成長と変革を続けるベトナム──日越関係の新たな展開と、トー・ラム書記長兼国家主席の訪日に寄せて
山河保安
在九州ベトナム企業貿易投資促進協会会長
経済・科学技術・人的交流の深化。
包括的戦略的パートナーシップの更なる高みへ
ホーチミン市メトロ1号線
ベトナムは現在、堅調な経済成長を維持するとともに、科学技術、イノベーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)を新たな成長の原動力として、経済・社会構造の高度化を強力に推進している。
これに伴い、日越両国の協力関係も従来の貿易・投資を中心とした枠組みから、エネルギー、重要鉱物、半導体、人工知能(AI)、宇宙開発、脱炭素(GX)、人材育成といった幅広い先端分野へと拡大している。
こうした動きは、日越間の「包括的戦略的パートナーシップ」が単なる規模の拡大にとどまらず、質的な進化を伴う新たな段階へと移行していることを物語っている。
堅調な成長を続けるベトナム経済
日本貿易振興機構(JETRO)等のデータによると、2025年のベトナムの実質GDP成長率は8.0%に達し、2024年の7.0%から一段と加速した。製造業をはじめとする鉱工業・建設業およびサービス業が牽引役となり、貿易も高い水準を維持している。
26年上半期の実質GDP成長率も前年同期比8.18%と高い伸びを記録。分野別では鉱工業・建設業が9.81%増、サービス業が8.09%増となった。輸出額は約2,665億ドル(前年同期比21.0%増)、外国直接投資(FDI)の実行額は130億3,000万ドルに達し、上半期としては過去5年間で最高水準を更新した。
さらに世界銀行は26年7月、ベトナムを「高中所得国」へと再分類した。世銀はこの移行について、1986年のドイモイ政策開始以来、約40年間にわたる目覚ましい発展の重要な歩み(マイルストーン)であると評価している。
これらの数字は、ベトナムが長年にわたり築き上げてきた強固な経済基盤を物語っている。同時に、今後は生産性の向上や産業の高度化を通じた成長の「質的転換」が最重要課題となっている。
科学技術・DXを軸とした
「質的成長」への転換
近年のベトナムの発展において特筆すべきは、科学技術、イノベーション、そしてDXの推進である。
2026年7月1日、トー・ラム共産党書記長兼国家主席の主宰のもと、科学技術・イノベーション・国家デジタルトランスフォーメーションに関する全国会議が厳かに開催された。
同会議では、これらの分野を生産性・競争力の強化および発展モデル転換の「最重要の原動力」と位置付け、AI、ビッグデータ、ロボット工学、半導体、サイバーセキュリティ、量子技術などを戦略的中核技術として集中育成する方針が明確に示された。
これは、高度な技術基盤を有する日本にとっても、ベトナムとの新たな共創(Co-creation)を模索する上で極めて有望な協力領域となる。
500億ドル規模に達した
二国間経済基盤
日本等との間の貿易・投資を促進
日越の経済協力も着実に強固なものとなっている。
JETROの統計によると、25年の日本からベトナムへの輸出額は約188.6億ドル、ベトナムからの輸入額は約303.9億ドルとなり、二国間貿易総額は500億ドル規模に達した。日本企業によるベトナムへの直接投資(FDI)も、25年は認可ベースで429件、約30.8億ドルを記録している。
従来の製造業や貿易にとどまらず、エネルギー、重要鉱物サプライチェーン、AI、半導体、宇宙産業、グリーン分野へと協力の裾野が飛躍的に拡大している。
この変化は、日越経済関係が量的な拡大から、より高度で多角的な「質的深化」の時代へと変貌しつつあることを証明している。
26年、首脳外交が牽引する
二国間関係の加速
26年は首脳レベルにおける緊密な対話が継続している。
4月13日、高市早苗首相はトー・ラム書記長兼国家主席と電話会談を行い、両首脳は日越の「包括的戦略的パートナーシップ」を一段と深化させることで一致。地域情勢やエネルギー安全保障についても有意義な意見交換を行った。
続いて5月2日、高市首相のベトナム訪問時には、ハノイにて首脳会談が開催された。エネルギー、重要鉱物、AI、半導体、宇宙開発を含む新世代の協力分野について深く協議し、経済・安全保障・文化・人的交流の全般にわたり関係を一層強化することを確認した。
トー・ラムベトナム書記長兼国家主席と会見
さらに、高市首相はトー・ラム書記長兼国家主席に対し、26年内の公式訪日を要請。両首脳は時期の調整を進めることで合意している。
一連の首脳外交を踏まえ、年内に予定されるトー・ラム書記長兼国家主席の訪日は、日越関係を新たな高みへと推進する歴史的なマイルストーンとなることが期待される。
中央から地方・地域社会へと
浸透する多層的な絆
現在の日越関係の特徴は、中央政府間の外交にとどまらず、企業、自治体、大学、そして地域社会へと交流の裾野が草の根的に広がっている点にある。
特に九州地域においては、九州経済連合会がハノイに「九州プロモーションセンター(KPC)」を設置。九州の地方自治体や企業とベトナムとの貿易・投資・観光・人材交流を結ぶハブ(拠点)として極めて重要な役割を果たしている。
また、福岡県とハノイ市は08年の友好提携締結以来、教育・経済分野等で緊密な交流を重ねてきた。福岡県の統計によると、24年末時点の県内在留ベトナム人は2万3,116人に達し、地域社会の発展に欠かせない存在となっている。
これらの実績は、日越関係が両国の地方文脈(地域社会)にも確かに根付いていることを象徴している。
68万人を超える
在日ベトナム人社会と「共生」の未来
出入国在留管理庁(ISA)の公表によると、25年末時点の在留ベトナム人数は68万1,100人に達し、国籍・地域別で中国に次ぐ第2位の規模を誇る。
日本各地でベトナム人が学び、働き、地域の一員として生活する一方で、日本企業や大学、自治体との多層的な協働網が築かれつつある。
共創のパートナーとして
「次のステージ」へ
ベトナムは今後、高い経済成長を維持しつつ、科学技術・デジタル・半導体・グリーントランスフォーメーション(GX)による産業の高度化を一層推進する。
日本が誇る高度な技術力、資本力、人材育成ノウハウ。対するベトナムの躍動する市場、豊富な若い労働力、グローバルな経済ネットワーク。両国は互いの強みを補い合う絶妙な「相互補完性」を有している。
トー・ラム書記長兼国家主席の訪日は、これまでの50年余りにわたり築き上げてきた相互信頼を礎に、日越の「包括的戦略的パートナーシップ」をより実務的で有形な協力へと昇華させる重大な契機となるであろう。









