【新春トップインタビュー】水産業界の未来への投資を加速──三陽グループ

(株)三陽
代表取締役社長 髙橋利明 氏

 福岡の新たな定番食品として確立しつつある、鮮度自慢の“三陽のアジフライ”。2026年、その味は海を越えて世界最高峰のプロ野球リーグ・MLB(メジャーリーグベースボール)でも展開が始まる。さらにはマグロの養殖拡大やNFT※、そして、ブルーカーボンの活用へと事業は広がっていく。伝統的な水産業の枠を超え、多角的な事業展開を進める三陽グループの、水産業の未来に向けたプロジェクト展開を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 執行役員 鹿島譲二)

※NFT…Non-Fungible Token(非代替性トークン)の略。ブロックチェーン技術を使い、デジタルデータの価値と所有権を証明する仕組み。

生産能力2倍へ 島根の新工場計画

(株)三陽 代表取締役社長 髙橋利明 氏
(株)三陽
代表取締役社長 髙橋利明 氏

    ──今年は島根県での巨大プロジェクトが本格化します。

 髙橋利明氏(以下、高橋) 島根県浜田市での新工場建設ですね。アジの需要拡大に対応するもので、生産能力は現在の松浦工場(長崎)の約2倍を想定しています。国の補助金などを活用し投資総額約80億円を投入します。スケジュールとしては今年着工、2027年稼働開始を予定しています。

 ──九州でなく島根を選択した理由は。

 高橋 前提として松浦工場の生産能力が限界に近付いていることがありますが、これまで山陰地方で水揚げした魚も松浦工場で加工し、そこから大阪や東京などに配送していました。こうしたなか、2024年問題に直面し、物流の効率化も重要な課題となってきました。そこで、大消費地の関東に近い場所に新たな拠点を設けることにしました。候補地を探すなかで、とくに支援体制が充実していたのが島根県浜田市でしたので、同地域への進出を決めました。配送効率の改善はもちろんですが、当社の新工場を雇用創出や地域の活性化につなげたいと思っています。

 ──すべてアジの加工用工場になりますか。

 高橋 現地は豊富な漁場でもあります。アジを主軸に、サバやイワシも検討していきます。既存事業の規模拡大はもちろん、新規案件にも対応できる体制を整えていきたいと考えています。

パドレス本拠地に三陽のアジフライ

 ──MLBサンディエゴ・パドレスの本拠地、ペトコ・パークへの出店が決まりました。

 高橋 今契約が最終段階に入っていますが、今期から出店します。ファンの観戦体験をより良いものにしたいと考えてきたパドレスはMLBのなかで最もフードに力を入れている球団の1つです。当社はペイペイドームに出店させていただきましたが、パドレス側が日本のパ・リーグチームでアジフライが売れているとの情報を得て、興味を示したのがきっかけです。24年6月、パドレス幹部が来日した際に東京で実際に食べていただいたところ、皆さんご用意した3枚すべて完食され、おいしいと評価をいただき、その場で「これでいきましょう」と決断していただきました。

ぺトコ・パークに三陽食堂の出店が決定
ぺトコ・パークに三陽食堂の出店が決定

    ──ペトコ・パークでの提供開始はいつ頃の予定でしょうか。

 高橋 MLBの公式開幕戦が3月下旬ですので、それまでには提供を始めたいと考えています。MLB屈指の飲食店が充実した球場として知られるペトコ・パークですので、アジフライ単品だけでなく、現地の食文化に合わせてサンドイッチ形式など、料理長と相談しながらメニュー開発を行っています。店名は三陽食堂のまま行こうとも考えたのですが、現地の人に何を売っているのかが伝わりやすいように、たとえば「Japanese Fish Fry Shop by 三陽食堂」など、いろいろと検討中です。

 ──価格設定について教えてください。

 高橋 実際に現地に足を運びましたが、サンド類が15〜20ドル、ビールが16〜17ドル(日本円で2~3,000円)程度でしたので、同水準の価格設定になると思います。

自動販売機から始まった三陽食堂

 ──近年B2C事業も積極的に展開していますね。

 高橋 アジフライは当初業務用として販売していたこともあり、三陽の名前が一般消費者に広がっていかないという状況が続いていました。水産業界においても人手不足、とりわけ次世代を担う若手人材の確保が課題となるなかで、彼らの就職先の選択肢の1つに水産業が挙がるためにも、まずは当社のことを知ってもらう必要があると考えました。

 認知度向上を目指し、22年にスタートしたのがアジフライやいかしゅうまい、干物の冷凍食品が購入できる自動販売機の導入でした。長年業務用として販売してきたからこそ、最初は小売を始めることに不安もありましたが、本社と松浦工場の2カ所に設置したところ売れ行きが好調だったため、より人目に触れるようにと、福岡市地下鉄の天神南駅、薬院駅、JR博多駅に設置しました。目を引くデザインも手伝い、メディアに取り上げられたことで、自動販売機の売上は大きく伸びました。

三陽の冷凍自動販売機
三陽の冷凍自動販売機

 ──その後、三陽食堂も話題になりました。

 高橋 本社1階に空きスペースができたため、試験的に自分たちだけで飲食店を運営してみることにしました。飲食店運営に関するノウハウはありませんでしたので、誰でも対応できる――再現性を高める目的で、完全キャッシュレス化と属人性を省いた運営設計にしました。近隣住民からの利用を見込んでおり、オープン時は告知せずに、店舗運営に慣れることを優先しましたが、インフルエンサーの投稿をきっかけに突如行列ができるようになりました。現在は博多駅、PayPayドーム、東京の八重洲地下街にも出店しています。今後の店舗展開はフランチャイズ方式も視野に入れており、東京ビッグサイトで開催予定のフランチャイズ・ショー2026にも出店予定です。将来的には数十店規模で需要のある地域に展開していければと考えています。

加工残渣も活用 マグロ養殖の可能性

マグロの養殖にも注力
マグロの養殖にも注力

    ──マグロの養殖事業にも取り組まれています。

 高橋 長崎の対馬、鷹島、大分の佐伯でマグロの養殖に取り組んでいます。川上から川下まで一気通貫で手がける当社は、自社でヨコワ(マグロの稚魚)を確保できるのが強みです。また、アジなどの魚類の加工残渣を餌として再利用する資源循環も実現しています。今後5カ年で生け簀20基規模を目標にしていますが、市況を見ながら柔軟に対応していきたいと考えています。

 ほかのグループ企業には、巻き網でアジやサバ、ヨコワを確保する海興水産(株)、対馬でマグロの養殖や定置網漁を行う(株)西山水産、鷹島で同様の取り組みを行っている(株)シイヤマ水産、自社で買付けした魚を要望に応じてドレス、フィレ、切身などに加工する(株)ウエストジャパンフーヅがあります。

 ──環境関連の新規事業を立ち上げるとお聞きしました。

 高橋 「イグニションブルー」という新会社を設立予定です。きっかけは、北海道のホタテ業者から貝殻の処分に困っているという相談を受けたことでした。中国への輸出ができなくなり、産廃場の残余容量も限界に近づいている状況でした。当社にも何かできることはないかと考えるなかで、注目したのがホタテの貝殻を混ぜた魚礁が海藻の成長を促進するという研究データでした。海藻は光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素として体内に貯留する能力があり、この働きはブルーカーボンとして地球温暖化対策で注目されています。ホタテの貝殻をリサイクルして魚礁材として活用すれば、ブルーカーボンクレジット※を創出する事業としての展開にも期待できるため、パートナー企業と一緒に先述の新会社を設立することにしました。

 また、養殖したマグロをNFT活用でデジタル資産化することも考えています。養殖事業は資金回収まで非常に長い時間を要しますが、その期間を早めるのが目的です。業界に新たな道筋を示せればという思いで取り組んでいます。

 ──事業が軌道に乗ればさらなる発展も期待できそうです。

 高橋 専門家とも意見交換しながら、現在構想を進めています。

※ブルーカーボンクレジット…海洋・沿岸の生態系が吸収する二酸化炭素を数値化し、クレジットとして取り引きできる仕組み

2026年 さらなる飛躍に向けて

 ──相撲の後援活動もされているそうですね。

 高橋 2025年に当社会長・長谷幸一郎が横綱・豊昇龍関の九州後援会長に就任しました。横綱昇進にともない、化粧廻しや太刀を手配しましたが、化粧廻しはそのデザインから注目され、メディアにも取り上げられ話題になりました。一般消費者に向けた当社のPRにもつながったと思います。豊昇龍関のさらなる活躍を願い、これからも支援していきたいと思います。

 ──今年の目標、方針について聞かせてください。

 高橋 当社の売上規模は、三陽グループ全体では520億円を超える規模にまで成長することができました。ただ、具体的な売上目標については設定しておらず、常に前年を超えるという思いで活動を続けています。今年については、まずは島根県浜田市における新工場をはじめとする大型投資案件を確実に成功させ、収益化をはたすことが優先事項になります。これまで種をまいてきた新規事業についても、着実に事業化させ、従業員を含め携わった全員がメリットを実感できるようにしたいと考えています。伝統的な水産業に、飲食、環境、テクノロジーを掛け合わせることで、水産業に新たな可能性と魅力を見出す―三陽グループにとって挑戦の年にしていきたいと思います。

【文・構成:代源太朗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:髙橋利明ほか1名
所在地:福岡市中央区長浜2-3-6
設 立:1992年4月
資本金:1,000万円
売上高:約520億円(グループ全体)


<プロフィール>
髙橋利明
(たかはし・としあき)
1972年1月18日生まれ。90年に長崎南山高等学校を卒業後、東海産業(株)に入社。その後2006年4月に(株)三陽に入社し、11年6月には同社取締役就任。24年6月、代表取締役社長に就任し現在に至る。趣味はゴルフ。

法人名

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