TSMC熊本第2工場、工事が静かに再開

 台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県菊陽町で建設を進める第2工場について、停止状態にあった工事が再開していることが分かった。関係者によれば、元請である鹿島建設が2026年1月上旬、下請業者に対し工事再開を求める依頼書を送付したという。現場は段階的に稼働を取り戻しつつある。

 もっとも、工事は一時的に動きが止まっていたため、基礎工事で使用されていた大型重機や関連設備はすでに撤去されていた。このため、年明け直後から本格的に工事が再開したわけではなく、機材の再手配や工程の組み直しを経て、実質的な再開は1月末頃になったとみられる。現在は基礎周辺を中心に、徐々に作業が進んでいる状況だ。

 注目されるのは、25年12月頃から現場で確認されていた「動きの鈍化」の位置づけである。関係者の見方を総合すると、この期間の停滞は単なる工事遅延ではなく、実質的には「戦略的待機」であった可能性が高い。

 26年2月5日、高市早苗首相とTSMCの魏哲家会長兼CEOの会談において、第2工場を3ナノメートル(nm)プロセスへアップグレードする方針が示された。これにより、クリーンルームの仕様再定義や製造装置の選定を抜本的に見直す必要が生じ、建屋設計や基礎条件にも影響がおよんだとみられる。

 3nm対応への変更は、生成AIやデータセンター向け半導体需要の急拡大が直接の引き金となったとの見方が強い。当初想定されていた自動車やIoT向けの6〜7nm品から、より高性能なAIチップ向け3nm品へとターゲットを転換することで、投資効率と戦略的価値を最大化する狙いがある。

 こうした高度な設計変更は、サプライヤー選定や装置配置の見直しにとどまらず、将来的な生産能力や歩留まり、さらには電力・冷却インフラの再設計にも直結する重要工程である。そのため、表向きは工事が停滞したように映っても、実際には次のフェーズに備えた準備期間であったとみるのが自然だ。

 政府や熊本県が当時、「工事が中断している事実はない」と説明を続けてきた背景には、計画変更の詳細を公にせず、水面下で再設計を進める戦略的意図があった可能性が高い。仮に「工事停止」を公式に認めれば、投資家や地域社会に不安を与え、国家プロジェクトとしての信頼性にも影響しかねないためだ。

 今回、鹿島建設が下請に対して再開を要請したことで、第2工場は「戦略的待機」から「実行段階」へと移行した格好となる。ただし、工事再開についてTSMCや国、県からの公式発表は現時点では行われていない。3nm対応という日本の半導体政策の中核を担う計画だけに、今後の工程や稼働時期については慎重な情報開示が続くとみられる。

 熊本に形成されつつある半導体集積は、すでに地域経済の構造を変え始めている。第2工場の再始動は、その流れを一段引き上げる分岐点となるのか。静かに再開した現場は、日本の半導体戦略の次章を占う試金石となっている。

【緒方克美】

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