ホワイトかブルーか 道具箱か教科書か(前)

道具箱をとるか、教科書か。 筆者イメージ
道具箱をとるか、教科書か。 筆者イメージ

 インドのことわざに、このような教えがある。「許しなさい。あなたも許されてきたのだから」…デスクの下で人知れず拳を囲い、爪が肉に食い込むほど握りしめたことは数えきれない。「若いときの苦労は買ってでもしろ」というように、この時期に多くの失敗を重ね、悩み、苦しみ、それを課してくる誰かの負荷のもとに、成長が果たされていく。では、どのように苦労は買っていけばいいのか、2つのアプローチから考えてみたい。

2種類の賢さとは?

 世の中には2種類の「賢さ」が存在しているという。本で勉強して頭が良い、知識が豊富なタイプと、実際にいろいろな経験や行動を通じて失敗や成功を重ね、動きながら学んでいくタイプだ。前者を「Book Smart(ブックスマート)」、後者を「Street Smart(ストリートスマート)」と呼ぶ。

ブックスマートな賢さとは? pixabay
ブックスマートな賢さとは? pixabay

    ブックスマートは知識量の多さにとどまらず、学校教育やアカデミックな分野での知識や理解力に長けている人物。試験に強く、成績が良く、理論や概念に関する情報をよく記憶し、それを論理的に扱える能力を持つ人のこと。日本語でいうなら「秀才」「勉強ができる人」といった表現が近いかもしれない。

 対してストリートスマートは、実社会で得た知識や経験が豊富な人。直訳すれば「実社会で得た経験に基づく知識に長けている人」という意味だ。学校の勉強が得意・不得意とは関係なく、現実の問題に対して機転を利かせ、柔軟に対応する能力に優れている人物。たとえば、交渉ごとや人間関係の立ち回り、トラブルの回避といった場面でその力を発揮する能力を持つ人のこと。日本語でいうなら「要領が良い」「処世術に長けている」といった表現が近いだろう。政治家・田中角栄やHONDA創業者・本田宗一郎などは、ストリートスマートな人の代表といえる。早くから社会に出て働き、社会勉強を積んで成功を収めた人物だ。

 しかし、それぞれ“裏の”意味もある。勉強はできるが現実の社会生活において知識をうまく活用できないブックスマートもいる。そうした様子を「頭でっかち」「がり勉」といった揶揄を含む表現で語られ、ストリートスマートでは機転は利くが同時に「小賢しい」といった表現で語られることもある。

<Book Smart(ブックスマート)とは>
文字通り高学歴で、理論などの豊富な知識に基づいて問題解決を行う人材。課題に対して学んだ知識と照らし合わせて、「なぜそうなるのか」「何がそのような状況を生んでいるのか」という観点から考察するタイプ。たとえるなら、教科書を片手に知識で勝負するような世界。

<Street Smart(ストリートスマート)とは>
経験を通じて知恵を集め、現場からの気づきによって実践的に問題解決を行う人材。“どのように”したら課題を解決できるか、ゴールから逆算して施策を導き出すタイプで、難しい課題にも瞬時に対応できる。たとえるなら、道具と技能を使って、実業で苦労・困難を重ね成長していくような世界。

大学を見切るZ世代

 これまでの日本の教育課程、主に小学校~大学では、「ブックスマートタイプ」の学生が重宝されてきた。学校での成績、テストの点数、論理的な自由記述回答など、明確な評価指標が存在する環境では、知識に優れ、教科書の内容を正確に理解し、再現できる力が高く評価される。そういう人は「優等生」として、教師や周囲から信頼を集めてきた(もちろん、それがダメだという話ではなく、すばらしいことだ)。ところが、社会人となり仕事に就くと別の種類の賢さ、すなわち「ストリートスマート」が求められるようになる。もちろん研究職や学術的な職業など一部の専門的な分野では、「ブックスマート」の強みが直接生かされる場面もあるが・・・。

技能職に人が集まってきている pixabay
技能職に人が集まってきている pixabay

    アメリカでは今、電気技師、配管工、建設作業員などの技能職が、Z世代(1997~2012年頃生まれ)に人気だという。近年、建設専門課程、機械工・修理工コースといった職業訓練プログラムを提供する専門学校への入学者が顕著に増えているのだ。その一方で、4年制大学や2年制大学への入学者は減少傾向なのだとか。明確なキャリアの方向性もないまま経済的負担の大きい4年制大学へ行くよりも、即戦力となれる技術を学べる専門学校などへの進学が注目されているということだろうか。大学で学位を取ることがキャリア成功への最良の道であるという、伝統的な認識が覆されつつある。これは同時に、教育に対する信頼度が低下し、高等教育への投資対効果に疑問を抱いていることへの表れでもある。

実践の世界のストリートスマート 筆者イメージ
実践の世界のストリートスマート 筆者イメージ

    ホワイトカラー/ブルーカラーは主に職業上のアイコンとして語られ、ブックスマート/ストリートスマートは、成長の過程で語られる道筋ととれる。これらは往々にして「ホワイトカラー≒ブックスマート」「ブルーカラー≒ストリートスマート」という結びつきが強そうだ。ここでは便宜上、ホワイトカラーを「ブックスマート」に、ブルーカラーを「ストリートスマート」に置き換えて語ってみたい。

 人工知能(AI)がホワイトカラーの仕事を奪うと危惧されるなか、ブルーカラー職はほとんどの場合、テクノロジーで代替できない“肉体労働”や“実地作業”をともなうため、長期的安定が見込める。早く稼げること、安定性、教育費の安さといった要素を兼ね備えたブルーカラー職は、若い世代にとって今後、魅力的な選択肢になるのかもしれない。

 ブルーカラー職が若者を惹きつけているのは、ソーシャルメディアの影響もあるだろう。いわゆる“ガテン系”技能職のインフルエンサーが、作業の様子やコツなどを投稿。特殊な知識と技術で目の前の有形無形の風景が様変わりしていく過程に、共感が集まる。肉体労働の厳しいイメージを覆す動画がクールでカッコいいと、憧れの対象になっている。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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