私的便宜に組織を巻き込み不正を働いた大学病院長~ゲスなトップ(1)

 昨年末に報じられた九州大学前病院長の経費不正支出問題と辞任。金額の小ささに比して虚偽文書作成という行為の悪質さが際立っており、名門大学病院のトップでありながら、ささいな利益のために偽装工作をした振る舞いにより、倫理観と責任感の欠如をさらけ出してしまった。このようなトップのゲスな振る舞いについていくつか取り上げたい。

 九州大学病院の中村雅史前病院長が2025年12月24日付で、女性教員の出張に関する経費不正支出に関与した責任を取り、病院長を辞任した。辞任は「本人の申し出」とされたが、大学の調査により不正支出への関与が認定されたことが背景にあり、事実上の引責辞任である。中村氏は役職を外れたものの教授職にはとどまったが、今年に入り、九州大学を退職したことが公表された。

 問題となったのは、女性助教が昨年2月に行った県外出張にともなう宿泊費と日当の支給である。私用による延泊分は当然旅費支給を認められないが、助教から相談を受けた中村氏は、現地で実際には存在しなかった「ミーティング及び情報交換会」が開かれたように見せる虚偽の案内文書を事務担当者に作成させ、助教に渡した。助教はこれを旅費精算資料に添付することで、旅費を不正に受け取った。九大は不正の疑いに関する情報提供を6月に受け、調査委員会を設置。6月から11月にかけて調査・聞き取りを実施するなかで、不正の事実を認定した。中村氏の辞職は、この自身の不正を認めてのものである。

 この助教の出張をめぐって、中村氏は相談を受ける立場にあった。しかし、指導的立場として「規程どおりに処理すべき」と諭すのではなく、むしろ架空の会合があったかのように偽装し、その偽装を事務担当者に行わせてまで不正な申請をさせたのはなぜか。両者の間にどのような関係があったかは報じられていないが、中村氏が院長としての権限と立場を利用して特定の部下に不正に肩入れした構図は公私の線引きの甘さを印象づける。トップ自らが虚偽文書作成を指示したことで、経費チェック体制や決裁プロセスそのものへの信頼が揺らぎ、大学病院全体のガバナンスにも問いを突き付ける結果となった。

 中村氏は1988年に九州大学医学部を卒業後、肝胆膵外科を専門とする外科医として実績を重ね、海外での研修・研究も経て、2015年に九大教授、22年には九州大学病院長に就任した。日本外科学会の公式サイトによると、28年4月に福岡市で開催予定の第128回定期学術集会で会頭を務めることも決まっていた。

 医師・研究者としてのキャリアは華やかであったにもかかわらず、最終的には1万数千円という少額の経費をめぐる不正で失脚した構図は象徴的である。その行為は、組織のトップとしてのコンプライアンス意識に欠けた行為を行う人物はほかにもいるが、私的で小さな便宜のために不正行為に事務組織を巻き込んだという点で、ゲスな行為におよんだと見なされてしまった。

【茅野雅弘】

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