クマ問題を考える(前)その1、対策グッズ・専門家の話など

福島自然環境研究室 千葉茂樹

 近年、クマなどの野生動物が都市に出没し、問題となっている。

 私は、1979年から地質調査で深山に入っている。その経験から、クマ・野生動物問題について書かせていただく。

 とくに付け加えると、「クマの専門家」と称する方のなかには、間違った見解の方がいるので、注意点も書く。

 また、都市部に出没するクマは、痕跡を残すはずであるが、専門家はその痕跡「糞」に触れていない。この点も書く。

 なお、私が知るクマは「ツキノワグマ」で、北海道の「ヒグマ」は別である。

対策グッズは有効か?
結論は「ないよりはマシ」

 テレビ放送で
「熊鈴を身に着ける」
「ラジオを鳴らす」
「熊スプレーを携行する」
 がうたわれている。

 結論は、「ないよりはマシ」である。グッズを使うより、「自身の声を発して」周囲に自分の存在を知らせる方がよい。

 基本的に、ヒトは野生動物に対して「ここにいるぞ」と存在表示をすることが大切である。通常は、これで襲われない。グッズは、存在を示す道具でしかない。頼ってはならない。基本的に、野生動物との関係は、状況によって変化する。常に自分の頭で、瞬間瞬間でどう対応するか考えるしかない。

 野生動物は、ヒトとの接触を好まない。通常は、ヒトを見ると逃げる。問題なのは、ヒトと接触して、「ヒトは弱いと学習したクマ(野生動物)」である。このようなクマは、ヒトを見ると「良くて無視」「最悪は攻撃」してくる。

「熊鈴」

 基本的に「音が遠くへ届くこと」が重要である。単独で大きな音を発する鈴であっても、腰などに下げた場合、「衣服や鞄などと接触」して、音が響かないものもある。私が85年から使っているのは「南部熊鈴」である(画像01)。ネットで見ると、1個8,000円程度で売っている。余談をいえば、「チャグチャグ馬っこ」(リンク1)の鈴の応用である。この鈴は、腰に下げても衣服との接触はなく、遠くまで音が届く。私の経験では、数km先にいた猟犬が鈴の音に反応して吠えていた。

南部熊鈴

 ただし、この鈴が効かないクマもいる。88年、私は腰に南部熊鈴をつけて奥山を歩いていた。後方から「ガザゴソ」と大きな音を立てながら大型の動物が付いてきた。あとから分かったがクマであった。クマは、鈴の音を気にもせず、私が切り拓いた竹藪をついてきた。あまりに接近したので(多分距離10m)、私が声をかけると、クマはびっくりして全力で逃げて行った。

「ラジオ」

 ラジオは、「ラジオ体操用」のように大型でなければ意味がない。小さいラジオでは、音が響かない。登山道で「携帯ラジオ」を鳴らしている人を見かけるが、音が届いてもせいぜい5mである。基本的に役に立たない。

「熊スプレー」

 「成分・効果とも有効」と思う。ただし、「使い方」である。大半の人は、クマと出会った場合、びびって有効に噴射できないであろう。クマの平地での走る速度は、若い熊で約50km/h(=14m/s)、大型でも30km/h(=8m/s)は出る。私は、山奥の葦原(道路から歩いて約1時間の距離)で若いクマと遭遇した。そのクマは、私めがけて走ってきた。40mほどの距離があったが、数秒で急接近した。すぐに威嚇して撃退した。写真を撮っている暇などなかった(だから、今回の記事にクマの写真はない)。

 クマが襲ってきた場合、1~3秒しか時間はない。熊スプレーを警官のピストルのように腰にぶら下げ、緊急時に1~2秒で噴射しなければならない。相当慣れていないと無理である。

「専門家」と称する人々

 テレビなどで、専門家が出て解説をしている。このなかには、明らかに誤ったことを話している方がいる。

 岩手大学の山内貴義准教授、石川県立大学の大井徹教授は、クマの生態を良く知って話していると思う。ただし、後述の「クマの匂い」「糞」については言わなかった。

 これに対し、某大学の准教授は明らかに間違ったことを話していた。大問題は、熊と遭遇したら「頭部を手で覆い、体を丸めてうずくまれ」である。これは、大間違いである。これは、絶対してはならない。なお、この准教授のこの発言は、某テレビ局のHPに掲載されている。

 この「体を丸めてうずくまる行為」は、クマから攻撃を受けて逃げられない「絶体絶命の際の『緊急避難』的行動」である。この准教授は、山のなかでクマと対峙(遭遇)したことがないのであろう。極言をいえば「机上の空論にもおよばない」。

 私の見解を書く。野生動物(クマ)は、ヒトとの遭遇時に「戦って勝てるか負けるか」を瞬時に判断し、「攻撃するか逃げるか」を決める。この際に、ヒトはクマに対し「お前より強いぞ」と示すしかない。クマに「弱い」と見られれば攻撃される。

忌避行為
「クマと遭遇したらやってはいけないこと」

「悲鳴をあげる」
「背中を向けて逃げる」
「体を丸めてうずくまる」

 これらの行為は「自分は弱い」とクマ(野生動物)に示すこととなる。絶対に行ってはならない。2025年、テレビニュースで「クマに襲われたヒトの動画」が流れた。忌避行為「悲鳴をあげる」「背中を向けて逃げる」をしている。これでは、間違いなく襲われてしまう。

 私は、山のなかでクマ(野生動物)と対峙(遭遇)した場合、距離があれば「体を大きく見せる」「大きな威嚇音を発する」を行う。だいたいこれでクマのほうが逃げる。クマが攻撃してきたら、持っている長さ2mの棒(調査用で山には常時携行)を槍にして、クマに突撃することにしている。一撃離脱法で、口か目を狙う。

 クマとの遭遇時に、その場で対応しようとしても無理である。事前に、遭遇時の対応を決めておかねばならない。

クマの専門家が言わないこと。①
「クマは臭い」

 私の経験では、奥山のクマは臭い。「畜舎のような強烈な匂い」がする。わかりやすくいえば、「豚小屋」「鶏小屋」のような匂いである。クマの専門家がテレビなどに出演して解説しているが、「熊の匂い」を話している所を見たことがない。

 また、山では「クマの歩いた跡」にも、匂いが残る。慣れてくると、このクマ臭で「何時間前にクマが通ったか」がわかる。匂いが酸化するのである。

 25年11月、「猪苗代の亀ヶ城址公園にクマが出没した」との報道があった。私は、そんな報道を知らないで散歩した。クマの匂いは、まったくしなかった。里に出没するクマは、奥山のクマのように匂わないのであろうか。

クマの専門家が言わないこと。②
「クマの糞(ふん)」

 クマが都市部で行動した場合、必ず糞(ふん)を残すはずである。

 実例を挙げる。14年5月、猪苗代町の中心部および猪苗代湖北岸にクマが出没し、ニワトリ小屋を荒らし回った(リンク2)。その際、私の自宅(借家)の駐車スペースにも糞をしていった(画像02)。お昼頃に気が付いた。夏の高温と日光にさらされて、糞の表面は黒化(酸化)していた。状態から見て、10時間ほど前の明け方のものと思う。

画像02

 猪苗代役場に連絡したところ、農林課の職員と警官がきた。糞を棒でつついて観察していたが、結論を出さずに帰っていった。クマの糞を見たことがないのであろう。私は、山のなかでクマの糞を何度も見ている。

 話を戻すと、糞の内部は鮮やかな黄色で、画像02のように繊維質・未熟な種があることから、糞の主体はカボチャと考えられる。この他にドッグフードが混じっていた。クマは人家周辺を走り回って、畑の野菜や犬の餌を食べたのであろう。この糞には、奥山のクマのような「強烈な畜舎臭」はまったくなかった。

 人里で栄養価の高い食べ物を食べると、糞も匂いがしなくなるのであろうか。なお、このクマは2週間ほど出没したが、その後はいなくなった。

(つづく)


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。

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