高市頑迷固陋外交は国民の迷惑

政治経済学者 植草一秀

 

 トランプ大統領不支持率が58.9%まで上昇している(9月22日現在)。Real Clear Politics社が各社世論調査結果を集計して発表している。支持率は39.5%。不支持から支持を差し引いた数値は19.4%ポイント。

 昨年1月の大統領就任以来、一貫して支持率が低下、不支持率が上昇してきた。11月3日には中間選挙が実施される。少し前までは上院では共和党が過半数を維持できると見られていた。ところが、現時点では接戦州が増加して共和党が過半数を維持できるか不透明な情勢に転じている。

 下院では選挙区の区割りが変更された。共和党に有利に区割り変更が行われた(ゲリマンダー)ため、共和党は大敗を免れる可能性が高まっているが、共和党は下院過半数を維持できないとの見方が強い。こちらも激戦州の結果によって勝者が入れ替わり得る状況になっている。

 下院は大統領弾劾訴追の権限を有する。大統領弾劾には上院で3分の2以上の賛成が必要で、トランプ大統領が弾劾される可能性は高くない。しかし、下院で共和党が過半数を割り込み、トランプ大統領が訴追されると弾劾裁判が行われる。この裁判が行われること自体がトランプ大統領にとって強い逆風になる。

 その米国で大きな外交が展開されている。メインイシューは米中首脳会談。トランプ大統領は中国の習近平主席の訪米に際して、ワシントンのアンドルーズ空軍基地まで出迎えに行く予定。習近平主席はレッドカーペットを敷き詰めた地面に降り立つ見通し。翌日にはホワイトハウスにおいて米軍儀仗隊による栄誉礼を含む最高レベルの歓迎式典が執り行われる見通し。さらに晩餐会も予定されている。

 高市首相は22日に訪米。航空機のデッキから大きく手を上げて出迎えの人々に対応したような映像が流されたが、高市首相に手を振る人々は存在しなかった。

 米国側からの出迎えはなく、むき出しの滑走路に降り、在米日本大使館等の職員が対応した。

 日米首脳会談が開かれたが、ICC(国際刑事裁判所)の赤根所長への制裁に対する抗議を表明しなかったと見られる。高市氏はいつものように媚びた態度をむき出しにしたが、トランプ大統領は訪米する日本首相に投げかける常套句を素っ気なく述べたにとどまった。

 高市首相は昨年11月7日の台湾有事発言で中国の猛烈な反発を受けており、トランプ大統領を何とか自陣営に引き込みたいとの願望を有していると見られるが、トランプ大統領にその思いはまったく届いていない。高市首相に対する接遇と習近平主席に対する接遇に天地の開きがある。これが米国の高市首相に対する位置づけを端的に示している。

 高市首相は国連総会で一般討論演説をしたが、聴衆はほとんどいなかった。
 

 9割方が空席だった。

 日本のプレゼンスは地に堕ちている。日本は米国と中国の間に位置する国。中国とは一衣帯水の関係にある。日本のプレゼンスを高めるには日本が米国と中国の双方と安定した友好関係を構築することが必要不可欠。日中関係が激烈に悪化するなかで米中が友好関係を深めれば日本は孤立するだけである。現実に孤立を深めていると言える。

 中国は日中関係が冷え込んでも困ることがない。しかし、日本は違う。日中関係悪化がボディーブローとして日本経済に重大な影響を与え始めている。

 その経済の苦境を軍備拡大で切り抜けようとするのは愚の骨頂。最低の方策だ。日中関係を破壊してきたのが日中のどちらであるのかを虚心坦懐に考える必要がある。高市氏が謙虚で柔軟な姿勢を示すなら日中関係を修復することは可能だが、本人にその意思がないから関係悪化持続は避けられない。その弊害が日本の主権者国民に及ぶことを忘れてはならない。

 昨年11月7日の高市発言の意味を確認しておくことが必要不可欠だ。高市首相の発言が正当なら撤回も謝罪も必要ない。正しいことを撤回する理由がないからだ。しかし、高市首相の発言に非があるなら速やかに撤回すべきだ。間違ったものを認めずに押し通せば関係改善は実現しない。是々非々の対応が不可欠だ。

 高市氏は「台湾有事で米軍が来援し、戦艦が使われ、武力の行使を伴うなら」「どう考えても存立危機事態になり得る」と発言した。「存立危機事態」は日本の「集団的自衛権行使」の要件。具体的には米軍とともに中国と戦争状態に入ることを意味する。

 台湾有事は台湾の独立をめぐり、台湾と中国との間で武力衝突が起こることを指す。この事態に米国が軍隊を出動させるのかがまず不明だ。米国は軍隊派兵について態度を明らかにしていない。「あいまい戦略」が取られている。

 高市発言の軽薄さは来援するかどうかも分からない米軍について「来援したら」という前提を置いたこと。「仮定のケースについての論評は控える」べきだった。

 台湾問題について日本は中国と合意を形成した。1972年の日中共同声明、および1978年の日中平和友好条約だ。この内容を日本のメディアが正確に伝えない。メディアの「偏向」が問題をこじらせる「主因」になっていると言っても過言ではない。

 日中共同声明で、「台湾が中国の領土の不可分の一部であること」について、日本政府が中国の立場を「十分理解し、尊重する」とした。ここまでは日本のメディアが伝える。しかし、この説明は「理解し、尊重するが、承認していない」との説明のために用いられている。この説明が大間違いなのだ。

 共同声明は、上記の記述のあとに「ポツダム宣言第八項の立場を堅持する」と明記している。これが「日中共同声明」のツボ。「ポツダム宣言第八項」は「カイロ宣言の条項は履行せらるべく」というもの。「カイロ宣言」は「台湾及び澎湖島のような日本国が清国人から盗取したすべての地域を中華民国に返還すること」を明記している。

 日本政府は中華民国を引き継いだ中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを共同声明で認めたから、台湾が中華人民共和国に返還されることを認めているのである。このことがあり、大平正芳外相は国会で「台湾と中華人民共和国の対立は基本的に中国の国内問題である」と答弁した。

 こうした条約を締結しておきながら、「台湾有事で米軍が来れば日本は中国と戦争する」と国会で発言するのは、誰がどう考えてもおかしい。高市首相が発言を撤回して謝罪するしか、問題解決の方法はないと言える。高市氏が頑迷固陋な対応を示し続けることは国民にとっての大きな迷惑である。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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