総選挙にどう対応すべきか

政治経済学者 植草一秀

 高市首相が記者会見を行い、1月23日に召集する国会冒頭で衆議院を解散し、1月27日公示、2月8日投開票の日程で総選挙を実施する方針を表明した。衆院解散・総選挙が実施されることが確定的になった。

 衆院の新たな任期が始まってわずか1年3カ月。任期が3年近くも残されているなかで600億円以上の国費を投下して選挙が行われる。予算審議は先送りされ、寒冷地では寒波が到来するなかでの選挙実施になる。

 1月19日の高市会見で解散総選挙が必要であると日本の主権者が理解することができたかが最重要のポイント。会見を聞く限り、目新しい話はなく説得力は皆無だった。

 今回の総選挙を高市首相は「自分たちで未来をつくる選挙」と命名したが意味不明。600億円もの費用をかけて4年任期の1年3カ月しか経過していない衆院を解散して総選挙を強行。世論調査で主権者多数が解散に反対の考えを示しているが、この判断はさらに強化されるだろう。

 大原則は任期満了。憲法には内閣不信任案が可決された場合の衆院解散の規定があるが、内閣の自己都合での解散の規定はない。「解散は首相の専権事項」などと言われるが、これを裏付ける憲法の規定も存在しない。天皇の国事行為に衆議院の解散が列挙されているだけで、この規定を悪用しての衆院解散は権力の濫用であるとの批判が強い。

 通常国会召集が1月23日に設定された時点で冒頭解散の可能性は排除されていたと見られる。その後に方針が変わったと見られる。

 解散・総選挙を強行する方針に転じた理由が二つあると見られる。第一は自民党調査でいま選挙を行えば自民党が260議席を獲得できるとの結果が示されたこと。第二は高市首相の政治資金疑惑、中国の対日政策が日本経済に深刻な影響を与えることについての国会での追及が厳しくなること、高市首相と統一協会の深い関係を示した統一協会内部文書に関する情報が噴出し、国会論戦で高市内閣が厳しく追及を受ける可能性が高まったこと。この二つの理由から解散・総選挙を挙行する方針が決定されたと見られる。

 要するに「疑惑隠し解散」、「自己都合解散」ということだ。「政治の私物化」そのものであり、解散・総選挙に大義がない。日本の主権者は高市首相の政治私物化に対して厳しい審判を下すことになるだろう。

 高市内閣が発足して3カ月しか経過していない。いま、最優先の課題は深刻な経済状況への対応。予算審議を先送りして解散・総選挙を強行する理由がない。

 政権発足からわずか3カ月だが、高市内閣の実績は大きい。三つの実績を再確認する必要がある。第一は「政治とカネ」問題への対応を放り投げたという実績。驚くべき行動だった。自民党が高市氏を新党首に選出した際、自民党は「解党的出直し」を掲げた。「政治とカネ」で自民党は24年総選挙、25年参院選に惨敗。この現実を踏まえて「解党的出直し」を掲げた。ところが、高市首相が示した回答は問題の放棄だった、「裏金がどうした内閣」が発足した。

 第二は日中友好関係の破壊。11月7日の衆院予算委での高市「台湾有事発言」は日中間の外交関係の積み重ねを根底から破壊するものだった。その理由はこれまで細かく丁寧に説明してきたので省略する。

 第三は「利権バラマキ財政への転換」。日本財政は2020年度に想像を絶する利権バラマキ財政を実行した。21年度から25年度まで、その修正が実行されてきたが、高市首相はこの流れを再逆転させた。「積極財政」は「利権支出バラマキ」でなく「大型減税」で実行すべきだ。しかし、高市内閣は大型減税を封印して利権バラマキ財政に突き進んだ。この三つの実績を踏まえて高市自民に主権者が審判を下す。今回選挙の意味は「高市自己都合・疑惑隠し解散を審判する選挙」である。

 選挙の勝敗を決するのは289の小選挙区。自民は全選挙区での候補者擁立を目指すのではないか。「見た目は野党、中身は与党」という「ゆ党」勢力と自民の小選挙区での候補者調整は急速に進展しないのではないか。

 「見た目は野党、中身は与党」の「ゆ党」に該当するのは参政、保守、国民、みらい、など。みらいは政治資金透明化を訴えているが自民との近い関係を維持している。維新は「ゆ党」の仮面を剥いで、名実ともに「与党」に転じた。

 昨年10月総選挙での野党第一党は立民。自民候補はこれまで公明の支援を受けてギリギリの当選を果たしてきた。今回、立民と公明が合流して新党を創設する。公明は自民候補ではなく元立民候補の支援に回る。その影響は絶大である。短期日の新党創設だからほころびは多い。ツッコミどころも満載。だが、ここは「美点凝視」が必要。政治の対応においては、何が最優先かを考える必要がある。

 いま最優先されるべき課題は「高市自民弱体化」である。理由は三つある。第一は高市内閣が「政治とカネ」の浄化に完全に背を向けていること。総選挙では裏金議員の比例代表重複立候補を認める方針を示している。「政治とカネ」で主権者から厳しい審判を受けたことを完全に無視している。

 第二は日中戦争に突き進むスタンスを示していること。日本の過去の誤りをなかったことにして中国に対して理不尽な外交を推進している。日中戦争を創作するときに最大の犠牲を強いられるのが日本の主権者であることを認識しなければならない。

 第三は社会保障を切り、利権バラマキを拡大する「利権財政拡張路線」を全面展開していること。これでは日本国民は幸福になれない。

 高市自民を弱体化させることが最優先課題であることを踏まえた選挙への対応が必要だ。立民・公明合流で創設される新党候補は自民候補を打ち破る可能性がある。この現実を踏まえて自民候補に対峙する野党候補に投票を集中させることが重要だ。

 自維およびゆ党の候補が勝利しないように、最有力の野党候補に投票を集中させる。この戦術によって高市自民の小選挙区獲得議席を減らす。これが最重要だ。

 比例代表選では、それぞれの主権者が支持する政党に投票すればよい。しかし、選挙区選挙では非自民、非ゆ党の候補者で最有力の候補者に投票を集中させることが重要だ。さまざまな問題は残る。しかし、重要なことは優先順位。細かな部分を優先して高市自民を伸長させては元も子もなくなる。

 これまで自民を支援した公明が行動を大転換するインパクトは絶大。政策綱領などに問題が多く積み残しになるのは事実だが、背に腹は代えられない。私たちは「選択できる現実のなか」からしか結果を選べない。「選べる中での最善」を選ぶしかない。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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