トランプ大統領の自信の背景:フリーダム・シティ構想

 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、1月9日付の記事を紹介する。

グリーンランド イメージ    新年早々、トランプ大統領は南米ベネズエラを軍事攻撃し、あたかも自身が新たな最高指導者のごとく振舞っています。しかも、ベネズエラに限らず、カナダやメキシコも自国領に組み入れる野心を隠そうとしていません。気に入らない国や指導者は片っ端から排除するという考えに突き動かされているようです。一体全体、そんな野心はどこから生まれてきているのでしょうか?アメリカを唯一最大の同盟国とする日本にとっても他人事では済まされそうにありません。

 とはいえ、トランプ大統領の次なる標的はデンマーク領のグリーンランドのようです。実は、資源の豊かなグリーンランドに関しては、デンマークからの買収、あるいは武力で奪取しようとする動きを強めています。その背後には、シリコンバレーの一部のテクノロジー投資家が、この凍てつく世界最大の島をいわゆる「フリーダム・シティ」、つまり企業規制が最小限に抑えられた自由至上主義のユートピアの建設地にしようと構想しているのです。

 関係者の間での協議はまだ初期段階ですが、トランプ大統領がデンマーク大使に指名したケン・ハウリー氏はこの構想を強力に推し進めようとしています。そして、グリーンランド買収交渉を主導する見込みです。同大使は、かつて規制の少ない都市の推進派として知られるテクノロジー界の大富豪ピーター・ティール氏と共にベンチャーキャピタル会社を共同設立した経歴を持つ人物。また、ハウリー大使はトランプ大統領と親しいイーロン・マスク氏の長年の友人でもあります。

 現時点でのグリーンランド買収構想には、人工知能(AI)、自律走行車、宇宙船打ち上げ、小型原子炉、高速鉄道の拠点整備が含まれているようです。思い起こせば、トランプ氏自身も2023年の選挙動画でこうしたグリーンランド取得計画を約束していました。決して急に思いついた話ではありません。

 トランプ政権がこのような領土拡張構想を推進しようとしていることは、テクノロジー業界の大物たちの影響力の拡大と、トランプ氏本人の拡張主義的な外交政策を浮き彫りにしています。トランプ大統領は、これまで「アメリカ・ファースト」政策を掲げて選挙を勝ち進んできたのですが、昨年11月の当選以来、パナマ運河の奪還、カナダの併合を訴え、そしてパレスチナ難民から海岸沿いの土地を奪取し、戦争で荒廃したガザ地区の再開発を提案し、年明けにはベネズエラへの軍事侵攻を強行したばかりです。

 そして、今や「グリーンランドはアメリカの一部だ」と宣言しました。グリーンランドはテキサス州の約3倍の面積ですが、人口はわずか5万7000人しかいません。しかし、同島は米軍基地を構える米軍にとって戦略的に重要な島であり、レアアースを含む豊富な鉱物資源を擁しています。

 しかも、トランプ大統領は、デンマークが売却に応じない場合、軍事力によるグリーンランド奪取の可能性を排除していません。「我々はグリーンランドを手に入れなければならない。なぜならアメリカの安全保障に欠かせないからだ」と、トランプ大統領は、バンス副大統領がグリーンランドの米軍基地を視察した際に述べました。

 とはいえ、世論調査によると、グリーンランドの住民は圧倒的にアメリカへの併合に反対しており、バンス氏の訪問は現地で大規模な抗議活動を引き起こしたほどです。グリーンランドはデンマーク領ですが、自治権を有しています。グリーンランドの新首相、イェンス=フレデリック・ニールセン氏は、「トランプ政権の主張は敬意の欠如を示すものだ」と述べ、反対の意向です。

 バンス氏は米軍基地で兵士らに対し、デンマークが「ロシア、中国、その他の国々による非常に攻撃的な侵略からグリーンランドを守ってこなかった」と非難しましたが、具体的な侵略行為については言及していません。

 実は、「フリーダム・シティ」(自由都市)運動は、1800年代のアメリカの西部開拓へのノスタルジアに根ざしたもので、アメリカの新たなフロンティア開拓への熱狂を反映しています。グリーンランドへの進出は「新たな運命の夜明けとなり得る」と、テクノロジー投資家のシェルビン・ピシェバー氏は述べていますが、これは、「アメリカは神から与えられた領土征服の使命を持つ、例外的な国家である」という19世紀の哲学に言及したものです。

 果たして、トランプ大統領の描く「西半球全体を支配下に置く」という新国家戦略ですが、どこまで実現性があるものか、大いに疑問が残ります。そもそも、電撃作戦で主導権を握ったベネズエラですが、同国の誇る世界最大の埋蔵量の石油の開発も軌道に乗るかどうかは怪しい限りです。

 「フリーダム」とはいえ、アメリカにとっては好都合でしょうが、自由を奪われることになるベネズエラにしても、グリーンランドにしてもおいそれと承諾するとは思えません。トランプ大統領がごり押しすれば、新たな対立と戦争に発展しかねません。前途多難な2026年になりそうです。


著者:浜田和幸
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