ニデック創業者の突然の辞任:背景に隠された“永守イズム”の限界(前)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

永守重信の電撃退任と「院政」への視線

ニデック イメージ    不適切会計問題に揺れるニデックは2025年12月19日、創業者の永守重信グローバルグループ代表(81)が同日付で取締役などを辞任したと発表しました。辞任は本人の意向によるもので、今後は非常勤の名誉会長になるとのこと。非常勤とはいえ、個人として大株主であることに変わりはなく、百戦錬磨の永守氏であれば「院政」の可能性は否定できません。それやこれやで内外に激震が走りました。

 京都市に本社を構えるニデックは世界一を誇る総合モーターメーカーです。パソコンの冷却ファンやスマートフォンの振動モーターなど「精密小型モーター」や電気自動車(EV)の心臓部となる車体制御用コントローラーなどの設計や製造に強みを発揮してきました。25年3月期の売上高は2兆6,000億円を突破しています。

 発表によると、永守氏は代表権を返上するほか、取締役会議長の役職からも離れるとのこと。取締役会議長の後任には2024年2月から社長兼最高経営責任者(CEO)を務める岸田光哉氏が就任するといいます。永守氏は発表した短い声明で、「ニデックが早く再生し、生まれ変わることが一番の願いだ」と述べています。

 また、不正経理の疑義で企業風土に問題があると指摘されている点に関し、創業者の自身が企業風土を含めて築き上げたとして、世間に心配をかけた点について「申し訳なく思っている」と陳謝。今後の経営を岸田氏にすべて委ねることで、「ニデックは、しっかり再生できると信じている」と含みを残しました。
 1944年生まれの永守氏は職業訓練大学校を卒業後、音響機器メーカーを経て73年に日本電産(当時)を創業しました。「1日16時間、元日の午前以外は毎日仕事をする」という猛烈な働きぶりで知られ、一代で同社をグローバル企業に成長させた経営手腕は常に話題を集めてきたものです。酒もたばこもやらず、ゴルフや夜遊びにも縁のない「仕事三昧」のライフスタイルをアピールしてきました。かつては孫正義、柳井正と並び「饒舌三兄弟」と異名を誇っていた永守氏です。

「永守流経営」の光と影──強権体質とガバナンスの歪み

 自らを「太陽よりも熱い男」と形容するほどの猛烈な経営者で通してきたとはいえ、足元では不適切会計の疑義が相次いで浮上するなどガバナンス体制の懸念が指摘されていました。何しろ、永守氏の調達戦略は「Mプロジェクト」と呼ばれていますが、Mとは「まけてくれ」との意味だといわれています。とにかく部品の調達には値切りが欠かせないというわけで、「サプライヤー泣かせ」で有名でした。また、永守氏は個人でニデック株の約8.3%を保有する筆頭株主でもあります。

 永守氏の自慢する『永守流の経営とお金の原則』によれば、「M&Aは成長のために時間を買う戦略」とのこと。永守氏曰く「M&Aはすべて成功し、失敗はゼロ」と豪語し、自画自賛とも思える強気の姿勢を見せてきました。メディアからも「買収王」とか「M&A巧者」と祭り上げられてきたものです。しかし、1984年から実施しているM&Aの内実は必ずしも順風満帆ではありませんでした。

買収王の失敗──GPM問題と牧野フライス騒動

 たとえば、日本電産は2015年、ドイツの車載ウォーターポンプ会社GPMを買収しました。ところが、4年後にはポンプの不具合が発覚。部品交換やソフトウェアの変更コストとして21年、英国のジャガー・ランドローバーから31億円の損害賠償請求を受けることになったものです。当時の日本電産の幹部からは「GPMは当社の買収過程で一部の顧客とトラブルを抱えていた。その点、我が社の買収前の調査が甘かった」と反省の弁を述べていました。

 また、24年には工作機械メーカーの牧野フライス製作所へのTOB(株式公開買い付け)の提案を事前のすり合わせなく発表。すったもんだの末、撤回を余儀なくされてしまいました。

不適切会計の連鎖と市場の制裁

 実は、ニデックでは25年6月にイタリア子会社の関税未払い問題をはじめ、子会社の「ニデックテクノモータ」の中国子会社でも2億円の購買一時金が不適切な会計処理をされていた疑いが発覚するなど、世界各地の関連子会社で経理上の問題が急浮上。こうした「粉飾決算」が疑われる問題の調査で約3カ月遅れて提出した前期(25年3月期)の有価証券報告書で監査法人の意見が得られないという前代未聞のスキャンダルに見舞われてしまいました。

 その結果、ニデック株は25年10月下旬には東京証券取引所から「特別注意銘柄」に指定され、日経平均株価の構成銘柄からも除外されてしまいました。一連の不適切会計については外部の弁護士などで構成される第三者委員会で今も調査が継続して進められていますが、全容が明らかになっていません。それもあって同社株は昨年初来から約30%下落していました。

 そうした危機的な状況に至り、岸田氏は昨年11月の会見で、「問題の背景には短期的な収益にこだわり過ぎる同社の企業風土があった」とし、改善していく考えを示したものです。「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」というニデックを象徴するモットーについても「必ず正しくやる」という新たな倫理観を加えることが重要との考えを示しました。

 岸田氏はまた、ニデックの社風のなかにプレッシャーがあるのは否めず、短期的にもうけた人だけが評価されるような人事制度や会計のプロセスなどが原因ととらえ、「その背景を徹底的に潰していく」との決意も示していました。

 第三者委員会の調査結果が出る前での永守会長の辞任は「タイミングとしては意外」だったとの指摘もありますが、ニデックの企業文化は永守氏そのもので、企業風土改革をしていくなかで永守氏が身を引く決断をした結論については「違和感がない」との受け止め方も多いようです。一部には、さらなるスキャンダルの発生を懸念しての「早期退職ではないか」と疑念の声も聞かれます。いずれにせよ、今後、市場の注目は岸田氏の指導力や進退に移っていくものと思われます。

 ニデックではカリスマ経営者として知られた永守氏への依存が大きく、後継者の確保が課題となっていましたが、外部から引き抜いた幹部人材の流出が続いていました。岸田氏に最高経営責任者(CEO)を譲った際も、ニデックの成長の原動力となってきた「合併・買収(M&A)については自身が担当する」と永守氏自身が述べていたものです。こんなことで、はたして、企業として存続していけるのか、内外の投資家は固唾を飲んで見守っています。

(つづく)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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