いま、産業政策の大転換を~成長分野への対応と高専新設~(後)

福岡市議会議員 調崇史 氏

半導体、宇宙、バイオなどの
先端分野の教育を

調崇史 氏
調崇史 氏

    私が今回の質疑で主張したことは、福岡市がまず国の重点17分野への対応も踏まえた成長分野への取り組みを明確に示すこと、そのうえで、本市や国の産業政策を十分に踏まえて、高専のカリキュラムなどを検討すべきだということです。こうした骨太な考え方を最初に示すのが「基本構想」だと思いますので、基本構想の策定はやはり省略できないプロセスだといえます。

 今回の質疑では、情報工学系の1学科という教育委員会の想定から大きな転換を促すために、先端分野に特化したカリキュラムを提案しました。半導体・宇宙・バイオ分野の教育に取り組む「先端技術高専」のような位置づけです。

 半導体については冒頭でも述べた通り、高市政権が進める地域未来戦略において、九州の看板プロジェクトになります。私が所属する自由民主党福岡市議団では、工場用地・工業用水に乏しい福岡市でも立地ができるファブレス事業者(自社の製造ラインをもたない半導体の設計事業者)の誘致に向けた政策提言を進めており、市は26(令和8)年度からファブレス事業者を念頭に置いた立地交付金の拡充を実施します。

 AI向けの半導体を設計するエヌビディアが空前の収益を上げているように、ファブレスは半導体産業で最も収益性の高いビジネスモデルです。TSMCの第2工場は当初の想定とは異なって、2~3ナノの先端製品を製造するものに計画変更されましたが、現在、このレベルの設計を担える日の丸企業は存在しません。今後、我が国にこのレベルを担える外国企業が進出するときには、福岡市も誘致に手を挙げることを期待しています。

 他方で、これから我が国が世界と競争をする分野の製品、たとえば電気自動車に欠かせないパワー半導体や、NTTが研究を進めるIOWNなどの光電融合向けのデバイス、次世代6G通信向けのアナログ半導体の設計など、巨大ファブレスにまだ取り込まれていない分野の設計については、日の丸企業が頑張らなければなりません。福岡市には市内や周辺に自動車産業、有力な宇宙やバイオのベンチャーが立地し、大学などの研究機関も集積をするなど、またとない好環境があり、研究開発、社会実装の場を兼ね備えている点は、ファブレスの誘致にあたっての優位性です。

 高専での半導体設計教育は、これら福岡市の取り組みを人材面で支えるものになると思っています。

 次に、「宇宙」ですが、実は今回の提案ではイチオシだったので、質疑の際に下に掲示するようなパネルを提示しました。以前は「アポロ11号は月に行った」とか、国家間で競い合った宇宙開発ですが、現在は民間競争の時代になりました。宇宙産業は急成長を続けており、23年から35年までの12年間で世界の市場規模が3倍の270兆円に達するとも言われます。

宇宙高専が拓く未来


 宇宙の学びというと応用が効かない狭い分野のように誤解されがちですが、量子力学・機械工学・物理・数学など幅広い基礎分野を学習が必要になることから、学生にしてみれば大変でしょうが、かなり汎用性の高い理系人材の育成が可能です。

 これからは、自動車メーカーが月面開発のための車両をつくったり、通信会社が一般ユーザー向けに宇宙経由の通信サービスを提供したり、電力会社が人工衛星で太陽光発電をしてレーザーで地上に送電をしたり、などなど、誰もが名前を知っている企業に「宇宙部門」が創設・あるいは事業拡大されていくのだろうと思います。福岡市の高専で学んだ基礎分野のうち1つでも学びを深めれば、宇宙関連に限らずとも必ずやさまざまなモノづくりや研究で活躍できるという意味で、子どもたちに多くの「勝ち筋」をもたせてあげられる教育だと思います。人工衛星が小型化・軽量化の競争になっているなかで、高専生が卒業制作に人工衛星をつくってみるというのも、あっていいんじゃないでしょうか。

 最後にバイオについては、食料安全保障を支える技術としてゲノム編集の活用が進んでいます。これは農業や漁業の在り方を劇的に変えるかもしれません。豊かな食は福岡市のアイデンティティーを支えるもの。農林水産業の収益改善、生産性向上は極めて重要なテーマです。また将来的には、医療や創薬の技術がこの福岡市で劇的に進化を遂げていく可能性も十分にあると感じています。バイオ分野もまた高い可能性を秘めた成長産業であり、もし高専レベルで電子顕微鏡を使いこなせるようになっているだけでも、将来的にさまざまな研究の場で活かせるだろうということを、ある大学・高専の教授方がおっしゃっていました。

産業界・大学などの協力と基本構想

 これら最先端の学びは、高専単独で完結できるものではなく、先端分野のベンチャー企業、大学などの研究機関の協力が不可欠です。福岡市の高専生が、これらの研究開発の最前線に(たまにでもいいので)アクセスできることなど、あらかじめ高専の教育に対する協力を取り付けることは、高度な教育を実現し、またカリキュラムを陳腐化させないためにも極めて重要です。そして、より高度な人材育成を実現する観点から、福岡市の高専は大学への編入や大学院への進学をメインに据えるのが良いと思っています。他の高専が概ね「就職6に対して進学4」であるのに対し、福岡市は「就職3と進学7」くらいのイメージです。

 今回の質疑では最後に、具体的な協力を依頼したいベンチャーをはじめとする産業界、大学や既存高専などの研究機関を交えて、基本構想の策定に向けた有識者の協議を早期に計画することを求めました。教育委員会は「高専の新設にあたっては、社会経済情勢の変化などを踏まえながら、カリキュラム編成や教員の確保といった課題や、学生へのキャリア支援など、多岐にわたる検討を行っていく必要があると認識しており、大学や産業界、国などさまざまな関係者から幅広くご意見を伺いながら、認可申請に向けた基本構想の検討を進めていく」と答弁しました。基本構想の策定に向けた立場を明確にした点は、評価すべきだろうと思っています。

 しかしながら、繰り返しにはなりますが、現在の検討の方向性には大幅な軌道修正が必要だと思っており、私としては引き続き、①理系人材の裾野を広げる高専であること、②学生本人の人生はもちろん多くの市民を豊かにし生活利便性を向上させることにつながる高専であること、そして③北九州・久留米・有明などの既存高専や併設の博多工業高校との差別化を図ることの3つを基本的な視点に、引き続き提言をしていくつもりです。産業政策も高専も、知識創造型産業という縛りからいったん離れて、大きな飛躍を描きたいですね。

(了)

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