2024年11月25日( 月 )

トランプ指名で、今後のアメリカ大統領選挙はどうなるのか?(4)

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副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦

 以上のような「疑惑」について、トランプは厳しく追求してくるだろう。トランプは、自分のライバル候補を小馬鹿にしたようなニックネームを付けて、遊説で聴衆の前で罵倒するのがうまい。クルーズについては「嘘つきテッド」、背の低いルビオ候補については「ちびのマルコ」と容赦がない。
 ヒラリーについては「Crooked Hillary(いかさまヒラリー)」と、すでに命名済みだ。副大統領候補と予想されているウォレン上院議員にも、トランプはすでに「間抜けウォレン」(Goofy Warren)と呼んで、ツイッターで罵倒を開始している。9月に入って本格化する大統領選挙本戦も、相当に荒れることが予測される。

usa2 しかし、この戦略は諸刃の剣だ。トランプは、共和党のウィークポイントであったヒスパニック票の獲得が今のところ見込めない。ヒラリー自身は不人気とは言っても、その不人気を補うエスニック系の副大統領候補を抜擢することで、トランプの攻撃を防ぎきるのではないかと、私は現段階では見ている。

 ただ、ワシントン・ポストによると、ドナルド・トランプが2015年の6月にトランプタワーで出馬表明を行った数日後の世論調査では、トランプの支持率は他の泡沫候補と並ぶわずか「1%」(ブッシュは22%)に過ぎなかった。このとき、彼の圧勝を誰も予測できなかった。
 その後、ヒスパニック系に対する差別的発言や他の候補者に対する罵倒を交えた討論会での振る舞いが大々的に報道されるや否や、リアリティテレビショーの人気者のトランプの「政治家」としての人気もうなぎ登りに上がっていった。トランプが予想もしないような選挙戦術で、ヒラリーを追い詰めることは考えられる。
 前々回、名前を挙げたギングリッチは、夫のビル・クリントン大統領の不倫スキャンダル追及の急先鋒だったベテラン政治家だ。「ヒラリーを潰せ」で共和党が団結するには、ギングリッチ副大統領候補という選択もないわけではないだろう。トランプの周りの非公式のアドバイザーには、ニクソン政権時代から政治の世界に関わっている政治のプロもいる。思った以上に、共和党が亀裂を回避する動きに出てきているのも注意しておくべきところだ。愛娘の夫ジャレッド・クシュナーは、ニュージャージー州の不動産業者で、ニューヨークの地元紙を買収したユダヤ系の財界人だ。

 たしかに今の段階での選挙予測では、トランプがヒラリーに大きく負ける予想になっている。しかし、政治の世界は一寸先が闇とも言われる。トランプの勝利を、1年前の今の段階では誰も予想できなかった。

 米主流メディアの政治コラムニストたちは、「なぜ私は予測を間違ったのか」という自問自答を始めている。トランプは「ニューヨーク・タイムズ」で4月初めにインタビューを受けたとき、「アメリカの大統領にとって重要なのは、相手に自分の行動を予測させないことだ。私は自分が本当は何を考えているかを彼らに知られたくない」と述べ、アメリカの伝統的な民主主義と開放性によって、敵と同盟国に自国の外交政策を予想しやすくしてしまっているのは問題があると指摘している。同じような考えを持っていたのが、ニクソン・ショックで知られる共和党のリチャード・ニクソンだという。
 だから、今の段階で安易に「トランプはヒラリーに勝てない」と、誰もが断言しづらくなっている。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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