今年も猛暑となった福岡の夏。この暑さを都市レベルで緩和するのに重要な役割を担っているのが、街路樹や公園などのまちの緑である。福岡市では、博多駅前の明治公園をはじめ、公園のリニューアルが相次いでいる。一方で、須崎公園の樹木の伐採が多くの市民の批判を浴び、街路樹の老朽化も課題となっている。今年4月には、舞鶴公園で桜の老木が倒れる事故も発生した。
今回のテーマは、福岡市の都市緑化の現状・方策とその課題である。福岡市が掲げるカーボンニュートラルの目標設定を考え合わせると、海外の先進事例と比較した目標設定と情報公開の課題が浮き彫りになる。
伸び悩む緑化と不十分な情報公開
福岡市の緑の現況については、「福岡市みどりの基本計画」(2025年12月策定・公表)に基礎データの記載がある。
22年の市街化区域の緑被率は、5年前から▲1.2ポイントの19.8%である。人口1人あたりの公園面積は、09年から24年まで8.5~9m2の間で推移しており、24年は09年比で0.14m2減の8.67m2であった。人口増加にともない、1人あたりの面積は伸び悩んでいる状況だ。街路樹(高木)の本数(福岡市住宅都市みどり局管理分)は、24年時点で5万4,269本と、09年比で4,055本増加しているものの、19年の5万5,702本をピークに、病害虫や老齢化の影響で減少傾向にある。
福岡市の公園や街路樹の状況は、(公財)福岡市緑のまちづくり協会サイトの「公園等検索」で公開され、地図上で検索できる。しかし、開園年や面積、街路樹が植えられた区間の長さといった基本的な情報に限られており、樹木の本数や個別の状況は確認できない。対照的に東京都では、各都道の街路樹の個別データ(位置、樹種、樹高、枝張、幹周など)をダウンロード可能なファイル形式で公開している。
郊外部の保全成果と市街地の低い目標設定
郊外の山地部における緑の保全に関して、福岡市は一定の成果を上げているといっていいだろう。厳しい水需給を背景に、標高約80m以上の区域を原則開発区域から除外する方策を導入し、郊外部の乱開発を抑えてコンパクトシティの基盤をつくり上げた。植え替えによる花粉症対策にも積極的で、福岡市みどりの基本計画のなかで、スギ・ヒノキ人工林から広葉樹などへの植え替え面積を、24年の17haから34年には245haへ増やす目標を掲げている。
しかし、市街地・都心部の緑化目標に関しては課題が残る。同計画では、都心部の植樹本数(中高木)を24年の2,624本から34年には1万本にする目標を掲げているが、これ以外に画期的な目標設定は見当たらない。目指す将来像から逆算するバックキャストの設定ではなく、現状を追認しながら積み上げていくフォアキャストの設定にとどまっているのだ。同計画における同期間の主な目標設定は、以下の通りである。
- 市街化区域における永続性のある樹林地の面積:126ha → 140ha
- 都心部の緑被面積・緑被率:100ha → 102ha、約11%→約11%
- 都市緑化によるCO2吸収量:7,361t- CO2/年 → 8,300t- CO2/年
同計画の本文でCO2吸収量の算出根拠を確認すると、保守的に定められた緑化目標から積み上げて計算された数値に見え、「2040年度のカーボンニュートラル達成」という市の全体目標に対しては、力不足な印象を拭えない。
見落とされている指標「樹冠被覆率」とは
世界的にその重要性が増しているにもかかわらず、「福岡市みどりの基本計画」に記載がないばかりか、日本の多くの自治体で意識されていない重要指標がある。それが「樹冠被覆率(Tree Canopy Cover)」だ。これは上空から見た際に樹木の葉や枝が地面を覆っている割合、すなわち「木陰ができる割合」を示す。日陰をつくりにくい芝生や花壇はカウントされず、単に地面が緑で覆われている割合を示す「緑被率」とは異なる。緑化が形式的なものにとどまれば、「緑被率が上がっても樹冠被覆率が低下する」という現象が生じ得る。
樹冠被覆率が注目されるのは、気候変動による酷暑や熱中症から身を守る実質的な木陰の量を正確に測定できるからだ。この割合が高ければ、熱ストレスの緩和に加え、大気汚染の改善、歩行機会の増加、心理的ストレスの軽減といった心身の健康維持に対するメリットがもたらされる。ところが福岡市では、この重要な指標の現況データすら調査されていない。
東京大学新領域創成科学研究科の白石欣也氏らによる24年の研究論文(※1)によると、東京23区の樹冠被覆率は13年から22年の間に9.2%から7.3%へ低下した(面積換算で約20.6%の減少)。緑被率の状況や街路樹の本数推移などを鑑みれば、福岡市の市街化区域における樹冠被覆率も同様の水準にあり、若干の低下傾向をたどっている可能性が高い。
この数値は、ニューヨーク(21年で23.4%)、シドニー(22年で19.8%)、パリ(25年で17.6%)など(※2)の海外主要都市と比較しても低い水準だ。東京の数値が低下傾向にある一方で、海外主要都市の多くが樹冠被覆率を上昇させている点も見逃せない。
(※1)Kinya Shiraishi, Toru Terada “Tokyo’s urban tree challenge: Decline in tree canopy cover in Tokyo from 2013 to 2022”
(※2)海外都市データは、『「緑の日傘」消える日本、街路樹50万本減 世界の都市整備と逆行』(日本経済新聞 2026.5.24)からの引用。
海外都市の先進事例──科学的かつ野心的な施策
海外の主要都市を見ると、情報公開、目標設定、そして実現に向けた詳細な施策づくりの面で、現在の福岡市よりはるかに先を行っている。一言でいえば、福岡に比べ科学的かつ野心的なのだ。
街路樹の情報公開が進んでいる代表例が、アメリカ・ニューヨーク市である。同市では「New York City Tree Map」を公開し、市民ボランティアや専門家と協力して市内の街路樹をデータベース化している。地図上の木をクリックすると、樹種などの基礎情報に加え、その木がもたらす年間の雨水保持量、エネルギー節約量、大気汚染物質吸収量がドル換算された経済価値として表示される。
地区単位でも、総経済価値や樹木数、樹種構成などが一覧化されている。例示した図によれば、セントラルパーク西側に位置するアッパーウエストサイド地区には181種8,863本の街路樹があり、環境改善効果による経済価値は年間約140万ドル(約2.2億円)にのぼると算出されている。
ニューヨークをはじめとする海外の複数の都市で、野心的な樹冠被覆率の目標と具体的な行動計画が策定されている。
ニューヨークでは、マムダニ市長のもと策定された「NYC Urban Forest Plan 2026」に基づき、2040年までに樹冠被覆率30%を達成する目標を掲げた。気候変動やヒートアイランド現象の影響を受けやすい「環境正義地区」への重点配分や、土地利用タイプ別の詳細目標を設定している。ここでの樹木は単なる景観要素ではなく、熱中症による死亡、大気汚染や洪水を抑制し、住民の健康や生活の質を高める「気候インフラ」に位置付けられている。
フランス・パリは、2030年までに市の50%を緑化・植樹地で覆う目標を掲げ、車道の緑道化や「Urban Forests(都市の森)」の造成を推進する。学校校庭の緑化と一般開放を推進して、市民に涼める場所を提供する取り組みもある。市民が公共空間で緑を育てることも認めた。これらの方策は、イダルゴ前市長が在任中掲げてきた「15分都市(日常生活を徒歩や自転車で完結できる街)」構想とも連動している。
オーストラリア・メルボルンは、「Urban Forest Strategy」に基づき、2040年までに樹冠被覆率を22%から40%へ引き上げる計画を推進している。また、特定の樹種の割合が全体の5%を超えないよう植生の多様化を図り、気候変動への耐性を高めている。
すでに樹冠被覆率が30%近い水準にあるシンガポールは、「City in Nature(自然のなかの都市)」の構想の下、緑地同士をつなぐ生態系回廊の整備や、厳格な屋上・壁面緑化の義務化を推進している。
これ以外にも、スペイン・バルセロナ、アメリカ・フィラデルフィアなど、30%以上の樹冠被覆率を目標に掲げる都市は数多い(※3)。
(※3)該当都市は、Rochelle Kopp『「緑」や「本数」ではなく「木陰」を測る時代へ』(NewsPicks 2026.5.19)を参考に記載した。
見るだけの緑から都市資産としての緑へ
福岡市の緑化政策を海外都市と比較すると、現状を積み上げたフォアキャストの視点からの「飾って見るための、施設内の表面的な緑を増やす」レベルにとどまる印象がある。
そもそも、なぜ都市に緑が必要なのか──。それは豊かな環境の下で、市民1人ひとりが健康かつ安全に暮らすためだ。気候変動対策やその柱となるカーボンニュートラルは、このために不可欠な過程である。福岡市の緑化政策も原点に立ち返り、「2040年度カーボンニュートラル」の達成から逆算したバックキャストの視点が必要だ。野心的な数値目標の設定、樹冠被覆率などの科学的指標の導入、オープンな情報公開はそこから生まれる。さらに市民を巻き込みながら政策の実効性を高める仕組みをつくることが、結果として福岡市全体の都市価値向上に直結するはずだ。
<プロフィール>
島倉孝之(しまくら・たかゆき)
富山県射水市出身。不動産系シンクタンクの研究員として都市計画、資産評価、国連ハビタット関連業務などに従事。海外開催の起業支援プログラム参加後は、気候対策とヘルスケアを複合させたビジネス構想を進めながらライターとして活動。2024年に大谷翔平選手のコラム記事を連載。脱炭素まちづくり公認ファシリテーター。

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