国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
新たに公開されたエプスタイン・ファイルは、さまざまな方面へ波紋を広げています。最近、高市首相の名代として訪米した赤沢大臣ですが、ワシントンにて対米投資5,500億ドル(82兆円強)の詳細を詰めている相手のラトニック商務長官にも危機が訪れているのです。
ラトニック商務長官は、これまでエプスタイン氏とはニューヨーク州の自宅が隣同士だったので、2005年に何度か会ったことはあるが、「嫌悪感を覚えたので、一切の関係を断った」と議会で説明していたにもかかわらず、今回公開されたファイルによって、何と2012年にエプスタイン氏の所有するカリブ海の島を訪れていたことが発覚したからです。
当時、エプスタイン氏は有罪判決を受けていたわけで、知らなかったとはいえないはず。この矛盾を問われ、ラトニック氏は「なぜ彼の島に出かけて、彼と昼食まで一緒にしたのか記憶にありません。今思えば、行くべきではなかったと反省しています」と応答。
その結果、与野党から「信用できない。辞任すべきだ」との声が出ています。ラトニック氏は「妻や家族と一緒に島を訪れたが、1時間ほどのランチを食べただけで、何もやましいことはなかった」と必死に弁明。とはいえ、説得力に欠けていることは否めません。実際、司法省の公開文書にはラトニック氏とエプスタイン氏との10通におよぶメールのやり取りが確認できています。
赤沢氏は会談後の記者会見で「米国側との意見のすり合わせを行ったが、双方の立場の違いが大きく、今後の事務レベルでの協議の継続が欠かせない」と苦しい事情を説明していました。どうやら、ラトニック氏はエプスタイン・スキャンダルに足を引っ張られ、赤沢氏との交渉には集中できなかったようです。
一事が万事。新たに発掘されたファイルの山は、長らくくすぶっていた陰謀を暴き出した感が否めません。しかも、すでに紹介したように、連邦検察官はエプスタイン氏がマンハッタンの拘置所で正式に死亡しているのが発見される1日前に、同氏の自殺を発表する声明を準備していたことが明らかになってしまいました。
最近公開された文書のなかに埋もれていたこの衝撃的な発見は、政府の公式見解に真っ向から疑問を投げかけるもので、現代アメリカ史上最も不審な死の1つをめぐる疑惑をコントロールしようとする動きと見なされています。米国刑務局と米国連邦検事局による高官レベルの隠蔽工作が疑われます。どうやらエプスタイン氏が暴露すると脅した権力者を守るために画策されたものとしか思えません。
2019年8月9日付のニューヨーク南部地区連邦検事局による声明草案は、エプスタイン氏の自殺を発表するものでした。しかし、実際のところ、彼は8月10日の朝まで遺体で発見されなかったのです。当時の連邦検事バーマン氏によるものとされるこの声明は、エプスタイン氏の死亡確認の詳細を明記し、この事件を悲劇的な自殺として位置づけています。とはいえ、この声明には複数のバージョンが存在し、それぞれ編集箇所が異なることから、事前に組織的な起草プロセスがあったことがうかがえるのであります。
この事前に作成された文書では、エプスタイン氏が死亡した夜、警備員が必要な確認を行わなかったことやカメラの故障で当時の状況が確認できないことなど、あり得ない一連のセキュリティ上の不備を糊塗しようとの意図が感じられます。その夜の監視カメラ映像には説明のつかない人物の動きも映っており、意図的な操作が行われてことを示唆しています。
諸々の状況からは、徹底的な隠ぺい工作が行われたものと推察されます。2019年8月9日(金)付の、バーマン連邦検事事務所からの声明草稿には、「今朝早く、マンハッタン矯正センターは、ジェフリー・エプスタインが独房内で反応がない状態で発見され、その後まもなく死亡が確認された」と記されています。問題は「8月9日の今朝早く」という記述が存在しないことです。要は、エプスタイン氏はまだ生きていたと思われます。
彼は8月10日(土)の午前6時半以降に発見された模様です。これは些細な事務上のミスではなく、筋書きがあったことを暴露するものでしょう。最終的に公表されたバージョンは、ひっそりと8月10日に遡って日付が記されています。複数の草稿が存在することは、連邦当局者チームが、まだ発生していない出来事に関するプレスリリースを慎重に練り上げていたであろうことが推察されるわけです。
この事前に書かれた死亡予告からは、あり得ない偶然が重なった夜に、完璧に当てはまる仕掛けが講じられたことが見え見えです。王子、政治家、そして億万長者らを転覆させ得る情報を有していたエプスタイン氏。そんな人物が不可解なほど無防備な状態に置かれていたというのですから、にわかには信じられません。
つまり、彼の監視を任されていた2人の警備員らは30分ごとのチェックを怠り、義務的な収容者数の確認も怠っていました。彼の独房に直接向けられていた2台の防犯カメラは、都合よく故障し、さらには、同房者のタルタリオネ氏は数日前に退去させられていたのです。
あらゆる安全装置が同時に故障し、24時間体制の監視下にある男が自ら命を絶つことができる、完全な真空状態が生み出されたというわけです。その夜の他の記録を検証すると、疑問はさらに増すばかりです。
正常に機能していたカメラは、午後10時39分頃、エプスタイン氏の階に通じる階段で「オレンジ色の閃光」を捉えていました。一体何だったのでしょうか?FBIの観察記録には漠然と「おそらく受刑者」と記されています。司法省の内部監査機関は、「オレンジ色のリネンを携えた刑務官だ」と主張。しかし、ノエル刑務官は捜査官に対し、「リネンを配ったことは一度もない」と明言しています。また、この動きは「受刑者のオレンジ色の制服を着た人物のほうが合致する」との指摘も出ているのです。刑務所職員も、そんな時間帯に受刑者を護送するのは極めて異例だと疑問を呈しています。この事件のすべてを象徴しているようですが、不可解な事象のオンパレードなのです。
結論的にいえることですが、エプスタイン氏は単なる受刑者ではなかったということ。彼は脅迫とスキャンダルの生きた宝庫であり、エリートの小児性愛者と性的人身売買業者の世界的ネットワークとつながっていたことは間違いなさそうです。連邦拘留下での彼の死は、多くの共謀者や依頼人にとっては法廷で宣誓供述書によって名前を挙げられるという不名誉から救ってくれて好都合というわけです。
自殺に関する不可解な動きや事前に準備された自殺発表文書は、封じ込めの第一段階に他ならず、世論とメディアの認識を「自業自得の悲劇」という結論へと誘導する試みであったのかも知れません。しかし、そうした試みにもかかわらず、地位を失うことになる有名な政治家や実業家は今後も後を絶たないでしょう。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。








