【新春トップインタビュー】地域の「稼ぐ力」を世界へ 九州から築く持続的成長の新局面

九州経済産業局長 星野光明 氏

 賃上げと投資拡大で日本経済に明るさが戻る一方、地方には人手不足や物価高など構造的課題が山積している。政府は戦略産業クラスター形成を軸に、中堅・中小企業の「稼ぐ力」を高め、九州から持続的成長を実現していく。

令和8年の新春を迎え謹んでお慶び申し上げます。

九州経済産業局長 星野光明 氏
九州経済産業局長
星野光明 氏

 我が国経済は、賃上げや国内投資が約30年ぶりの高水準となり、名目GDPも初めて600兆円の大台を超えるなど、明るい兆しが現れています。

 一方で、事業者の皆様方の経営環境に目を向けますと、労働力人口の減少、エネルギー・原材料価格の高騰、米国関税、また相次ぐ自然災害の発生など、より一層の厳しさと先行きの不透明感が増しております。

 政府といたしましては、こうした課題に立ち向かい持続的な経済成長を達成するため、新たな総合経済対策の下、「稼ぐ力」の強化と賃上げの好循環の実現に取り組んでまいります。なかでも、足腰の強い持続的な経済成長のためには、それを支える地方が、誰もが安心して暮らすことのできる活力ある場であることが不可欠です。

 これを実現するための具体的な方策として、政府が新たに設置した「地域未来戦略本部」では、地域ごとの戦略産業クラスターの形成により、地域から世界をリードする技術・ビジネスを創出するとともに、地域を支える地場産業の付加価値向上と販路開拓を強力に推進してまいります。

 中堅・中小企業の「稼ぐ力」を底上げ

 とくに九州は、半導体や再生可能エネルギーを始めとする戦略分野の企業や研究機関が集積しており、全国を牽引するポテンシャルを有しております。このポテンシャルを開花させるために、九州経済産業局は、地域の関係者と連携して設備投資とインフラ整備を一体的に進めるとともに、洋上風力発電や、拠点形成に向けた検討が進む水素の利活用を推進し、産業競争力の強化とエネルギー安全保障、GX、脱炭素を一体的に図ってまいります。加えて、地域企業の積極的な投資に必要な産業用地整備や産業人材の育成にも取り組みます。

 戦略産業クラスターの形成に向けては、それを構成する地域の中堅・中小企業の「稼ぐ力」の強化や事業環境の整備が欠かせないことから、中堅企業や売上高100億円を目指す中小企業の成長投資や海外展開・新市場開拓、中小企業・小規模事業者の生産性向上を設備投資補助金や伴走支援などを通じて徹底的に支援します。

 また、中小企業・小規模事業者が直面する人手不足、物価高、最低賃金引き上げ等の事業環境変化に対しては、よろず支援拠点事業を中心に相談体制を強化して省力化投資などに資する支援策の活用を促すことで対応するとともに、財務上の問題や後継者不在等の課題には収益力向上・事業再生・再チャレンジ支援や事業承継・引き継ぎの支援を実施します。頻発する自然災害への対応については、BCP策定支援などを通じて、中小企業の事業継続力のさらなる強化にも取り組みます。加えて、価格転嫁対策について、本年1月1日に施行した中小受託取引適正化法・受託中小企業振興法などを通じ、中小受託事業者の利益保護と公正な取引関係の構築を強化します。

 一方、地政学的環境変化等による経済安全保障上のリスクの高まりに対応するため、事業者や業界団体等に対して、経済安全保障への理解向上や注意喚起を含めたアウトリーチ活動を精力的に行ってまいります。

 皆さまのお声をお聞きしながらこれらの取り組みを進め、雇用と所得の上昇が潜在成長率を引き上げる「強い経済」をここ“九州”から実現していくべく、本年も職員一丸となって挑戦してまいります。

 本年が皆さま方にとって実り多き飛躍の年になることを願いまして、新年の御挨拶といたします。

<プロフィール>
星野光明
(ほしの・みつあき)
1992年東京大学経済学部卒業、同年4月通商産業省入省、在中国日本大使館、製造産業局および資源エネルギー庁、中小企業庁で勤務のほか、富山県警察本部警務部長、ジェトロ香港事務所産業調査員、通商政策局北東アジア課長、通商交渉官を務め、2018年からは日本台湾交流協会台北事務所首席副代表(経済統括)として対外経済分野を担い、22年観光庁国際観光部長(併)内閣官房内閣審議官就任、24年から現職。


地域経済の現場で国の政策を実装する
九州経済産業局の役割

 国の産業政策は、制度をつくるだけでは地域経済を動かせない。九州経済産業局は、経済産業省の地方支分部局として、九州の産業構造や企業の実情を踏まえ、政策を「地域仕様」に変換し、現場で実装する役割を担ってきた。中小企業支援を軸に、2025年の取り組みと26年以降の展望をさぐる。

地域経済の現場近くで
国の政策を実行する機関

 九州経済産業局は、経済産業省の地方支分部局として、九州地域を管轄する国の行政機関だ。所管分野は、中小企業政策、産業振興、エネルギー政策、通商政策、技術開発支援、地域経済分析など多岐にわたる。本省が策定する産業政策や中小企業政策を、地域の実情に即して実装・運用する「現場機関」という性格をもつ。

 特徴的なのは、単なる補助金窓口や制度説明機関ではなく、自治体、金融機関、大学・研究機関、産業支援機関、民間企業とのネットワークを通じて、地域経済の課題を立体的に把握し、政策を調整・接続する役割を担っている点だ。九州経済産業局は、九州各県の経済構造や産業特性を熟知した存在として、国と地域の「翻訳装置」ともいえる役割をはたしている。

 九州は製造業、農林水産業、観光、半導体、エネルギーといった多様な産業が混在する地域であり、県ごとの経済構造の差も大きい。この複雑な地域において、全国一律の政策をそのまま当てはめるだけでは十分な効果は得られない。九州経済産業局の存在意義は、政策を「地域仕様」に変換する調整力にあるといえる。

中小企業と地域経済を
どう支えてきたか

 九州経済産業局の主要なミッションの1つが、中小企業・小規模事業者支援だ。具体的には、事業再構築補助金、ものづくり補助金、持続化補助金など国の主要施策について、説明会や個別相談、支援機関向け研修を通じて地域に浸透させてきた。

 また、事業承継・M&A支援、スタートアップ支援、価格転嫁対策、人手不足対応、DX・GX支援など、近年の中小企業を取り巻く課題に即したテーマ型支援も継続的に実施している。九州各地の支援機関と連携し、単発ではなく「面的支援」を意識した取り組みが特徴だ。
 九州経済産業局は補助金や支援策を「どう届けるか」「どう使ってもらうか」に重点を置き、金融機関や商工会議所・商工会との連携を通じて、経営の現場に近いところで政策実現に力を発揮している。

25年を振り返る
不確実性時代の政策実装

 25年は、国内外の経済環境が依然として不透明ななか、地域中小企業の生産性向上、デジタル化・脱炭素対応、国際展開支援といった政策課題が一段と重要性を増した年だった。九州経済産業局は、こうした社会・経済構造の変化に対し、制度周知・現場相談・実践支援を複合的に展開した1年になった。

(1)中小企業の強靱化と経営支援施策の実行

 同年初頭から九州経済経産局は、「連携事業継続力強化計画普及セミナー」を熊本、鹿児島、宮崎、佐賀の4県で中小機構と共同開催した。これは、中小企業が災害や事業リスクに対して連携して計画を策定する制度を普及させるためのものであり、経営者自らが組織としての「強さ」を再構築する意識醸成を目指したものだ。これは単なる制度説明会ではなく、複数企業による連携プランの策定事例紹介も含め、実践的なノウハウ共有の場となった。こうした取り組みは、防災力を政策として浸透させるうえで重要であり、地域中小企業の事業継続力強化に貢献したといえる。

(2)デジタル化・技術高度化支援と研修・交流イベント

 同年後半にかけては、中小企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)・セキュリティ対応をテーマにしたセミナーが各地で開催された。九州経済産業局は、企業経営者だけでなく経営支援機関や実務者を対象に、「中小企業のためのAI活用・DX推進セミナー」や「中小企業の省エネ・脱炭素ワークショップ」などの場を設けた。これらは単なる概論ではなく、具体的な導入プロセスや外部専門家との討議を通じて、中小企業が抱える「何から着手すべきか」という実務的な課題に応える内容だった。こうした連続的な学習と交流機会の提供は、経営者層の意識変革につながりつつある。

(3)地域ブランド・知財戦略の強化

 同年は、地域の特性を生かした商品・サービスのブランド育成支援も強化された。九州経済産業局は、「令和7年度九州における地域ブランド『稼ぐ力』育成支援事業」として、公募を実施。地域資源を生かした商品企画、デザイン、販売戦略、知財戦略までを専門家伴走型で支援し、地域商材の競争力向上と持続的な収益モデル構築を目指した。こうした取り組みは、単なる補助金付与ではなく、地域全体のブランド力を底上げすることを目的としており、地域の「稼ぐ力」の本質的な強化に寄与した。

(4)国際化・投資誘致と企業間交流の促進

 同年は、九州の国際展開支援も目立った。「インダストリアルツアー in Kyushu」が北九州で実施され、在日外資系企業や外国政府関係者などが招かれた。北九州市のDX・ロボティクス関連企業の現場視察を通じ、地域企業との対話・協働の機会が創出された。これは、単なる投資環境説明ではなく、地域の先端企業の技術力を理解してもらう場となり、将来的な共同研究・進出の可能性を探る一里塚となった。

 加えて、九州経済産業局は地域間国際交流のプラットフォーム形成にも関与しており、Yellow Sea Rim Economic and Technology Exchange Conference(環黄海経済・技術交流会議)などの歴史的枠組みにも関与を継続している。これらは九州企業の海外市場アクセス強化策としての機能をもつ。

(5)起業・スタートアップ支援の深化

 スタートアップ支援では、「九州スタートアップ・ギャザリング」を熊本、宮崎の 2 県で開催した。これは、九州におけるスタートアップの成長段階に応じた施策の活用を促進し、国・自治体・支援機関等の連携を通じて、スタートアップ関係者が一堂に集まり情報交換・ネットワーク構築を図るものである。こうした取り組みは、九州におけるスタートアップ・エコシステムの確立に向けた基礎づくりとして評価できる。

● ● ●

 25年の九州経済産業局の取り組みを見ると、政策の「周知」から「現場実装」への重心移動が顕著だったと評価できる。制度説明だけでなく、実践的なワークショップ、海外からの視察、企画公募型支援など、多様な角度から現場の課題に寄り添い、企業自らが行動変容しやすい環境づくりに力点を置いている。

 今後の継続課題としては、こうした支援の効果測定・横展開や、政策と実際の業績改善の因果関係を可視化する仕組みづくりが重要になるだろう。実際の成果を今後の政策設計に反映させることで、地域経済全体の生産性向上と競争力強化につながると考える。

26年以降期待される
継続的な取り組み

 九州経済産業局の今後の施策としては、「未来につなぐ、活力のある九州の実現」という組織理念のもとに設定された組織目標により次のような施策を強化することが期待される。

(1)中小企業支援の継続と深化

 地域の中堅・中小企業の「稼ぐ力」を高めることが重要施策として据えられており、成長投資や海外展開、新市場開拓、生産性向上を設備投資補助金や伴走支援で重点的に支援する方針だ。とくに、人手不足や物価高、最低賃金引き上げといった事業環境の変化への対応として、よろず支援拠点を中心とした相談体制の強化と省力化投資支援を行うほか、財務問題や後継者不足には事業再生・再チャレンジ、事業承継支援を行い、自然災害対策としてBCP策定支援が進められると見られる。

(2)エネルギー政策をけん引

 エネルギー安定供給・脱炭素対応・GX投資支援も継続されることになるだろう。再生可能エネルギー・カーボンニュートラル関連政策を地域経済の主要テーマとして九州経済産業局がけん引していくことが期待される。

(3)国際展開・対日投資促進体制の強化

 なかでも注目されるのが、海外から九州への企業・産業誘致ならびに九州から海外への進出を支援する施策の発展だ。25年4月に九州経済産業局は「経済交流促進課」および「海外展開支援室」を新設する組織改革を実施している。これは対日投資・海外展開支援体制を強化するための制度設計であり、26年以降の国際的な企業連携促進活動の恒常化を狙うものだ。具体的には、海外展開支援室での中堅・中小企業の海外展開支援体制の整備、経済交流促進課による九州地域への対日直接投資推進体制を整備が想定され、対日投資の推進や地域企業の海外市場開拓に向けた支援が拡大する見込みだ。

【寺村朋輝】

法人名

関連記事