福岡で国際レベルの基礎研究を行い、世界に通ずる最先端医療に迫る

九州大学医学研究院 病態修復内科（第１内科）教授　赤司　浩一

ヒト急性骨髄性白血病の癌幹細胞を発見

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九州大学医学研究院 病態修復内科（第１内科）
赤司 浩一 教授

　九州大学医学部第１内科は、開講105年の歴史を持つ総合内科学教室だ。これまで約1,700名の教室員が在籍し、幅広い専門分野において数多くの教授を輩出してきた。九州大学医学研究院 病態修復内科（第１内科）教授の赤司浩一氏もその１人だ。スタンフォード大学、ハーバード大学でも研究を重ね、帰国しては正常造血器に発生する癌幹細胞、細胞表面分子TIM-３の存在を突き止めたことで知られる。

　赤司教授を代表とした研究領域「癌幹細胞を標的とする腫瘍根絶技術の新構築」。この志をともにする医師らとの領域研究で、赤司教授は「ヒト癌幹細胞の同定と生体内機能解析システムの構築」という研究成果を発表している。ヒト急性骨髄性白血病幹細胞に高い頻度で発現する特異なたんぱく質、細胞表面分子TIM-３の存在を突き止めた、という内容だ。そしてこれに対抗するTIM-３抗体をつくり、白血病幹細胞を根絶する技術を開発した。さらに、成熟Ｂ細胞性腫瘍であるヒト慢性リンパ性白血病において、造血幹細胞が腫瘍化の最初の標的となっていることを、世界に先駆けて明らかにした。

　癌幹細胞とは、わかりやすく言えば、がんという樹木の幹にあたり、これが消えない限り、いくらほかのがん細胞を処置しても再発を防げないという。癌幹細胞の発見は「化学治療で一度消滅したはずのがんが再発するメカニズムの解明」に一石を投じた。今までの臨床現場は、がんの謎に戸惑いながらの治療が行われてきた。そこに何を克服すべきか、具体的な対象が確定されたというのは光明だ。

日本に求める基礎研究医学への理解

　ただ、癌幹細胞の本質が明らかになったとしても、すべてのがんが完治するという保証はない。目指す目標は根治とすべきだろうが、何事においても完全という言葉はあり得ない。大切なのは、余命が伸びることにある。たとえば余命３カ月と言われば絶望するが、10年あると言われれば、その間、いかに過ごすかを大切に考えるだろう。「今後は、癌幹細胞に訊くかどうかによってスクリーニングを行う必要があります。根源に効くようなものを目指さなくてはなりませんね。10年後には、癌幹細胞がどのようなものであるか、より明確となり、完治に近い状態になる可能性はあるでしょう」と赤司教授。いずれは死に直面して恐怖に脅かされる患者を随分と減っていくのではないか。そうやって人々の生活の質を高めていくことを支えていくことも、医療の役目であろう。

　医学には、基礎研究と応用開発という２つの側面がある。基礎研究とは、未来の医学の基礎のための研究である。赤司教授が携わる癌幹細胞のような最先端医療の研究は、基礎研究にあたる。それに対して応用開発医学は、地域医療に求められるような、今、目の前で苦しむ人々のために、できる限りの医療サービスを施すためのものだ。

　日本においては、基礎研究医に対しても臨床医としての役割を期待する傾向がある。研究医が多い大学病院に患者が集中するのも、その一例だろう。世界の医療を見てきた赤司教授も日本の基礎研究医学の在り方には違和感を覚えている。応用へ直結する成果を性急に求められるからだ。「研究は、予期せぬところで偶然に発見される、ということを理解してほしいものです」という。それは世界の基礎研究の共通のスタンスでもあるという。

　それでも赤司教授は「日本の医療制度は素晴らしい」という。国民皆保険制度によって守られていることがどれだけありがたいかは、他国から日本を見ればよくわかる。その日本、福岡から赤司教授は、世界から求められるがんの根治につながる最先端医療の研究・発見を続ける。そこから新たな基礎研究医学の道が開けていく可能性もある。

※記事内容は2015年８月31日時点のもの

＜INFORMATION＞
九州大学医学部
学部長：住本　英樹
所在地：福岡市東区馬出3-1-1
創　立：1903年（京都帝国大学福岡医科大学として）
ＴＥＬ：092-641-1151
ＵＲＬ：http://www.med.kyushu-u.ac.jp/

＜プロフィール＞
赤司　浩一（あかし　こういち）
1985年、九州大学医学部卒業。2004年、ハーバード大学準教授、同年九州大学病院遺伝子細胞療法部教授、08年、九州大学大学院病態修復内科学教授。日本血液学会および一般社団法人日本血液学会理事長。