米中首脳会談で明らかになったお土産合戦 “パンダvs白頭鷲”で勝利したのは中国か?(後)

国際未来科学研究所
代表 浜田和幸 氏

 中国政府は長年、中国にのみ生息するパンダを他国に贈与または貸与することで、国際関係を強化し自国の世界的イメージを高めてきました。この戦略により、過去50年の間に30頭以上のパンダが日本へ送られる、あるいは日本で誕生してきた歴史があります。中国のパンダ外交は7世紀にまで遡ることができるともいわれ、則天武后が友好の印として2頭のパンダを日本に贈ったことが始まりとの説もあります。

日本で際立つ
パンダ人気と再貸与の壁

 現代中国のパンダ外交は1957年にソ連へ「平平」を贈ったことから始まり、72年には米国や日本への贈呈で広く知られるようになりました。

 2019年のパンダ外交の最盛期には、中国、マカオ、香港以外の21の国・地域でパンダは飼育されていたものです。具体的には、韓国、インドネシア、マレーシア、シンガポール、カタール、ロシア、台湾、ドイツ、スペイン、オーストリア、デンマーク、ベルギー、メキシコ、オーストラリア、タイ、フィンランド、カナダ、日本、オランダ、米国、英国ですが、現在、その数は16カ国に減少。

 そんななか、日本でのパンダ人気はほかの国々を圧倒するものでした。返還が発表された後の1カ月間に、2頭のパンダを一目見ようと上野動物園には20万人近くが殺到しました。「人寄せパンダ」と呼ばれるほどですが、それほどの人気を得ていたため、日本政府もあらゆるルートを駆使して、パンダの帰国延期と早期の再来日を画策しましたが、糠に釘でした。
 その背景には、日中関係の悪化があることは否めず、中国では「国宝であるパンダを中国を敵視するような国に送ることは許せない」といったネット上の過激な反応が見られたものです。習近平国家主席も自国民の反発を「勿怪の幸い」とばかり、これまでの「対日パンダ外交」にオサラバを決めたのかもしれません。

 現在の政治情勢から判断すると、日本への新たなパンダ貸与の見通しは極めて不透明で、当面は厳しい状況です。25年6月に和歌山県のアドベンチャーワールドの4頭が、26年1月に上野動物園のシャオシャオとレイレイが返還されたことで、日本国内のパンダ飼育数は1972年の日中国交正常化以来、約54年ぶりに「完全にゼロ」となりました。

 日本側では、動物園や地元の政界・自治体が新しいパンダの貸与(リース)を強く希望しています。たとえば、上野動物園ですが、東京都はこれまで「友好のシンボル」として新しい個体の貸与について中国側と継続的に協議したい意向を示してきました。

パンダ外交をめぐる
中国世論と財政負担

 中国の「パンダ外交」は、相手国との外交関係のバロメーターに他なりません。昨今の台湾有事をめぐる日本の政治家の発言や、安全保障、経済安全保障における日中の緊張の高まりが大きく影を落としています。関係筋や現地報道からは、現状では中国当局が日本への新規貸与にゴーサインを出すのは「ほぼ不可能」という厳しい声が挙がっているのです。

 さらに懸念されているのが、中国国内の世論の変化です。近年、中国国内のSNSでは「海外に貸与したパンダの健康や福祉が守られているか」を厳しく監視する目が強まっています。そのため、中国政府(国家林業・草原局など)も海外への新規貸与に対し、これまで以上に慎重な審査を行うようになってきました。

 多額のレンタル料も財政的負担としてのしかかっています。契約にもよりますが、パンダの貸与には繁殖研究費(名目上のレンタル料)として1頭あたり年間約50万ドル~100万ドル(約7,500万円~1億6,000万円)が中国側に支払われます。これに加えて、毎日大量に消費する新鮮な竹の調達費や、専用の飼育施設維持費、獣医療費などがかかるため、自治体や動物園側にとっても経済的負担が非常に大きいという現実があります。

 要は、日中両国間で首脳会談などが開かれ、外交関係の大幅な改善や「劇的な緊張緩和」が目に見えるかたちで示されない限り、新たなパンダが日本に来る可能性は低いとみられています。

贈答品か、レンタルか
パンダ外交のビジネス面

 いうまでもなく、中国のパンダはアメリカに限らず、世界各地で人気を博しています。今回新たに2頭が貸与されたことで、アメリカにはすでにワシントンとサンディエゴの動物園に4頭がいるため、計6頭のパンダがいることになりました。

 いずれにせよ、トランプ大統領と習近平国家主席による白頭鷲とパンダという「お土産合戦」はビジネス上ではパンダが圧勝したことは間違いありません。なぜなら、2頭のパンダの貸与期間は10年間ですが、その間、つがいの2頭の賃料は年間100万ドル、すなわち年間1億6,000万円の賃料をもたらしてくれるのです。

 公式には「野生ジャイアントパンダ保護への協力金」という名目ですが、通例として世界の動物園は高額の賃料を中国側に支払う契約となっています。日本に貸与されていたパンダにも当てはまりましたが、これは「プレゼント(贈与)」ではなく、ワシントン条約に基づく「所有権が中国に残った状態でのレンタル」なのです。

 しかも、子どもが産まれた場合には年間数十万ドルの追加レンタル料が請求され、時を経ずして中国へ移送されることが契約上明示されています。そのうえ、もしパンダが死亡した場合には、たとえそれが動物園の過失によるものでなくとも、50万ドル程度の補償金を中国に支払うのが通例です。それやこれやで、パンダ外交の主役は世界から多額の賃貸料をもたらしてくれるビジネスアニマルでもあります。

 パンダは「米中休戦」の象徴との見方もできますが、実際は強かな中国式ビジネスの典型ともいえそうです。

(了)


浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。

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