
(一社)全国建設室内工事業協会 福岡地区 副支部長
(株)岩下建装 代表取締役
岩下祐士 氏
軽量鉄骨(LGS)による鋼製下地工事を中心に、各種ボード工事やGL工法などの内装仕上工事を手がける(株)岩下建装。建物が完成すれば見えなくなる下地部分だからこそ、施工精度を徹底し、品質を支えてきた。同社代表取締役・岩下祐士氏は、(一社)全国建設室内工事業協会(以下、全室協)・福岡地区の副支部長を務めるほか、長年にわたり技能検定にも携わっている。職人不足が深刻化するなか、資格取得による技能の「見える化」や若手・外国人材の育成をどのように進めるのか。内装業界の現状と今後について聞いた。
見えない部分こそ施工品質を左右する
──まず、御社の事業について教えてください。
岩下 軽量鉄骨を使って天井や壁、間仕切りの下地をつくる鋼製下地工事を中心に、そのうえに石膏ボードなどを張るボード工事、GL工法などを手がけています。何もない建物の内部に下地をつくり、壁や天井をかたちにしていく仕事です。「軽」量鉄骨を使って「天」井や壁の骨組みをつくることから「軽天工事」とも呼ばれる軽鉄工事で施工する鋼製下地は、完成後には見えなくなりますが、その精度によって、その後の仕上がりが大きく変わります。だからこそ、見えなくなる部分ほど丁寧に施工することを大事にしています。
私は18歳で見習いとしてこの業界に入り、20歳で創業しました。これまで続けてこられたのも、多くの建設会社の方々に仕事を任せていただいたからです。
現在は社員や職人を合わせて約120人が在籍し、軽鉄、ボード、GLと、それぞれ専門性をもつ職人が現場を支えています。とくにGL工法は専門に施工する職人が少なくなっているため、その施工体制を維持していることは当社の強みの1つだと思っています。
資格で職人の技術を「見える化」する
──岩下社長は長年、内装仕上げ施工の技能検定にも携わっています。
岩下 検定補佐員の時代を含めると25年ほどになります。検定委員になってからも10年以上になりますし、現在は主席検定委員として運営に携わっています。技能検定に長く関わって感じるのは、職人の技術を客観的に評価する「物差し」が必要だということです。
資格をもっていなくても、本当に腕の良い職人はたくさんいます。ただ、「自分はできます」というだけでは、その人がどれくらいの技術をもっているのか、外部からはわかりません。1級技能士をもっていれば、「少なくともこの水準の技能がある」ということを客観的に示せます。
これからは、職人も資格が重要になると思っています。昔は「資格なんていらない。仕事ができればいい」という職人も多くいました。しかし、若い世代には、技術を身につけるだけでなく、それを資格というかたちでも残してほしいですね。
資格があれば、「自分にはこれだけの技術がある」と堂々といえる。それが評価や収入にもつながっていくことが大切です。
──1級技能士を取得する意味は、現場でも大きいのでしょうか。
岩下 大きいですね。建設キャリアアップシステム(CCUS)などによって、技能者の資格や経験を評価する仕組みも広がっています。
ゼネコンでも、優秀な職人を確保するため、技能や資格を評価して独自の優良技能者制度(マイスター)を設け、手当を支給したりする動きがあります。「次の現場にも来てほしい」と評価され、通常の給与とは別に手当が付くケースもあります。
職人にとっても、自分の技術を認めてもらい、さらに収入が増えれば、「もっと頑張ろう」という気持ちになります。資格取得が、技術向上と処遇改善の両方につながる仕組みが重要だと思います。
1級取得をキャリアの目標に
──内装仕上げ施工技能士には、1級と2級があります。
岩下 若い職人には、技術を身につけるだけではなく、資格取得にも挑戦してほしいですね。内装仕上げ施工には、鋼製下地工事作業やボード仕上げ工事作業などがあります。当社のような軽天業者であれば、両方の資格を持つ職人がいることは会社にとっても大きな強みになります。
以前は公共工事などで、工程ごとに有資格者の確認が必要になることもありました。鋼製下地とボードの両方の資格を1人がもっていれば、その人が一貫して対応できます。
ただし、1級を取得するのは簡単ではありません。実技を合格しても学科で苦戦する人もいますし、2回、3回と挑戦する人もいます。当社では受検料なども会社で支援し、社員に取得を勧めています。40代で入社してきた職人にも、「まだ20年働けるのだから、今からでも遅くない。取ろう」と話します。一度身につけた技能と資格は、その人自身の財産になりますから。
──その一方で、資格を取得していないベテラン職人も多いのでしょうか。
岩下 多いですね。昔は資格をもたなくても仕事ができればよいという考え方がありましたから。50代を超えると「今さら受けなくてもいい」と考える人も多いですね。
だからこそ、若いうちから資格取得を当たり前にしていく必要があります。経験を積み、2級、1級と上がっていく。その先には、登録基幹技能者やCCUSによる能力評価もある。職人にも明確なキャリアがあるということを示したいですね。
検定制度そのものも次世代へつなぐ
──検定を運営する側でも、世代交代を意識されているそうですね。
岩下 そうですね。私は主席検定委員を長く務めてきましたが、次の人に引き継ぐ準備を進めています。以前は年配の方がかなり高齢になるまで役割を担い、その方がいなくなってから、次の人が苦労するというケースもありました。それでは続きません。自分がまだ動けるうちに若い人へ渡し、一緒に経験してもらったほうが良い。
検定運営についても、できるだけマニュアルをつくっています。前年にうまくいかなかったことは反省し、次の年に改善する。誰か1人にしかわからない状態にしないことが重要です。これは会社経営でも同じです。ある人が休んだ途端に仕事が止まるようでは、組織になりません。誰かがいなくても次の人が対応できるよう、仕事や技術を引き継いでいく必要があります。
──協会では、受検者向けの研修も行っているのですか。
岩下 検定委員は受検者に直接指導できませんので、検定委員以外の全室協のメンバーが研修会を行っています。過去の問題などを使い、実際に施工しながらポイントを確認します。試験当日に初めて課題に向き合うのと、事前に練習しているのとでは違います。資格取得者を増やすためには、「受けなさい」というだけではなく、受けやすい環境を業界側でつくることも必要だと思います。
外国人も同じ「職人」として育てる
──外国人材の採用も進められています。
岩下 現在9人の外国人メンバーがおり、今後さらに4人が加わる予定です。当社では外国人ではなく、一緒に働く「メンバー」と呼んでいます。
これからの日本の建設業は、日本人だけでは人材を確保することが難しくなります。だからこそ、外国人を単に人手不足を補う存在として見るのではなく、日本人と同じように技術を身につけ、資格を取り、長く職人として活躍してもらうことが重要です。
実際に外国人メンバーのなかから、技能検定に挑戦する人も出てきています。1人が資格取得を目指す姿を見れば、ほかのメンバーも「自分もできる」と思える。それが次につながります。言葉や文化は違っても、同じ現場で同じ仕事をする以上、目指すところは同じです。日本人も外国人も技能を磨き、資格を取得し、自分の将来を描ける会社にしていきたいと思っています。
技術を次代へ 人が長く働ける会社に
──人材を定着させるために、大切にしていることは何でしょうか。
岩下 職人や社員を大切にし、長く安心して働きながら腕を磨いていける会社でありたいと考えています。そのためには、仕事だけでなく、家族との時間も大切にできる環境が必要です。社員には、子どもの学校行事などにも、できる限り参加してほしいと伝えています。仕事を長く続けていくためには、生活とのバランスも大切です。
当社には20代から70代まで幅広い世代がいます。若い職人には体力がありますし、ベテランには長年培った経験があります。それぞれの力を生かし、年齢を重ねても活躍できる環境をつくることも会社の役割だと思っています。
女性スタッフも総務や経理、積算だけでなく、現場会議やパトロール、自主検査などに携わっています。施工する職人とは違う視点から、安全や品質を見てもらうことも大切です。
もう1つ、当社で大事にしている言葉が「一仕事一片付け」です。1つの作業が終わったら、まず片付けてから次へ進む。当たり前のようですが、それが安全や効率、品質につながります。
これまで、手直しや施工上の不備が一度もなかったわけではありません。大事なのは、それをなかったことにせず、「なぜ起きたのか」「次はどう防ぐのか」を考え、次の仕事に生かすことです。
職人が誇りをもてる建設業界へ
──今後、内装業界をどのような業界にしていきたいですか。
岩下 建物は1社だけでは完成しません。躯体、電気、設備、内装、外構など、多くの専門業者がそれぞれの仕事をつないで完成させます。
我々の軽鉄やボード工事も、その1工程です。前の工程から仕事を受け取り、責任をもって施工して、次の工程へ渡す。自分たちの仕事だけを考えるのではなく、ほかの職種を尊重しながら仕事をすることが大切です。
そして、どれだけ建設技術が進歩しても、最後に建物をかたちにするのは人です。職人が技術を磨き、それが資格によって評価され、経験を積めばさらに上を目指せる。そして、その技能に見合った待遇を受け、「この仕事を続けてきて良かった」と思える。そういう業界にしていかなければ、若い人も入ってきません。
技能検定に携わってきた経験を次の世代へつなぎ、会社でも業界でも人を育てていく。それが結果として施工品質を高め、お客さまへの恩返しになると思っています。
長年仕事を任せていただいている建設会社の皆さん、そして忙しいときに互いに支え合ってきた同業者への感謝を忘れず、「また岩下建装と仕事をしたい」と思っていただける会社であり続けたいですね。福岡、そして九州の内装業界がこれからも持続していくよう、できることを1つずつ続けていきたいと思っています。
【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:岩下祐士
所在地:福岡市早良区田村4-15-48
設 立:1996年4月
資本金:1,000万円
URL:https://www.iwashita-kenso.com/
<プロフィール>
岩下祐士(いわした・ゆうじ)
1970年12月生まれ、福岡市出身。88年、18歳で内装仕上工事業界に入職し、90年4月に岩下内装を創業。96年4月に(有)岩下建装を設立し、代表取締役に就任。2002年7月に(株)岩下建装に組織変更。(一社)全国建設室内工事業協会・福岡地区理事を経て25年5月から副支部長に就任。福岡県技能検定の主席検定委員を約11年務める。主な受賞歴として、14年に福岡県優秀技能者表彰(福岡県版「現代の名工」)、17年に全国技能士連合会会長表彰、19年に技能検定関係功労者として表彰、23年に国土交通大臣「優秀施工者(マイスター)」を顕彰している。

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