佐賀は全線フル規格の夢を見るか?~九州新幹線長崎ルート6者合意を読む(3)
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全線フル規格化の障壁
国やJR九州、長崎県がなぜここまで佐賀県に譲歩するのか。それは彼らの狙いが全線フル規格化にあるからだ。ある関係者は「佐賀県にフル規格の線路を敷設しないと西九州ルートは意味がない」と吐き捨てた。実際、全線をフル規格にすると博多―長崎間の所要時間は40分程度とみられている。リレー方式は1時間20分なので約半分だ。しかもFGTが導入されたところで、山陽本線に乗り入れすることはできない。結局、博多駅で乗り換えることになる。
「特急『かもめ』から新幹線に乗り換えると、在来線ホームから一度改札を出て新幹線ホームまで移動しなければならないが、その所要時間はおおよそ17分。FGTは対面乗り換えになるので3分で済む」。これは国やJR九州が提示した数字ではなく、長崎県職員が実際に歩いて測った時間だという。県民に納得してもらおうと、実に涙ぐましい努力を重ねていた。もちろん全線フル規格になれば長崎から新大阪まで直通でつながる。鹿児島ルートが全線開通し新大阪間の乗客が増えたというニュースを、長崎県の関係者らはうらやましそうに聞いていた。
佐賀県が全線フル規格化を望まないのは費用負担が重すぎるためだ。武雄温泉―長崎の工事にかかる佐賀県の実質負担額は約225億円。全線フル規格になれば、これが一気に4倍近い800億円以上に膨らむとみられている。もし経済効果が大きければ、佐賀県もこの負担額を飲むだろう。しかし、現在においても”通過県”と陰口を叩かれており、新幹線が開業すれば福岡県に人口が吸い取られるストロー現象への危機感も強い。長崎県でも07年に着工認可が下りた当時は経済界からストロー現象を懸念する声が多く上がった。しかし人口流出よりも交流人口増加による経済効果の方が大きいと県御用達のシンクタンクが喧伝したことにより、やがてその声は聞かれなくなったのである。
身を切った被爆県
長崎県としても引くに引けない歴史的事情がある。1973年に整備計画が決定したものの、当時の国鉄が採算面に難があるとしてストップをかけた。そこで長崎県は放射能漏れ事故を起こした原子力船むつの佐世保港受け入れを表明。むつは国内のどの港からも寄港を拒まれ、文字通り漂流していた。その受け入れと修理を引き受けることで国に恩を売り、交換条件として長崎ルートの建設推進の約束を取り付ける。長崎県と国間にそうしたやり取りがあったことは高田勇元県知が地元紙のインタビューで認めた。
しかし、長崎県の県都はかつて原爆の惨禍に見舞われた長崎市である。むつの受け入れは奇策どころの話ではない。当然県民からは反対の声が上がったが、それでも長崎県は押し通した。これほどの犠牲を払ってまで、と関係者の思いが6者合意から伺える。
一方、佐賀県の側はまったくやる気がみられない。公式サイトでも6者合意にいっさい触れておらず、すでに有名無実と化した3者合意を説明するページのリンクが張られたままになっている。何としても全線フル規格化を果たしたい長崎県は必死だ。実は国の整備計画には「長崎ルート」と記載されている。しかし、長崎県は一貫して「西九州ルート」という呼称に固執し、地元メディアが長崎ルートと報じることすら許さない。長崎ルートでは”長崎の新幹線”と印象付けられてしまう。そうではなく佐賀も通るから西九州ルートなのだと強弁する長崎県の姿には、痛々しさすら漂っていた。
(つづく)
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