8時30分に変更。Wと連絡がとれ「了解」と返事がきた。
筆者は到着が5分ほど遅れ、河内渓谷無料駐車場に着くとWはすでに来ていた。筆者の車で彼と旧国道の三瀬峠へと向かう。福岡市早良区の奥地の曲渕ダムを右手に佐賀方面へ続く国道263号のカーブ道を上り詰めると三瀬峠である。三瀬峠は伊能忠敬も測量のため歩いた道でもある。峠の小高い所に「是より北筑前國、南肥前圀」と書かれた大きな国境石が残っている。
あご坂は三瀬峠から1時間ほどの距離である。三瀬峠の標高は581mと一般の登山口より300mほど高度が高い。従って縦走路として使うには楽である。三瀬峠に立てた道標は帰りに磨くことにし、道標を背にして脊振山方面へと続く縦走路へ入る。
静かで緩い登り道が続く。時折、国道263号を通る車の音が聞こえてくる。ここから脊振山方面への縦走路途中にある金山(968m)までシロモジの樹木が多いエリアである(葉の先端が3つに分かれている。クスノキ科)。
春はシロモジの新緑が美しい。晩秋となり、黄葉したシロモジや紅葉したイタヤカエデが晩秋の登山道に彩りを添えていた。落ち葉の絨毯を踏みしめるとサクサクと心地よい足音が伝わってくる。
登山道の左手に樹木に取り付けた小型道標を見つけた。見つけたというのは、この辺に取り付けたという記憶しかないからである。三瀬峠から歩いて20分ほどの距離である。
ゴム手袋も100円ショップで購入
小型の道標に500mLのペットボトルの水スプレーをふりかけ(スプレー部を100円ショップで購入)、カメの子タワシで磨く。ペットボトルも大きいと重いし、作業に使いづらい。汚れた雫が垂れてくる、2度3度とスプレーを振りかけ、汚れをタオルで拭き取ると道標は蘇った。
夫婦づれの登山者が黙って晩秋の山道を通り過ぎてゆく。 しばらく歩いてヤブランの群生地を過ぎると小高いピークに着いた。三瀬山のピークにある小型道標を同じように磨いて、城の山(845m)へ歩を進める。
ここの道標は、08年から始めた道標設置事業の初年度、最後の設置箇所で、国土地理院の真鍮製の四等三角点が埋め込まれている。
作業を始める前に、ひとまず休憩し、腹を満たすことにした。薄曇りのなか男2人の休憩が始まった。女性が参加すると何かと賑やかだが、男2人となると無駄口はないので余計に静かである。前回の野河内渓谷の清掃時に用意した固形みそ汁が残っていたので持参していた。
保温ポットの湯を紙コップにそそぎ味噌汁を溶かす。Wは和食弁当を、筆者はいつものように一口アンパンを頬張った。温かい味噌汁が喉に流れてゆき、冷えた体が温まる。
この道標は数年間磨いてないので、すっかり花粉や苔で汚れていた。作業を開始する。ペットボトルの水スプレーを表示板に何度もかける。花粉の汚れが落ちていく。それをカメの子タワシで何度も磨く。作業時間10分、すっかり道標は蘇った。
思えば、この場所の作業に後輩の学生を入れ7、8人程度参加した。そのなかに女子大生2人もいた。当時の作業の光景が頭に浮かぶ。いま彼女たちは母親となっている。
作業を終え、金山が一望できる縦走路途中のビューポイントへ向かった。岩場からなるビューポイントからは、金山が三角形にそびえ立ち、 雄大に見られる場所で、筆者はときどき1人で訪れている。
金山の展望を終え、岩場の急坂を下りあご坂峠へむかった。標高にして100mは下るのでかなりの下り道である。
あご坂峠は福岡方面からも花乱の滝ルートと三瀬峠から金山〜脊振山方面の縦走路の分岐点となり、佐賀県方面へも下ることもできる。
佐賀方面への下りは杣道で、いまは荒れたルートとなり炭焼きの跡が何カ所もある。ここの道標は、2年前に会員とワンゲルの後輩の学生とで傷んだ支柱を入れ替えた。入れ替えた支柱には防腐剤を上塗りした。
支柱に取り付けた表示板は縦走路の分岐点であるので板の両面に文字を入れている。汚れた表示板を何度も磨く。作業時間もかかった。2人は黙々と作業を続けた。
20分ほどで作業を終えた。周辺の紅葉が美しい。それぞれお気に入りのポーズをして互いのスマホで写真を撮りあった。Wはここを歩くのは初めとのことで、すっかり気に入ったようだ。
スマホでの撮影を終え三瀬峠へと踵を返した。所要時間1時間30分ほどである。三瀬峠までアップダウンの登山道が続く、急な登りもあり、息が荒くなる。
帰り道は行きと目線が違うので周辺の景色も興味ぶかい。春に咲くサクラツツジの場所はこのあたりだったかな? 同じような場所がたくさんあるので明確な記憶がない。サクラツツジは帰宅して日誌で確認することにして、サクラツツジの場所を探しているうち落ちたサザンカの花びらを見つけた。
この縦走路に1本だけサザンカの大きな樹木がある。顔を樹木の上に向けると赤いサザンカの花が咲いていた。筆者とサザンカの心の会話が続く。「会えてよかった。来年また会おう」。
ここから20分下り、三瀬峠へ戻ってきた。ここの道標も痛んでいて支柱の入れ替えが必要であった。
筆者が周辺の草刈りをし、Wが道標を磨き始めた。Wは熱心かつ几帳面に作業を続けた。隣に立てているイラスト登山地図も水スプレーをかけ、雑巾で汚れを拭き取った。イラスト登山地図設置は福岡平成ロータリークラブの支援によるもので、23年8月に登山地図と同等サイズの横90㎝、縦50㎝のパネルを取り付けたものである。
道標もイラスト登山地図もすっかりきれいになった。傷んだ道標の支柱の入れ替えは来春にすることにした。
今日の作業を終え、野河内渓谷無料駐車場に戻り、それぞれ帰宅の途についた。「晩秋の山歩きが素敵で、道標の清掃で身も心もきれいになった」とWからメールが届いた。晩秋の素敵な山歩きであった。
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行








