2024年12月29日( 日 )

米国による米国企業のための日本国家戦略特区!(5)

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立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏

国家戦略特区は安倍政権の“言い訳”や“露払い”に

 ――前回、韓国は「経済自由区域」⇒「米韓FTA」で大変なことになっていることがよく分かりました。しかし、日本も対岸の火事どころか、「国家戦略特区」⇒「TPP」で同じ道を歩きそうです。

 郭 医療問題や教育問題はもちろん、韓国で今起きている、起きつつある問題のほとんどすべてが今後日本で起こる可能性があります。米国高官の「TPPは米韓FTAの貿易自由化のレベルをもっと強めたもの」という発言がそれを裏づけています。さらに、現在の安倍政権は、「対日年次改革要望書」に沿って、あらゆる分野で、自ら進んで規制緩和を推進しようとしている点も気になります。

 国家戦略特区は、TPP導入を控えた、安倍政権が米国多国籍企業誘致のために用意した“エクスキューズ(言い訳)”や“露払い”に過ぎません。規制緩和というのは、正しくは経済成長を呼び込むための「手段」であるべきものです。しかし、安倍政権の規制緩和は「目的」化しており、そのために国家戦略特区を利用しているに過ぎません。これは全くの主客転倒で誤った使い方です。

経済大国日本は世界のSEZに出ていく国である

立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏<

立教大学経済学部教授 郭 洋春 氏

 先に申し上げましたように、日本は米国、中国に次ぐ、世界第3位のGDPを誇る経済大国です。途上国でのみ真価を発揮する開発手段であるSEZ=「国家戦略特区」を使い、外資を誘致する必要はありません。しかも、使っても外資を誘致できる可能性はほとんどなく、経済的効果も期待できません。そればかりか、「国家戦略特区」においての優遇措置は外資系企業や外国人労働者に向けたものばかりで、日本国民にとっては、人権侵害といってもいい規制緩和が進行する可能性があります。

 何よりも日本は外資を誘致する国ではなく、世界の3,500以上あるSEZに出ていく国なのです。中国の大連やフィリピンのセブ島など、世界の多くのSEZには日本企業専用の工業団地があります。近年では、ミャンマー初となるSEZで部分開業したティラワ工業団地には、すでに47社の外資系企業が進出しています。そして、その半分以上は日本企業です。このように、外資が賃金レベルの低い、開発途上国へ向かうのは、いわば自然の流れなのです。

安倍総理が独自に選んだ9名の民間人で構成されたWG

 ――時間になってしまいました。最後に1つだけ質問させて下さい。先生の本を拝読して私が一番驚いたのは、これほど重要な「国家戦略特区」構想が、安倍総理が独自に選んだ民間人だけで決められていたという事実です。

 郭 その点は、私もさまざまな資料を調べ、驚愕したというか、唖然としました。
小泉政権下の「構造改革特区」と比較してみればその違いは歴然としています。構造改革特区では、その推進本部に、内閣総理大臣、内閣官房長官、構造改革特区担当大臣、経済財政政策担当大臣、規制改革担当大臣、ほか全ての閣僚、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官兼内閣府副大臣を入れることを規定していました。国家プロジェクトを推進するに値する陣容が整っていたわけです。

 一方、安倍政権の「国家戦略特別区域諮問会議」で、制度設計などの検討を行う中核となるワーキンググループ(WG)の委員はと言うと、安倍総理が独自に選んだ9名の民間人(注3)だけで構成されています。この国民から選ばれたわけでもないワーキンググループが中心となり、例えば、労働法制の改正を伴う規制緩和メニューを検討するのに、厚生労働大臣の参加もないような形で、プロジェクトが進められます。そして、そこで決まった案件は、そのまま、国家戦略特別区域諮問会議で承認され、トップダウンで推し進められるのです。とても民主的な運営とは呼ぶことのできないものです。

ロバート・フェルドマンが一人で42件の提案を

 そして、このワーキンググループが行った、有識者からの「集中ヒアリング」の詳細を見てさらにびっくりしました。第1の驚きは、このヒアリングは合計134件の規制・制度改革についての提案が対象なっていますが、そのうち約三分一に相当する42件(ほかの者と内容が重複する提案も含む)が、“一人の人物”、モルガン・スタンレーMUF証券のチーフ・エコノミストである、ロバート・フェルドマンから上がっていたという事実です。フェルドマンは日本の医療制度改革に対して、「国民の基本負担を6割、喫煙者は7割に引き上げることや、日本の診療報酬を米国と統一した疾病分類によって決定するなど、日本の医療制度を米国式に変えてゆくこと」(『沈みゆく大国アメリカ』堤 未果 著、集英社新書)を提言している人物です。

提案を吟味・審査する立場の委員が自ら提案を

 第2の驚きは、ワーキンググループの委員である、阿曽沼元博、八代尚宏、本間正義の3名が自ら、規制・制度改革についての提案を行っていた事実です。
 提案を吟味・審査する立場であるワーキンググループの委員が自ら提案を行って、果たして公正な審査が行われるのでしょうか。明確に、非民主主義的な意思決定と言えると思います。

 ――本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(了)
【金木 亮憲】

(注3)「国家戦略特別区域諮問会議」ワーキンググループ(WG)の委員(2015年現在)
秋山咲恵(株式会社サキコーポレーション代表取締役)、阿曽沼元博(医療法人社団子滉志会瀬田クリニックグループ代表)、工藤和美(シーラカンスK&H株式会社代表取締役、東洋大学理工学部建築学科教授)、坂村健(東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)、鈴木亘(学習院大学経済学部経済学科教授)、八田達夫(アジア成長研究所所長、大阪大学社会経済研究所招聘教授)、原英史(株式会社政策工房代表取締役社長)、本間正義(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)、八代尚宏(国際基督教大学教養学部客員教授、昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授)

<プロフィール>
kaku_pr郭 洋春(カク・ヤンチュン)
1959年7月生まれ、立教大学経済学部教授。専門は、開発経済学、アジア経済論、平和経済学。著書として、『韓国経済の実相─IMF支配と新世界経済秩序』(柘植書房新社)
『アジア経済論』(中央経済社)、『現代アジア経済論』(法律文化社)、『開発経済学―平和のための経済学』(法律文化社)、『TPPすぐそこに迫る亡国の罠』(三交社)、『国家戦略特区の正体』(集英社新書)。共著として『環境平和学』(法律文化社)、『グローバリゼ―ションと東アジア資本主義』(日本経済評論社)、『中国市場と日中台ビジネスアライアンス』(文眞堂)、その他多数。

 
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