本誌60号(2023年5月末発刊)でも紹介しましたが、24年4月からの建設業への時間外労働の上限規制の適用が開始され、ちょうど2年が経過しました。厚労省の発表では、建設業界でも残業時間は逓減しているとされています。他方で、「隠れ残業(サービス残業)」の常態化が指摘されることもあります。書類上の労働時間は基準内に収まっていても、実際には「持ち帰り仕事」や、現場事務所の消灯後にPCをオフにして作業を続けるケースが散見されているようです。このように、建設業界でも「コンプライアンス遵守を武器に人材を確保する企業」と「旧態依然とした運用で疲弊する企業」の二極化が顕著になっています。
時間外労働上限規制の猶予期間が終了した建設業界でも、当初2年間は、労働行政においても、周知・広報、相談・支援という方針で対応されていました。ですが今年度は、履行確保のために指導監督の徹底というフェーズに入るものと思われます。
労働基準監督署による調査の結果、指導・監督などを受けないためにも、とるべき具体的な対策を考えていきましょう。
①客観的な労働時間把握の徹底と「乖離」の是正
労働時間管理については、従来のタイムカードの確認や自主申告だけでは不十分です。PCのログイン・ログオフ履歴、メールの送信時間、ビジネスチャットのやり取り、社用車のGPSデータや現場の入退場ゲートの記録と残業時間数が整合しているか、厳格に突合されます。労基署の指導事例のなかには、夜間の張り込み調査で勤務実態を調査した事例も紹介されています。デジタル・ツールの導入等によって、労働時間を適切に管理すること、客観的記録と出勤簿に乖離が生じないこと、記録に乖離がある場合は、休憩その他の理由をその都度記録させ、会社が実態を把握して合理的な説明ができることも重要です。
なお、ログを削除するなどの隠ぺい工作は、決して行ってはならない行為であり、調査妨害等の悪質な行為として、刑事罰などの不利益を受ける可能性がありますので、ご留意ください。
②「工期」と「労働時間」の相関関係
無理な短工期の案件において、労働時間が法定内に収まっている場合、「不自然」とみなされ、調査が強化される可能性があります。建設業法改正を踏まえ、「著しく短い工期」による契約締結は禁止されています。今後の対策として、施主との交渉において、「週休2日(4週8休)」を前提とした工期設定を徹底すること、追加工事が発生した際は、必ず書面で「工期の延長」と「費用の増額」を合意し、証拠書面を残すようにしてください。これが、現場の残業を抑える対策になります。
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今年は建設業界でも、労基署の監督・指導が強化される可能性があります。人手不足が加速するなか、法を遵守し、クリーンな職場環境を維持できる企業が、優秀な技術者や職人を引き止めることができます。「法改正への対応」を「生産性向上と差別化のチャンス」と捉えて対応することが、経営者に求められているといえるでしょう。
<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所
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<プロフィール>
岡本成史(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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