福岡市議会議員 調崇史 氏
令和8年度予算審議にあたり、福岡市がこれから取るべき産業政策と、高専の新設について、去る3月23日に質疑をしました。高市政権は、2月の衆院総選挙で安定した政治基盤を得て、いま産業政策の大きな転換を進めています。半導体、バイオ・創薬、航空・宇宙など17の重点分野を指定し、製造の国内回帰、国内投資の拡大と国際競争力の強化に向けて国が強力に支援する考えです。具体的な取り組みは「地域未来戦略」という政策パッケージとして取りまとめられますが、九州では熊本県のTSMCを核とした「新生・シリコンアイランド九州」が大きな柱になります。
一方で、福岡市教育委員会は昨年から、新しい高専をつくることに向けた検討を進めています。高校が無償化され、公立高校入試の競争倍率も下がる一方の時代に、なぜ新しい学校をつくろうとしているのか。相当に練り込んだ計画が必要だと思いますが、現在の想定には、かなり物足りない部分があります。その理由の大部分が、「福岡市の産業政策」にあるのではないかと思っていることから、産業政策と高専を一緒に論じることとしました。
まだ「知識創造型産業」ですか?
まず、高専とは何なのかですが、教育委員会の答弁によると「高等専門学校は、実践的・創造的技術者を養成することを目的とした5年一貫の高等教育機関であり、高度経済成長期の昭和37年度以降、工業の発展を支える技術者の養成を目指して設置されたもの。モノづくりをはじめとする産業界の現場を支え、新しい技術を創造し発展させる人材育成を行う教育機関として大きな役割をはたしてきた」のが国立高専機構の51校をはじめとする高専です。
モノづくりを支える理系人材の輩出を担ってきた高専は、我が国の産業政策にとって不可欠の存在であり続けてきたことは、最初に押さえておくべき史実だと思います。
では福岡市の産業政策はどうなっているのか。市の答弁によると「福岡市は第3次産業が9割を占める産業構造であり、成長戦略として、短期的には『交流人口の増加』に向けて観光・MICEの振興を、中期的にはITをはじめとする『知識創造型産業の振興』、長期的には『支店経済からの脱却』を目指しスタートアップや本社機能の集積に取り組んでいる。また、知識創造型産業の振興として、『半導体、ITソフトウェア、デジタルコンテンツ』の研究開発機能等の立地促進や、エンジニアの育成などに取り組んでいる」とのことです。
サービス業中心で支店経済都市といわれる福岡市には、代表的な産業がなかったからでしょうか、まちとして振興する産業は「知識創造型産業」であると、かれこれ30年も言い続けています。近年、福岡市の堅調な市税収入を支えているのは固定資産税をはじめとする不動産分野の果実ですが、日本が、そして九州全体が急速な人口減少の局面に入るこれからの社会情勢を想定すれば、不確実性をはらんだ構図であることは否定しようもありません。生産性を確実に上げていかなければ、これからの暮らしは豊かにならないという現実を直視すれば、福岡市はもはや「代表的な産業がない」などと言っている場合じゃない。高付加価値な産業を育てなければならないと思うのです。
成長分野を育てたい
福岡市にはいま、世界レベルで競争ができる先端ベンチャーが立地し、大きく育とうとしています。国の重点17分野でいうと、航空宇宙分野やバイオ・創薬分野などの企業が代表的な例です。こうした成長分野をどう育てていくのかという戦略をはっきり示せていないのが、福岡市の産業政策の課題だと思っています。質疑では「半導体設計機能の誘致」も含めて、成長分野への本市の対応について、下のようなイメージ図を示して提案をしました。

まず、半導体や宇宙、バイオなどを「コア成長分野」と位置づけて、市が継続的に支援することを示す。そこから企業投資や技術革新が生まれ、福岡市の大きな課題である「理系人材の定着先の確保」をはじめ、新たな雇用の創設を実現。新たなサービス・製品の普及や税収の増加などが、多くの市民、国民に還元されるというサイクルを描いてはどうかと。そして、こうした循環を維持するためには支え手となる「人材」の供給を語ることが不可欠であることから、新しい高専を人材供給のエンジンとして位置づけるべきだというのが今回の質疑における私の主張です。
高専は高校の延長にあるのか
質疑では、現段階における教育委員会の検討内容について尋ねました。答弁の主な内容は以下の通りです。
- 全国的にAIやデジタル技術を活用できるエンジニアが不足しているなか、福岡市では、高付加価値なビジネスの集積を図るため、知識創造型産業など成長性のある分野の企業誘致を進めており、今後、専門性の高い人材の需要が高まることが見込まれる。
- そうしたなか、2023(令和5)年度に設置した「専門学科を有する市立高校のあり方に関する有識者会議」において、「AIやデータサイエンスなどの分野は技術者不足が顕著で今後の伸長が予想されるものの、高校3年間の学びでは育成が不十分」との意見が示されたことなどを踏まえ、25(令和7)年度から高等専門学校の設置に向けた準備に着手している。
- 情報工学系の1学科で29(令和11)年4月の開校を目指す。
ここでもやはり知識創造型産業という言葉が出てくるのですが、問題は下線を付した部分です。福岡市がもっている4校の市立高校の在り方検討をした中で、一部の委員から出された意見が「高専新設を進める理由」になっています。
他県における高専新設の動きに目を向けると、滋賀県が2年後の28(令和10)年4月の開校に向けて、県立高専新設を進めています。同県では23(令和5)年3月の段階で「滋賀県立高等専門学校基本構想1.0」を策定しました。開校の5年前です。それ以来、基本構想を2.0へとアップグレードするとともに、県知事、立地自治体の市長、滋賀県立大学理事長ほか学識経験者など、重厚な顔ぶれによる基本構想推進本部を設けて協議を重ねています。そもそも、高専の新設は大学を新しくつくるのとさほど変わらない一大事なので、このくらい力が入って当然です。福岡市はなぜか、比較にならないくらいに「あっさり」しています。「せめて基本構想はつくらなきゃいけないんじゃないの?」と、私は市の教育委員会に言い続けてきました。
IT業界のための高専?
上の下線部で最も強調した「情報工学系の1学科」というのも、厳しい言い方をしますがパッとしません。福岡市に立地するIT系企業などの慢性的な人手不足を意識したのだろうと思いますが、それにしても情報工学系特化の高専をこれからわざわざつくることの意義を説明することは、かなり難しいのではないかと思います。
ITの分野はAIの進化にともなって、労働需要が減る予測があります。教育委員会の説明では、AIを使いこなして課題解決ができる人材を育てることに魅力を感じているようですが、高度成長期から高専がもっていたはずの「モノづくり」の香りが、そこからはしてきません。AIを活用することについては、これから独学での学びも広がっていく(AIの使い方はAIが教えてくれるかも)でしょうし、わざわざ高専をつくるまでのことはないのではないか、それならば市立ですでにもっている博多工業高校で力を入れる方が、生徒のためにもなるのではないかと思います。
AIを組み込んだサービス(たとえば「短時間で営業資料をつくってくれるソフトウェア」のような)を販売している会社など、確かにAI周辺では創業も盛んなようです。しかし、これらもほとんどは独自のAIを組み立てるのではなく、アメリカ大手(OpenAIなど)が提供する生成AIをライセンス利用して、自社のソフトやサービスに組み込んでいます。つまりすでにこの業界は、先行した海外資本に大枠で囲い込まれているのではないかと思います。これからAIの普及と進化によっていろいろなことが便利になり、仕事がはかどって、さまざまな場面で人手がかからなくなることが予想されますが、AIの周辺で、「ゼロからイチ」が生まれるような新たな発明、多くの雇用を生み、まちの税収を大幅に上げるくらいの大企業の誕生などは、想像しにくいように思います。
むしろ、もともともっている「日本のモノづくりのレベルの高さを武器にしたAIの活用」にこそ、私たちは活路を見いだすべきです。たとえば、県内にある世界屈指のロボティクス企業の製品が優れたAIと組み合わさったら、そのロボット(家事ロボットなどの民生品を想像してみてほしいのですが)はどこまで凄いものになるか?などと考えたときに、そこには人々が広く恩恵を受けるような技術革新と生活利便の向上があり、当該製造分野における新たな雇用の創出や、まちの税収増加などを思い描くことができます。もし、これから高専を新設してAIを教えるのであれば、「AI×ロボティクス」「AI×人工衛星」といったように、現実の物理世界への実装を前提にした教育をすべきではないでしょうか。歴史的にモノづくりを教えてきた高専ならば、なおのことです。
(つづく)








