政治経済学者 植草一秀
RCP=Real Clear Politicsの調査でトランプ大統領支持率が39.9%となり40%を下回った。不支持率は56.9%。支持率から不支持率を引いた数値は17.0%。この数値は4月25日に17.2%を記録している。
RCPは全米のメディア等による世論調査結果を集計して発表している。メディア公表の世論調査集大成と言える存在。トランプ2.0が始動したのは昨年1月。1年半が経過しようとしているが、この間、支持率は下落トレンド、不支持率は上昇トレンドを描いてきた。
2月28日に米国はイランに軍事侵攻。通常、米国が実行する軍事作戦について当初は米国世論が賛同の意を示す。時間の経過に従い支持が低下する傾向を示す。しかし、2月28日のイラン軍事侵攻については、侵攻の当初から米国国民は賛同していなかった。
米国国民に支持されていない軍事行動である。イランと米国は核問題について協議中だった。次回交渉日程も内定していた。その交渉のさなかに米国は一方的に軍事侵攻した。明らかな国際法違反、国連憲章違反の行為である。
トランプ大統領は「国際法は必要ない」とまで言い切った。米国の国際法違反、国連憲章違反の暴挙に対して国際社会が批判を強めてきた。このなかでの唯一の例外が高市首相。訪米してトランプ大統領と面会した高市首相はこう述べた。
「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ。これを伝えに訪米した。」国際社会がドン引きした。トランプ大統領に「世界の平和と繁栄を打ち砕く国際法違反、国連憲章違反の行為は許されない」とたしなめるべきところ、トランプ大統領を絶賛する発言を示した。
ホワイトハウスは高市首相がトランプ大統領に抱きついた写真、食事会で絶叫して踊り狂う高市首相の写真を公式サイトに掲載した。バイデン大統領の代わりに、サインを代筆したと言われるオートペンに差し替えた写真の前で笑い転げる高市首相の写真も掲載した。
米国のイラン軍事侵攻が始まって2ヵ月半が経過するが戦争はまだ終結していない。ホルムズ海峡は封鎖され、世界の物流に重大な影響が広がっている。日本が輸入する原油の8割以上がホルムズ海峡経由で運ばれる。ナフサを含む石油関連製品の輸入も滞っている。当然のことながら原油や石油関連製品の消費を抑制する必要がある。
ところが、高市内閣は国民に節約さえ呼びかけない。早期にイラン戦争が終結することを前提に無策を決め込んでいるのだとすればあまりにも愚かだ。「賢者は最悪を想定して楽観的に行動する」と言われるが、「最善を想定して楽観的に行動する」のは単なる愚者。「米国とイランが戦争を終結させる」ことを根拠なく信じて何も対応していないように見える。この対応は「カミダノミクス」、「神頼み」して戦争が終わる保証などどこにもない。原油価格は代表指標のWTIで1バレル=100ドルを大幅に超えている。日本はトランプとともに沈みつつある。
トランプは2.0への出馬に際して「戦争をしない、戦争をやめさせる」ことを公約に掲げた。ウクライナ戦争も自分が大統領だったら勃発させていないと豪語した。ところがトランプ2.0で侵略戦争に突き進んでいるのはトランプの米国だ。イスラエルによるパレスチナ軍事攻撃を放置。ベネズエラに軍事侵攻し、イランに軍事侵攻した。グリーンランドやキューバへの軍事侵攻さえほのめかす。米国の軍事力で威嚇して国際法違反の侵略戦争を繰り返している。
トランプを支持してきたMAGA派の米国国民の一部がトランプ支持から離脱しつつある。トランプ大統領はエプスタイン事件についても強い疑惑を持たれている。エプスタイン事件に関するすべての情報はイスラエルの諜報組織であるモサドによって押さえられていると見られる。この情報によりトランプ大統領はイスラエルの命令に服従せざるを得ない状況に追い込まれているのかも知れない。これがイラン軍事侵攻の背景にあるとの指摘が存在する。
日本は国際社会とともに米国の国際法違反、国連憲章違反の行為を封殺するために行動すべきだ。ところが、高市首相はトランプ大統領に媚を売ることしかしない。日本は暴走する米国の一味と受け止められて国際社会での居場所を失いつつある。
他方、高市首相は中国との関係を崩壊させた。「台湾有事があればどう考えても存立危機事態になり得るケース」と述べた。発言に先立つ質疑で「台湾有事で米軍が来援して」と述べているから「米軍が来援した場合」についての発言であると高市氏に有利な前提を置いてあげても、「戦艦が使われ、武力行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得るケース」の発言は逸脱したもの。「どう考えても」というのは「あらゆるケースを想定してみても」という意味になるから「必ず存立危機事態になり得る」と述べたことになる。
存立危機事態は集団的自衛権行使の要件だから、「台湾有事で米軍が来援するなら、日本は集団的自衛権を行使して米軍とともに中国と戦争する」と発言したことになる。台湾有事で米軍が来援するかどうかも分からない。それにもかかわらず、「日本は必ず中国と戦争する」という意味の発言をした。「宣戦布告」を宣言したと表現しても過言でない。
高市首相に弁解の余地はない。「どう考えても存立危機事態」発言を撤回するしかない。高市首相はトランプ大統領に抱きついて、トランプ大統領が中国に厳しく対応してもらうことを懇願したのだろうが、トランプ大統領は台湾に独立を宣言するなと通告した。トランプ大統領は良好な米中関係を築くために台湾の中国帰属という中国の核心的利益に大きく歩み寄った。この外交ではしごを外されたのは高市首相である。
TBS『サンデーモーニング』でMCの膳場氏が「はしごを外される」と発言したことに対してネット民の一部が反発したようだが、客観的に見て高市首相がはしごを外されている状況は鮮明だ。媚米外交、対米隷属外交+対中国敵対外交で日本は暗黒に転落しつつある。高市首相は事態を打開する第一歩として、まずは11月7日の台湾有事発言を撤回する必要がある。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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