2024年11月25日( 月 )

福岡の持つ文化・価値を蓄積し戦略的な都市計画を

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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎

積み重ねてきた都市の価値

(株)環境デザイン機構 佐藤 俊郎 代表取締役<

(株)環境デザイン機構 佐藤 俊郎 代表取締役

 私は福岡に来てからもう50年くらいが経ちますが、その間、福岡の都市の移り変わりというものをつぶさに見てきました。ご存じのように、福岡そのものはどんどん人口が増えて、近代的という意味では大きく成長しているのでしょうが、はたしてそこに、都市の財産として蓄積されてきたものがあるか―というのをすごく感じます。

 たとえばヨーロッパなどを訪れた際に、そのまちから感じる、そのまちが持っている独特の価値、そういったものと比べて福岡はどうなのか、という視点でいつも見ています。福岡が九州で独り勝ちだとか、一番住みやすいまちだとか、そういったものはある意味では当たり前なこととして、それにプラスアルファした本当の意味での都市の魅力のようなものがどこにあるのか。

 たとえば、福岡の街中では、古いビルなどがどんどん取り壊されて、なくなっていっています。古いものがどんどん新しく変わるということは、それは経済が活性化しているからとも言えます。ですが、経済が拡大して活性化するために都市は常に新陳代謝を繰り返し変わっていかなければならない、という考えそのものが、もうある意味では古いモデルではないでしょうか。それとは違う、ひたすら都市の価値を積み重ねストックしていくような感覚というものが、福岡の都市からはあまり感じません。ですから、久しぶりに福岡を訪れた人が言う「こんなに変わってしまったの」という言葉が、一昔前であればこの「変わる」というものがほめ言葉であったものが、今の時代では、はたしてどうなのか―と。やはり都市戦略的なところが、あまりにも経済的なものに引っ張られすぎてきてしまったような気がしますね。

行政のリーダーシップ

 たとえば一昔前でしたら、福岡は「アジアに開かれた都市」というテーマを打ち出して、いろいろなことを「アジアに」と言っていました。ですが、やがてそうした「アジアに開かれた」というものが日常化してきて、今のように、中国人観光客が大勢押し寄せて爆買いして帰るような状況になると、アジアとどうやってちゃんと付き合っているか、というような検証のようなことがまったくなくなっているようにも思います。
 たとえば「福岡アジア美術館」がありますが、あそこもできた当初は全国で初めてのコンセプトの美術館でしたが、それが年月の経過とともにだんだんと魅力みたいなものを失っているようにも思います。本来であれば、ずっとやってきているからこそ、魅力が蓄積されていないとおかしいのですが、それが見えないどころか、だんだんと薄れてきている。そうしたところを、私はものすごく危惧しています。

 単に新しいものであれば、今は海外の都市のどこにでもあります。むしろ、海外の方がはるかにスケールの大きいことをやっていますから、そうなると、そうした都市と福岡との差別化というか、福岡の都市としての魅力付けはどうしていけばいいのか―。もっと戦略をもってやらなければいけません。

 これは前々から言っていることなのですが、もっと行政が掲げるビジョンとか施策というものが必要だと感じます。たとえばロンドンを例に挙げますと、あの巨大な都市のなかで、市の職員というのは700~800人と聞いています。でもその方々は常に都市の将来像を考えていて、要は数百人の都市プランナーがいるような状態です。そうしたように、本当に知恵を出して都市の将来のことを考える優秀な行政の職員が、福岡でも必要ではないでしょうか。これはまちづくりの原点かもしれませんが、福岡のビジョンをつくり、強力な意志を持って引っ張っていける、都市プロデューサーというのが、行政のなかに必要だと思います。(談)

※記事内容は2015年8月31日時点のもの

<COMPANY INFORMATION>
(株)環境デザイン機構
代 表:佐藤 俊郎
所在地:福岡市南区大橋2-2-1 マルイビル2F
設 立:1994年12月
資本金:2,110万円
TEL:092-553-0560
URL:http://www.kankyo-dk.com/

<プロフィール>
satou_pr佐藤 俊郎(さとう としろう)
1953年生まれ。九州芸術工科大学(現・九州大学)、UCLA(カリフォルニア大学)修士課程を修了。アメリカで12年の建築・都市計画の実務を経て、92年に帰国。94年に(株)環境デザイン機構を設立し、現在に至る。

 

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