高浜原発差し止め決定の2つの衝撃、渦巻く歓迎と憎悪(後)
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「炉心損傷防止する手段は、現状、ない」
司法が2014年以降、3回に渡って、原発の運転を差し止める判断を出したのは、福島第一原発事故が起きたという現実抜きには考えることはできない。
大津地裁の決定は、福島事故の原因究明は「今なお道半ばの状況」として、「その災禍の甚大さに真摯に向き合い、2度と同様の事故発生を防ぐとの安全確保対策を講ずるには、原因究明を徹底的に行うことが不可欠」と指摘し、関電の主張や証拠提出が不十分な状態であるにもかかわらず、この点に注意を払わないのであれば、新規制基準策定に向かう姿勢に「非常に不安を覚える」と表明した。
また、避難計画について、過酷事故を経た現時点においては、避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準を策定すべき「信義則上の義務が国家に発生しているといってもよいのではないだろうか」と提言している。新規制基準についての司法からのこれらの“注文”は、福島原発事故という現実を踏まえた判断だと言える。最高裁判決前には、過酷事故は起きていず、安全審査の目的は、万が一にも原子力災害を起こさないようにすること(伊方原発訴訟最高裁判決)にあった。
しかし、新規制基準は、一次冷却材喪失(LOCA)と全交流電源喪失(SBO)が同時に起こり得ることを想定している。
福島で起きたことが、まさにSBO(ステーション・ブラック・アウト)だった。吉田所長(当時)が「本当に死んだと思った」という事態が再現される。SBOとLOCAが同時に起これば、炉心損傷を防止する手段はないことは、適合性審査で電力会社が説明している。
「全交流電源喪失という条件のもとでは、この状態で炉心損傷を防止するためにとれる手段というのは、現状、ないというふうに考えております」(九州電力の適合性審査会での回答)。
格納容器破損の防止策は、溶融炉心が格納容器内に落下する前に格納容器の底に水を張るというものだ。電力会社は水蒸気爆発や水素爆発は起きないことを確認済みだとしているが、新たな「安全神話」のようなものだ。前回見たように中西正之氏をはじめ技術者が対策に不備があると批判している。現実と国民の健全な常識
電力会社や政府が安全だと言おうと、福島の事故が起きたことを消し去ることはできない。福島原発事故のようにSBOに陥る津波を想定できなかったという言い訳は、事実と違うが、大津地裁決定も言うように、仮に想定できなかったとしたら、新基準でも想定できない見落としがないと言い切れないではないか、見落としがあるという前提に立って規制基準をつくるべきだという姿勢は、極めて常識的だ。
「朝起きて雪が積もっていれば、夜中に雪が降ったと思う。誰かが雪をまいた可能性もあるが、合理的ではない。健全な常識で考えてください」。これは、刑事裁判で直接証拠がなく状況証拠に依拠した場合の検察側が裁判員に呼びかけた言葉である。民事裁判(仮処分)は、推定無罪の刑事裁判とは違うが、健全な常識というのは、客観的合理性や社会的相当性を判断する上で重要な要素だ。
人格権と、原発という手法で発電するという一民間企業の経済的利益の衝突に対し、大津地裁は、健全な常識に立って判断したと、九州で脱原発に取り組んできた市民は歓迎している。
「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」の石丸初美代表は、「原発を止める裁判所の決定が特異と言うのが間違っている。ごくごく普通のまっとうな考えだ。いまだに原発事故のため帰還できず、避難している。津波被害で帰れないのではない。放射能があるからだ」と語る。福島原発事故は、2011年3月から5年経っても事故は収束せず、約10万人が帰還することができず避難を余儀なくされ被害が継続・蓄積されている。放射能に汚染された廃棄物を詰めたフレコンバッグと放射能汚染水は増加を続けている。
現実と国民の健全な常識を踏まえた判断が求められている。(了)
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