国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏
トランプ大統領はパレスチナ自治区ガザの暫定統治を監督する「平和評議会」を設立し、米国主導の下でのガザの復興を目指すと発言。ガザ以外の紛争地域においても合法的な統治を復活し、永続的な平和構築を図るとのこと。しかし、既存の国際秩序を無視した行動で、世界各国から懸念の声も上がっています。この一方的な「影の国連」構想は、国際的なルールの消滅が世界的な大惨事を引き起こした1930年代を彷彿とさせるものです。日本政府は総選挙のせいか、「曖昧政策」に固執し、賛成も反対も明らかにしていません。
「平和評議会」構想
米国主導の危険な本質
このところトランプ氏は西半球を支配下に置くと宣言し、ベネズエラで見せたように軍事力の行使も厭わない姿勢を誇示しています。幸い、グリーンランドをめぐる米国とNATO諸国間の危機は、今のところは惨事に至っていません。しかし、トランプ氏は、自国優先の発想で資源確保に奔走し、国際関係を危険な方向へと導こうとしているようで、要注意と見るべきでしょう。
2025年11月、国連安全保障理事会はガザ復興のための暫定行政機構として、平和評議会の設置に同意しました。しかし、トランプ発言はこの構想から大きく踏み込んだものです。トランプ氏自身が議長を務め、紛争管理のための世界的なメカニズムを提示し、「国連に代わる可能性がある」とまで主張しているのですから。
国連はたしかに完璧ではありません。安全保障理事会の構成には問題があり、拒否権の乱用という問題があります。しかし、改革が必要な制度と、国際法の概念を発起国の法に置き換えることは大きな違いがあるはずです。
国際秩序の個人支配
組み替えられる世界
というのも、この平和評議会は、新たな世界秩序を目指しており、その頂点にはトランプ氏自身が終身議長として君臨し、その両脇には義理の息子のジャレッド・クシュナー氏や、不動産王で首席交渉官のスティーブ・ウィトコフ氏といった側近らが控えているからです。
彼らは政権の中核を構成しており、その他にも世界銀行総裁のアジャイ・バンガ氏やアポロ・グローバル・マネジメントのマーク・ローワン氏のようなベンチャーキャピタリストなど金融界の重鎮らが加わっています。
また、同評議会は、英国の元首相トニー・ブレア氏やオランダの外交官シグリッド・カーグ氏などのベテランも参画させ、国際的な経験と実用主義の匂いを漂わせようとしています。しかし、実際の方向性はトランプ氏の一存で決まるという建付けです。
こうした制度が確立すれば、国際協力の基盤は個人的な忠誠心に基づくシステムに変身してしまうでしょう。まさに近代史において前例のないもの。トランプ氏は個人的な拒否権と、加盟国の任命・解任に関する独占的な権限を有しているのですから。
この取り組みの課題は、招待者のリストからすでに明らかです。招待者は60カ国以上におよび、国連に対する直接的な挑戦となっています。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相やアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領といった指導者は即座に支持を表明しました。ガザの安定確保のため、トルコ、エジプト、アラブ首長国連邦といった地域諸国にも広く呼びかけが行われています。ガザでの大量虐殺を容認してきたイスラエルのネタニヤフ首相も主要メンバーとなる模様です。
この新組織の常任理事国入りを希望する国は、10億ドルの拠出金を支払う必要があります。拠出金を支払わない国は、議長の任命の下、3年間の暫定理事国となるとのこと。その結果、億万長者、諜報機関、テクノクラートからなるハイブリッドな権力組織が誕生し、紛争地域の将来について、現地住民を無視し、国際法からも切り離されたかたちで決定を下すことになります。いわば、「マフィア版国連」と言っても過言ではありません。
グリーンランド併合は
世界支配戦略の始まり
ホワイトハウスは、グリーンランド獲得を描いたAI生成画像を公式発表し、具体的かつ実行可能な政策目標として示唆。AI画像には「領土」という言葉が使われています。もし目標がグリーンランドを米国の領土に指定することであれば、このモデルはプエルトリコの地位と同様で、政治的統合を最小限に抑えながら最大限の連邦政府の統制を提供するという意図的な選択に他なりません。
これこそトランプ氏の思惑が隠された世界征服戦略でしょう。ロシアや中国を排除し、北極圏の資源と利便性を確保する狙いです。グリーンランドを支配すれば、敵対国への資源供与を阻止することが可能になり、北方のミサイル防衛網と監視ネットワークが拡大できます。
なお、グリーンランドの買収費用については憶測が飛び交っていますが、その額は7,000億ドル前後と見られています。トランプ氏は一貫して、グリーンランドの米国による「所有権」と「権限」の必要性を強調し、それ以下のものは「受け入れられない」と明言。彼の発言や行動は、グリーンランドを「購入する」「獲得する」「支配する」「手に入れる」という願望に集中しており、彼はこれを国家安全保障上の必要性と同一視しているわけです。
26年1月、ランディ・ファイン下院議員は「グリーンランド併合・州昇格法」と題する法案を米国下院に提出しました。この法案は、大統領がグリーンランドを米国の領土として取得し、最終的には州に組み込むことを目指すのです。大統領は演説でグリーンランドの人々に対し、「もしあなた方が選ぶなら、私たちはあなた方をアメリカ合衆国に歓迎する」と語り、「あなた方を豊かにする」と約束し、完全な統合と米国への加盟にともなう利益を示唆しています。
(つづく)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








