今こそ見直す「防災対策」と「事業継続強化」

 2026年は、甚大な被害をもたらした熊本地震から10年という節目の年です。また、今後30年以内の発生確率が60~90%程度以上とされる南海トラフ地震や、同じく発生確率70%程度とされる首都直下地震など、大規模地震がいつ発生するかもわからない時代です。

 とくに現場の安全管理が必要な建設業や多くの管理物件を預かる不動産業界にとって、防災対策と事業継続の強化は、喫緊の経営課題です。

 災害対策基本法では、国や地方自治体の責任が定められており、企業の責任について直接的に規定されているわけではありませんが、企業にも防災の取り組み(≒「事前の備え」)が求められています。

 企業における防災の取り組みは、災害発生時に、その経営資源を守り、事業活動を継続・復旧させることを目的とした事前の災害対策であり、大きく「防災対策」と「事業継続」の2つに分けられます。

 「防災対策」とは、従業員や事業所の安全確保を第一優先とし、避難経路の確保や事業所の耐震化、オフィス家具・機器の転倒防止など、ヒトとモノを守る事前の対策を指します。もし地震が発生した際、オフィス家具の固定を怠っていたり、避難経路が荷物で塞がっていたりして従業員が負傷した場合、企業は「予測できた事態に対して対策を怠った」として安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。現場や管理物件における二次災害の防止策を講じることは、従業員や現場を守るだけでなく、法的リスクを軽減するうえでも極めて重要なことです。

岡本弁護士
岡本弁護士

    一方、「事業継続」は、顧客への供給を継続するための経営戦略です。各産業はサプライチェーンを通じて相互に依存しており、1社の中断が連鎖的な中断の広がりを招き、関連企業や産業全体に多大な影響をおよぼします。建設・不動産業でも、資材調達先や協力業者が被災すれば、工期遅延や引渡しの停滞を招きます。そこで不可欠なのが「事業継続計画(BCP)」の策定です。BCPとは、不測の事態が発生しても、重要な業務を中断させない、または可能な限り短期間で復旧させるための方針や体制、手順を示した行動計画です。その策定にあたっては、最初から完璧なものを目指すのではなく、優先すべき「重要業務の選定」、いつまでに復旧させるかの「目標復旧時間の設定」、そして「必要リソース(ヒト・モノ・カネ・情報)の確保」という3つの要素を明確にすることが肝要です。

 BCP策定や防災対策の推進にあたっては、中小企業庁が運用する「事業継続力強化計画」認定制度の活用が効果的です。この認定を受けることで、税制措置や金融支援、補助金の加点といったさまざまな支援策を受けられるメリットがあります。

 また、被災時の事業継続においては資金の手当ても意識した事前対策が重要となります。従業員への休業補償、借入金の返済、リース料などは休業中も固定費として発生するため、平時から火災保険などに水災補償特約や休業補償を追加したり、金融機関と緊急融資枠について協議したりするなど、具体的な資金調達手段を確保しておくべきです。

 最後に、災害対策やBCPは計画を策定して終わりではありません。経営陣の指揮の下、年1回以上の訓練・教育を実施し、その結果を踏まえて定期的に計画の見直しを行い、取り組み内容を社内周知することが、実効性を高めるカギとなります。

 建設・不動産業界は、地域の社会インフラや住環境を支える重要な基盤です。事前の備えを万全にし、いざという時に企業と従業員、そして取引先を守れるよう、今一度自社の防災対策と事業継続力を見直してみてはいかがでしょうか。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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