福岡の災害対応と防災体制 風水害と地震にどう備えるか(後)

地域特性に合わせ災害への備え強化

 相次ぐ自然災害を受け、福岡県内の行政機関は地域防災計画を見直すとともに、防災施設や関係機関との連携体制を整えてきた。その対策は、地域の特性によって異なる。福岡県は広域的な調整を進めるほか、政令指定都市である福岡市・北九州市でも、それぞれの特性に合わせた防災計画を策定し、備えを進めている。

福岡県

 福岡県の防災対策の基本となるのが、災害対策基本法に基づく「福岡県地域防災計画」だ。これは県や市町村に加え、指定地方行政機関や指定公共機関などの役割を定め、被害の軽減と早期の復旧・復興を目指すもの。県は26年度の予算においても「事前防災・減災対策の推進」を打ち出している。洪水・土砂災害の対策として229億403万円を編成したほか、洪水浸水想定区域図作成に向けた調査や直下型地震を想定した図上訓練、上下水道強靭化推進費などの予算も組み込んでいる。また、「災害に強い」県土づくりを目指し、「福岡県地域強靱化計画」をまとめるなど、広域の連携を進めながら、被害を軽減するとともに、早期の復旧・復興を可能にする体制整備を進めている。

 水害対策においては、堤防を整備し、河道を掘削する従来の治水だけでなく、流域内の自治体や企業、農業関係者、住民も加わり、地域全体で浸水リスクを減らす「流域治水」へとその領域を広げている。県内各水系の流域治水協議会では、遊水地や雨水貯留施設の整備、田んぼダムの活用などを地域の実情に合わせて検討。土地利用や防災情報の在り方も含め、水を河川だけで受け止めない仕組みをつくろうとしている。

 また、災害の危険が高まった際、欠かせないのが情報である。県、市町村、防災関係機関が同じ情報を共有できる基盤となる情報網の構築も必須だ。26年度予算では、それらの情報を県民向けに発信する防災情報システム「まもるくん」の機能強化費として2,896万円を編成した。

 そのほかにも、被災自治体だけで十分な人員や物資を確保できない事態も想定しなければならない。県は「福岡県災害時受援計画」を策定し、国やほかの自治体、関係機関から派遣される職員や応援部隊をどこで受け入れ、どの業務に配置するかを定めている。救援物資についても、広域的な拠点に集め、市町村の物資拠点を経て避難所へ運ぶ流れを整えた。被害が県域を越えれば、九州・山口各県の応援体制や、九州地方知事会と関西広域連合による相互応援の枠組みを活用することで対応する。

土砂が河川へ流れ込む場合も
土砂が河川へ流れ込む場合も

福岡市

 人口160万人を超える福岡市は、建物や地下空間が密集する大都市ならではの災害リスクを抱える。短時間の大雨による市街地の浸水に加え、警固断層帯を震源とする地震が起きれば、被害が都市機能全体へ連鎖する恐れがある。そのため、この特性を踏まえた「福岡市地域防災計画」を定めている。

 都市型水害対策を重視する契機となったのが、99年と03年に博多駅周辺などを襲った大規模浸水だ。市は「雨水整備Doプラン」や「雨水整備レインボープラン」を通じて施設整備を重ね、現在は「雨水整備Doプラン2026」に基づく対策を実施。過去の浸水実績などから重点地区を選び、優先的に整備することによって効率的な浸水対策を行っている。都心部の地下には、雨を一時的に受け止める機能を有する雨水幹線や調整池を設け、さらにポンプ施設で排水し、道路や建物への浸水を抑えるといった手法をとっている。

 また、地震対策として、高層建築物や地下街の安全確保とともに、帰宅困難者への対応として地区内の事業者や交通機関と連携し、一斉帰宅を抑制する方針を共有している。一時滞在施設や備蓄を確保し、交通や被害に関する情報の発信体制も整える。

 災害対応の最前線となるのは、それぞれの地域である。小学校区などを単位とする自主防災組織では、防災訓練や避難所運営訓練を実施。自力での避難が難しい高齢者や障がい者については、本人や家族、福祉関係者、地域住民が避難先と支援方法を事前に確認する個別避難計画の作成に取り組む。

北九州市

 北九州市の特徴は、響灘や洞海湾に面した工業・港湾地帯と、市街地の背後に広がる山地・丘陵地が併存していることだ。臨海部では地震や高潮、津波が物流・生産活動を止める恐れがあり、斜面地では豪雨による土砂災害が懸念される。「北九州市地域防災計画」も、こうした地域ごとの違いを踏まえた内容となっている。

 港湾・臨海部には、国際物流拠点や工場、エネルギー関連施設が集まる。被災後も緊急物資の輸送経路を確保し、物流や企業活動を早期に立て直すには、港の機能を止めない備えが必要だ。北九州港では耐震強化岸壁を整備するとともに、港湾BCPに基づく対応手順を定めている。防災関係機関、港湾運送事業者、施設管理者が連携し、被災した航路や岸壁の確認から応急復旧、緊急物資の受け入れまでを担う。

 一方で、山地や丘陵地には多くの土砂災害警戒区域が分布する。砂防施設や急傾斜地崩壊防止施設を整備し、斜面の危険箇所を点検するほか、住民への防災情報の発信にも力を入れている。

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 福岡県は市町村を越えた調整と支援の受け入れを担い、福岡市は都市型水害と大都市直下地震、北九州市は臨海部と斜面地の災害に重点を置く。地域ごとに備えのかたちは異なるものの、各自治体の人員や設備だけでは災害に対応できないという点は共通している。発災すれば、道路を開き、河川やライフラインを復旧させる人員と機材が必要となるのだ。

防災協定の締結で復旧・復興担う事業者

 災害が発生した際、行政だけですべての被害を把握し、応急作業まで担うことはできない。そこで現場を支えるのが、自治体と防災協定を結ぶ業界団体や地元事業者だ。救援物資の供給や避難場所の提供、インフラの復旧など、協定の内容に応じた役割を担う。

 発災直後に重要となるのが、土砂や流木、がれきなどを撤去し、救助部隊や救援物資の進入路を確保する道路啓開である。自治体職員だけでなく、建設業者らが担当区域を巡回して道路や河川の被害を報告する場合もある。また、測量・建設コンサルタント事業者が測量機器やドローンを使って地形の変化を調査し、集められた情報を基に現場での作業が始まるのだ。17年の九州北部豪雨においても、多くの道路が寸断された際、地元建設会社が重機と作業員を投入して進入路を切り拓いた。地域の地形や道路事情を熟知し、重機をすぐに動かせる地元建設事業者は、災害対応の出発点を担っている。
 道路啓開の後、各分野の事業者が復旧作業に入る。管工事業者が破損した上下水道管を修繕し、電気・通信事業者は電柱や基地局などを復旧する。住宅地に流れ込んだ泥土や倒壊建物は建設・解体事業者が撤去し、その後の運搬と処理を廃棄物処理業者が引き継ぐ。応急対応が一段落した後は、測量や地質調査の結果を踏まえて復旧方法を検討し、設計から資材調達、施工へと進む。こうした異なる専門分野の連携によって、被災地の復旧は前へ進んでいくのだ。

 復旧は、被災前の状態に戻すだけとは限らない。九州北部豪雨で甚大な被害を受けた朝倉市の赤谷川流域では、河道の拡幅や線形の見直し、護岸整備が行われた。上流部にも土砂や流木を捕捉する砂防堰堤などを設け、山地を含む流域全体で再発防止を図った。被害が広範囲におよび、高度な技術を要したため、国が福岡県に代わって復旧事業を行う権限代行制度を適用。国が事業主体となり、各分野の事業者が調査や設計、施工を担った。

 被災者の住まいを確保するうえでも、民間の力が欠かせない。行政は関係団体との協定を通じ、木造応急仮設住宅の建設や被災住宅の応急修理を担う事業者を確保している。不動産関係団体とも連携し、民間賃貸住宅を「みなし仮設住宅」として被災者へ提供する仕組みを整えている。

 このように、被災地の復旧・復興は、現場を切り拓く建設事業者から、調査・設計、設備、解体、廃棄物処理、住宅、不動産へと、多くの事業者に引き継がれていく。行政の防災計画を実際の行動へ移すのは、地域で人員と機材を動かす事業者なのである。

折れた電柱の架線と接触した鉄道車両(八代市)
折れた電柱の架線と接触した鉄道車両(八代市)

担い手を守り持続可能な地域防災へ

 この10年間、福岡県内では河川氾濫や内水氾濫、土砂災害が相次いだ。1つの豪雨が複数の災害を同時に引き起こし、被害を広げた例も少なくない。加えて、福岡市中心部を通る警固断層帯など、県内には大規模地震につながりかねない活断層がある。風水害と地震のどちらも、現実に起こり得る災害として備えなければならない。

 福岡県、福岡市、北九州市をはじめとする自治体は、過去の被災経験と地域特性を踏まえ、防災体制を見直してきた。河川や下水道、道路、港湾の整備だけでなく、避難情報の発信や防災訓練、個別避難計画の作成も重ねている。施設で被害を抑え、避難によって命を守る。ハードとソフトの両面から対策を積み上げることが重要となる。

 だが、防災計画や都市インフラだけで災害に対応できるわけではない。発災時に重機を動かして道路を開き、泥土や流木を撤去するのは、地域の建設会社などである。道路や河川、上下水道、電力、通信を復旧するにも、それぞれの現場に必要な技術と機材を持つ民間事業者が欠かせない。行政の計画や防災協定は、現地で実際に動く者がいて、初めて機能する。

 その担い手となる建設・設備業界では、高齢化と人手不足が進んでいる。地場事業者が健全な経営を維持できず、人材や技術、資機材を失えば、地域の災害対応力も弱くなる。危険をともなう緊急対応を事業者の使命感だけに委ねるのではなく、その役割に見合った評価と支援が必要だ。平時から事業を継続できる環境を整えることも、防災対策の一部といえる。

 防災インフラへの投資と地場事業者との協力体制は、発災後の復旧を早め、被害と経済的損失を抑えるための備えでもある。行政による予防対策と、現場の担い手を維持する取り組みを切り離すことはできない。両者を一体として考えることが、福岡県の地域防災力を将来へつなぐうえでの課題となる。

(了)

【若松大生】

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