見たことないマンション(前編)令和の大家族はつなげて暮らす

 部屋が手狭になってきた―お隣さん引越しだって?じゃあ隣の部屋も借りるか!玄関が2つあって面白いじゃない!?(家族の多い家ではこんな会話が本当にあった…)
 じゃあ、なかでつながっていたら?普通に便利なんじゃない。70m2と70m2。2つの部屋をつなげれば140m2になる。それなら、家族5人で住んでもちょうど良さそうだ。3つなら?…3戸つなげれば210m2だ。でも、家族5人で210m2はさすがに広すぎる。だったらおじいちゃん、おばあちゃんも呼んでみる?兄弟家族まで一緒に暮らせるかもしれない!
 …これ、家族で住んだらけっこう面白いかも…。

例)集合住宅既存フロア
例)集合住宅既存フロア

令和のマンション
三世代は住めるのか

 既存マンションの制度は、令和の大家族に対応できているだろうか?都市型マンションは歴史的に、核家族を前提につくられてきた。しかし、70m2では家族が離れてしまう。「大家族だったから問題がなかった」わけではないが(私も10代は祖母との同居を経験している)、大家族がもっていた機能まで失われていないだろうか。今は親と子だけではない。祖父母、兄弟、友人、地域、仕事仲間、それぞれが少し離れながら必要なときにつながる、近距離にそんなセーフティネットが必要だ。共働き、子育ての孤立、祖父母の孤独、単身高齢者の増加。社会課題の解決と同時に、もっと多様な暮らし方。

 令和の家族はそれぞれの家に分かれて暮らしているが、昭和の大家族は1つ屋根の下に集まっていた。一緒に食事をする、子どもの面倒を見る、孫の顔を見る、困ったときは助け合う。でも、1人になりたいときは少し距離をとれる。そんな近過ぎず遠過ぎない多様な暮らしがあり、家族が支え合えるようなホームグラウンドが、令和のマンションでつくれないだろうか。

令和のマンションに三世代は住めるか 筆者作成
令和のマンションに三世代は住めるか 筆者作成

 というわけで今回のテーマは、「大家族へ捧げる間取り」提案。核家族化のためにつくられてきた都市型マンションを、もう一度「大家族仕様」に戻せないだろうか。不寛容が蔓延る現代、付き合い方が難しくなっている村社会のなかで、人間関係に根差した安らぎを取り戻すために、もう一度“集まって暮らす”ことをデザインできないか、そんな考察をしてみたい。

見守られる場所
<孫の目線>

 子どもにとって、「心理的安全性」の高い場が必要だ。激しい競争社会から身を寄せる安全なホームがあれば、理不尽な状況や否定的な経験にも耐えられるようになる。社会に出たとき、そのような害悪をすべて排除することはできない。しかし、だからこそ子ども自身が自分を守れるように、親はいざというときには安心して帰ることのできる「心理的安全性」の高いホームをつくってやる必要がある。それが子どもを「内向き」にさせないために、親にできることだろう。

 子どもの心の健全な発達にとって、「生物学的な親と過ごす時間の長さ」はそれほど重要ではないという研究がある。心理的安全を感じられる大人が“1人でも”そばにいれば、自尊心やウェルビーイングに好影響をもたらすということ。つまり、近所のおじさんや学校の先生、習いごとの指導者など、信頼できる大人がそばにいれば、それも有効なのだ。そしてそれは、当然おじいちゃん/おばあちゃんでもいいはずだ。祖父母の存在は、共働き世帯で孤立しがちな子どもの感傷を和らげてくれる(詳しくは本誌83号/2025年4月末発刊_「自律を獲り、自立できるか(前)~親が子にやれること~」を参照)。

月刊まちづくりvol.83 自律を獲り、自立できるか(前) ~親が子にやれること~
月刊まちづくりvol.83
自律を獲り、自立できるか(前)
~親が子にやれること~

    10歳から14歳を対象にした「子ども調査」によると、子どもがリビングで過ごす時間がずいぶん長くなっている。「家のなかで一番多くいる場所」として「自分の部屋」と答えた子どもの割合は、1997年には32.3%だったが、17年には11.5%にまで減少。一方で、「リビング」と答えた割合は、56.4%→83.6%に増えている(参考文献:『Z家族_博報堂生活総合研究所』より引用)。この背景には、「子どもはリビングで勉強させたほうが、教育効果が高い」という考え方(いわゆるリビング学習)が広がり、学校から帰ってきた子どもがリビングで過ごすことが習慣になっている傾向がある。また、「自分専用の子ども部屋がない」と答える子どもの割合も増加傾向だ。

参考文献:『Z家族 博報堂生活総合研究所』
参考文献:『Z家族 博報堂生活総合研究所』

    「常に同じスペースにいて息が詰まらないか」「そんなに家族で話すことがあるのか」といった声が聞かれるかもしれないが、昨今のスマートフォンやタブレットといったパーソナルなメディアの普及によって、「家族の過ごし方」も変化している。リビングに家族で集っても、1人でポッドキャストを聴いたり、ゲームをしたり、動画や音楽を楽しんだりできるようになった。同じ空間にいても、それぞれ別のことをする。リビングに集うといっても、膝を突き合わせておしゃべりし続けるわけではなく、各々好きなことをしているからこそ、気疲れもしない。デジタル社会振興のなか、新しいデバイスの登場で物理的に家族と一緒にいながらも、心理的には「1人の世界」に入ることが常態化している。これまでにはなかったライフスタイルの出現が、新しい家族の暮らし方を良くも悪くも後押ししてくれそうだ。

祖父母を都市に呼び戻す
<祖父母の目線>

 依然、割高ではあるが、高齢者にとって郊外の暮らしは、今後も成立の余地がある。一方、“子育てインフラの偏在”は若い世帯を都心へ引き寄せている。何も手を打たなければ、郊外は高齢世帯が残って若い世帯が去り、都市中心部は子育て世帯が家賃の高さに耐えながら密集する場所になるだろう。物価の高騰に住宅価格の上昇、都心で暮らすコストが上昇し続けているが、家賃が高いのに決して広いとはいえないマンションの一室を競って、奪い合う…その一方では、郊外の空き家が静かに積み上がっていく。家賃は都心の半分、広い家が借り手も買い手もないまま余っている。

 国の高齢社会白書では、80年は65歳以上の人がいる世帯では三世代世帯が最も多かった一方、23年は夫婦のみ世帯と単独世帯がそれぞれ約3割を占めるようになった。高齢者の一人暮らしは確実に増加しているが、彼らが地方で一人暮らしを続ける一方、都市部の子育て世帯は、祖父母の助けを必要としている。だったら、一緒に住んだらどうなの?もちろん「地方の高齢者を都市へ移せばすべて解決」という単純な話ではないが、「住みたい人が家族の近くへ移る」という選択肢を、住宅制度や都市政策がもっと後押しできないだろうか。まちによっては、維持・継続していく基礎体力も脆弱になっている。地方の祖父母を都市に呼んで、一緒のマンションで暮らす。子どもの近くに祖父母がいて、医療や買い物、公共交通へのアクセスも良くなっていく…(詳しくは本誌93号/26年2月末発刊_『都市へ向かう高齢者たち』を参照)。

祖父母を都市に呼び戻す unsplash
祖父母を都市に呼び戻す unsplash

    昭和時代は窮屈さがあったし、プライバシーもなかった。「家族だから一緒に住む」ということが、ときには誰かを苦しめた。だから令和の大家族は、単純に昭和の復活という話にはできない。ただ一緒にいたい人が、一緒に住む。1人になりたいときは、1人になれる。それでも、扉の向こうには誰かがいる。70m2のマンションを、2つ、3つつなげることで、偏在する子育てインフラの距離を縮めることはできる。内包的な関係、適度な距離感がそこに、見たことのない暮らしを生んでくれるかもしれない。既存建築の構造解析、用途変更や法規など、さまざまな障壁があるが、ストック社会の運用を見据えて、建物を長く使い続ける循環に向けて力を合わせられないだろうか。リノベーションの知見と建設技術の融合でそれらが成し遂げられることを願い、アンビルドな提案をしてみる。これから大家族で住むときの気づきにしてほしい。

つながる家
(仮称)LINKSマンション

・70m2 × 1戸→核家族向け
・70m2 × 2戸 = 140m2→親世帯+子世帯+子ども
・70m2 × 3戸 = 210m2→三世代+複数の子ども+共用空間

つながる家 仮)LINKSマンション 筆者作成

①ココを貫通する!
②ココを貫通する!
③家族の広場
④みんなで食べる場
⑤個別に話す、宿題するセカンドリビング
⑥子ども部屋
⑦子ども部屋
⑧家族みんなのクローゼット
⑨身だしなみを整える洗面エリア
⑩ランドリールーム、ストックエリア
⑪畳空間でちょっと1人になる
⑫書籍や雑誌の棚
⑬祖父の籠り場
⑭祖母の趣味の部屋
⑮子ども部屋。集中したいときの個室。使わないときは親が仕事をする
⑯両親の部屋
⑰奥さまの身だしなみを整えるドレスエリア
⑱バルコニーももちろん3つ使い

妻は近場ファースト
<親の目線>

 子どもの学校、買い物は商店街へ、歯医者、小児科、内科や鍼灸院も歩いて行けるところにそろっていて、心強い医師たちが家族の健康を近くで見守ってくれている。大きなショッピングモールにも歩いて行ける(荷物が多くなるときは車で行ったりするが)ので、徒歩圏内で買い物をし、多くのサービスを受けることができるのが、今の自宅のお気に入りポイントだ。妻は生粋の“近場ファースト”で、我が家の生活は決してマンションの部屋一戸では完結しない──。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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